affluentが「体験価値創出」で描く次の一手。100万件超の富裕層リストで挑むBtoC拡大
富裕層マーケティング会社として、ハイエンドマガジン『AFFLUENT』を軸に、宛名付きDM事業や市場分析サービスを手掛ける株式会社affluent。2020年に大手フリーペーパー上場会社からスピンアウトし創業したこの企業は、独自に構築した100万件超の富裕層リストを武器に急成長を遂げている。そして今、企業向けBtoB事業に加え、読者と直接つながるBtoC事業領域への挑戦をしている。本部長 兼 『AFFLUENT』編集長・森正太郎氏が描く、体験価値創出を軸としたBtoC拡大の事業構想に迫る。

「ばらまき」からの決別 富裕層特化メディアの誕生
フリーペーパー全盛期、広告業界では半径数キロ圏内の5万世帯をカバーするポスティングなど、量でリーチを稼ぐモデルが主流だった。しかし森氏は前職の大手フリーペーパー上場会社時代に不動産事業を担当する中で、このビジネスモデルの限界を肌で感じていた。
「都心であればあるほど競合も多く、情報が飽和する中で、広範囲に配布する手法ではデジタルに勝てません。徐々に反響が取れなくなっていきました。特にホットペッパー等のポータルサイトが台頭し、デジタル上で『必要な人に必要な分だけ届ける』モデルが主流となり、変革の必要性をより強く感じていました」。
このような情報産業の構造変革を好機として捉え、森氏は『AFFLUENT』の配布インフラを大転換した。折込やポスティングから、タワーマンション居住者を中心とした富裕層への宛名付きDMへシフト、ターゲットを絞り込み確実に届けるデジタル広告の思想をオフラインで実現した瞬間だった。
約100万件超の富裕層リスト 細分化が生む圧倒的優位性
affluentの最大の競争優位性は、独自に構築した100万件超の富裕層データベースにある。何より特筆すべきは、そのセグメント精度の高さだ。職業、ライフスタイル、居住地といった軸で極めて細かいターゲティングが可能なのである。
「例えば『港区の歯科医だけ』『このマンションだけ』『年商いくら以上の会社だけ』『何平米の家に住んでいる人だけ』といった、細かいセグメント分類が可能です。
当初、社内では『細かくすればするほど配布部数が減り、広告主にも影響が出て売上が下がるのではないか』という懸念もありましたが、読者ニーズに応える設計を優先したわけです。数よりも、広告主が本当に望む層に届けることにこそ価値があると確信していました」。
結果、広告主はもちろん、読者からも多くの支持を獲得した。必要十分なターゲティングと読者からの信頼こそが、広告主にとっての真の価値であったのだ。


宛名付きDMが伸びる理由 オフラインの「手堅さ」
デジタル広告全盛の時代にあって、affluentのDM事業は急伸している。その背景には、富裕層マーケティング特有の事情があるという。
「富裕層は比較的高齢の割合が高く、例えば50代以上をターゲットとする場合、紙のタッチポイントが極めて有効です。年齢が上がるに連れ主体的に検索をする頻度が下がっていく傾向にあります。富裕層に対しては、自ら検索するという行動が必要なウェブ広告よりも、自発的に探さずとも目に入るオフラインメディアの方がむしろ有効なことも多いのです」。
雑誌『AFFLUENT』は閲読率79%。「affluentからの送付」という信頼が、この数字を支えている。デジタルだけでは動かない、到達できない、クロスメディア戦略こそが、富裕層マーケティングの鍵なのである。
BtoC事業の拡大 「体験価値創出」という新戦略
affluentは今、大きな転換期を迎えている。企業向けのBtoB事業で培った富裕層リストを活かし、読者に直接寄り添うBtoC事業へと領域を拡大しようとしているのだ。きっかけは、読者との座談会を重ねる中で気づいた、富裕層の本質的なニーズだったという。
「富裕層の方は、仲間を増やしたい、コミュニティに参加したい、という欲求を持っている方が多かったのです。モノをはじめ『お金で買える価値』については、すでに満たされている方が多いです。それ以上に、誰と、どのような体験をするか、という『体験価値』こそが、彼らの求める本質だったのです」。
2025年12月、affluentは創刊以来初の読者パーティーを開催した。「こういうコミュニティに初めて参加した」「ぜひまた企画してほしい」といった読者からの喜びの声が相次いだという。
「読者パーティー開催後、多くの企業から連携提案が殺到しました。酒造メーカーや現代アート、茶道や華道といった伝統文化を扱う企業からの相談に加え、直近では高級飲食店専門雑誌と連携し、読者に予約困難店の予約枠を提供する取り組みが進行しています」。
富裕層リストの先にいる読者へと目を向けたことで、affluentの事業は更なる可能性を見出している。

「富裕層のことならaffluent」 長期構想とインバウンド展開
中長期的には、affluentは富裕層マーケティングの総合プラットフォームを目指しているという。
「最近では、メーカーから『富裕層向けの高価格帯商品を作りたいが、どう設計すべきか』といった相談が増えています。商品開発の段階から関わり、富裕層の嗜好データを活かして支援する構想があります。また、インバウンド富裕層マーケティングにも視野を広げています。海外の富裕層が日本でお金を落とす場所は、およそ旅前の情報で決まります。例えば、とあるラーメン屋さんの前に外国人が行列をなすのは、旅前にそのお店がおいしいと紹介されているからであり、その場で決めるわけではありません。良質なコンテンツと優れたサービスを持つ顧客企業を紹介する、海外の富裕層向けプラットフォームの展開も考えていきたいです」。
不動産、旅館、クリニックなど、同社の顧客の多くがすでにインバウンド比率を高めている。その支援を旅行代理店などとのアライアンスを通じて本格化させる構想だ。目指すは「富裕層のことならaffluent」といった立ち位置である。
環境変化に適応し続ける 変化を前提とした経営哲学
森氏には明確な経営哲学がある。「1つのビジネスモデルは必ず終わりを迎える」というものだ。
「前職ではフリーペーパーで上場し全盛期を迎えましたが、その後苦境に立たされました。広告業界は事業環境の移り変わりが激しいです。だからこそ今のビジネスモデルがいつか終わることを前提に、ネガティブな仮説を立てつつ、常に次の事業を複数スタートさせることが重要です。affluentは広告主のニーズはもちろん、富裕層の本質的な需要を常にキャッチしながら、新しいビジネスモデルに『チャレンジし続ける』精神を大事にしています」。
変化への適応を可能にするのは、同社が重視する「チャレンジし続ける」精神と、ステークホルダーの求める「本質的価値の探究を続ける」姿勢だ。終わりを前提に次を始める。この先見性は、VUCAの時代を生きるすべての企業が備えるべき羅針盤であり、参考にされたい。

株式会社affluent 本部長 兼 『AFFLUENT』編集長
森 正太郎
アパレル業界から大手フリーペーパー上場会社へ転職。エリアマーケティングを始め教育・不動産・リフォーム業界など様々な分野を担当。電通・博報堂といった大手広告代理店担当を歴任した後、富裕層メディア『AFFLUENT』の事業責任者に就任。2020年に株式会社affluent設立に携わり、富裕層のインフラ拡大や商品設計、メディアやイベント運営、新規事業開発等に従事。また人事やアライアンス関連、セミナー講師など、業務は多岐にわたる。
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