バリューチェーンの強靭化で 多様化する世界のニーズに迅速に対応

創業から110年以上の歴史を経て、水産から食品加工、ファインケミカル、物流と幅広い領域へ事業を拡大してきたニッスイ。世界中に約100社のグループ企業を擁する企業へと発展を遂げた。2027年までの中期経営計画「GOOD FOODS Recipe2」では、養殖事業の高度化と食品のグローバル展開強化を掲げる。

田中 輝(ニッスイ 代表取締役 社長執行役員)

世界中の食卓へ笑顔を
漁業から養殖へ、大きな転換

1911年、一隻の漁船を建造しトロール漁業に着手したことから始まった、ニッスイ。「海洋資源からの価値創造」を原点に、水産事業を基盤に食品、ファインケミカルへと事業領域を広げ、海に根差した多様な事業ポートフォリオを構築してきた。

同社の企業理念は「水の水道におけるは、水産物の生産配給における理想である」から始まる。世界各地で海洋資源へのアクセスを確保し、できるだけ新鮮な状態で蓄え、水道インフラのように、世界各市場の需要に応じた安定供給の実現を目指してきた。

同社社長の田中輝氏は「原材料の調達から加工、開発(R&D)、流通・販売まで、バリューチェーン全体で価値をつけながら、最終的には『世界中の食卓に笑顔をお届けする』『生活者の幸せにつなげる』ことを目標に、創業から事業を続けてきました」と説明する。

現在では、世界中に約100社のグループ会社を擁し、世界の資源と食卓を結ぶ「グローバルリンクス」とそれぞれの国・地域の多様な機能を結びつける「ローカルリンクス」で構成する「ニッスイグローバルリンクス」を強みに、世界中へ付加価値の高い食品を提供している。

同社の転換点の一つとなったのは、200カイリ規制後も細々と続いていた遠洋漁業が、1988年の北洋サケマス漁の全面禁止で終了したことだった。サケマス母船式漁業から撤退した後も同社が水産物の安定供給のために選んだのが養殖事業だった。南米・チリのサーモンの養殖会社を国際入札で取得し、漁業から養殖・加工を担う企業への大きな転換を図った。

企業としての転換点である1988年に入社した田中氏は、2005年、40歳でチリへ赴任し、それまで赤字で苦しんできた養殖会社を軌道に乗せた経験を持つ。

「漁業で、海から魚を獲れば誰でも買ってくれた時代から、養殖で魚を自ら育て、マーケティングしながら販売していく時代へ。最初の大きな転換期に入社したこと、チリでのマネジメントを経験したことは、発想の転換や柔軟なコミュニケーション、グローバルな視野を養う大きな学びとなりました」。

食品事業はグローバルサウスに注目
サステナブルな養殖事業も目指す

長期ビジョン「GOOD FOODS 2030」では、2030年にありたい姿として「人にも地球にもやさしい食を世界にお届けするリーディングカンパニー」を掲げている。

その実現へ向けた第2ステップとなる2025~27年度の中期経営計画「GOOD FOODS Recipe2」では、不確実な環境変化に柔軟かつ迅速に対応できるバリューチェーンの強靭化を基軸に、事業ポートフォリオ強化、サステナビリティ経営の深化、ガバナンス強化の3つの基本戦略を推進する。

事業ポートフォリオ強化では、食品事業のグローバル展開を加速する。同社ではこれまで、米国の家庭用水産調理冷凍食品カテゴリーにおいてトップシェアを持つ米Gorton's社やエビを中心とする業務用食品メーカーの米King & Prince Seafood社、欧州のチルド白身魚フライでシェアNO.1の仏Cité Marine社(シテ・マリン社)などをグループ化。シナジーを考えながら投資を進め、特に水産フライ類のグループ売上金額は、世界No.1に成長した。

「現在約43%のグループの海外所在地売上高比率を、50%まで引き上げていきたいと考えています。そのために、人口が増加するアジアに加え、中南米(ブラジル、メキシコなど)、中東、アフリカを含めたグローバルサウスを重視し、市場や流通、パートナー会社について調査を進めているところです」。

一方、水産業では、天然資源が減少傾向にある中で、養殖事業がキーになっていく。

「環境に配慮し、天然資源を維持しつつ、生産量をコントロールできる養殖に力を入れ、世界中の需要を満たしていきたいと考えています」。

同社の手掛ける「黒瀬ぶり」では、天然の稚魚を採捕せず、自社で養殖した魚から生まれた卵を稚魚から成魚へと育て、さらに産卵させる完全養殖を行っている。親となる魚を個別に管理し、優良な形質同士の交配を行うとともに、成熟の制御技術を確立することで一年を通じて良質なブリを安定供給している。

ブランド化を進める「黒瀬ぶり」は、飼育魚から人工的に採卵・育成した成魚から、さらに採卵・育成する「完全養殖」を実現した

「自然環境に負荷を与えず、循環して生産できるサステナブルな養殖事業の実現を目指していきます」。

そのほか、海外でサーモン類、国内各地ではサーモン類やクロマグロなどを養殖している。これらの魚種の生産量拡大とあわせて、新規魚種の養殖にも挑戦している。

「まだ研究開発の段階ですが、『黒瀬ぶり』の養殖技術を活かし、日本の食文化で重要なニホンウナギの完全養殖事業化にチャレンジしています」。

人財育成は、習うより慣れろ
次の100年へ、事業基盤を築く

「GOOD FOODS Recipe2」では、人的資本経営を重要テーマの一つに位置づけている。専門性の強化、多様性の推進、自律的な挑戦を促す風土づくり、次世代リーダー育成などを重視し、多面的な施策を展開。働き方の柔軟性向上、研修体系・資格制度の整備、女性活躍の促進、海外人財の登用などに取り組む。なかでも、海外展開の強化にあたり、グローバル人財の確保、育成は喫緊の課題だ。

「グローバルな視点と幅広い視野を併せ持つ人財が必要です。そのために、会社としては多種多様な機会やミッションをいかに提供できるかが重要だと考えています。一人ひとりの個性に応じて機会と役割を付与し、最後は“習うより慣れろ”で、実践を通じて学ぶ機会をどれだけ用意できるかがカギとなると思います」。

2030年へ向けては、サステナビリティ経営を軸に、海洋資源の安定供給、養殖事業の高度化と食品の高付加価値化、新素材・機能性分野の強化、海外事業の成長を重点的に推進し、経済的価値と環境・社会価値の両立による持続的な成長を追求していく。

「2026年は、食品事業のグローバル展開と養殖事業の高度化に注力し、中計で掲げた施策を着実に進めるとともに、次期中計の在り方についても検討を深めていきたいと考えています」。

長い歴史のなかで、ピンチのたびに新しい事業、新しい道を切り拓いてきたニッスイ。

「創業以来のアントレプレナー精神をもって、不確実性の高い時代において未来を切り拓く力を発揮する。次の100年へ向けた事業基盤を築いていきます」。

食品事業では、家庭用・業務用の様々な食品を取りそろえる。ファイケミカル事業では、魚油由来の必須脂肪酸EPA・DHAを機能性素材として生産・供給・販売している

 

田中 輝(たなか・てる)
ニッスイ 代表取締役 社長執行役員