初の抜本的改正 国家公務員等の旅費制度改正の3つのポイント
国家公務員等が出張等をする際の旅費の支給規定を改定した改正旅費法が2025年4月に施行された。1950年の制定から75年目にして初の抜本的改正で、当事者のみならず、企業等からも大きな注目を集めている。改正のポイントや今後の展望について、財務省主計局給与共済課の小谷陽氏に話を聞いた。
時代の変化に対応するため
75年目に旅費法を改正

小谷 陽(財務省主計局 給与共済課 課長補佐)
国家公務員等の旅費に関する法律(旅費法)は1950年(昭和25年)に制定されたもので、今回が初の抜本的改正となる。改正の最大の理由は、「国内外の経済社会情勢の変化に対応するため」だと財務省主計局給与共済課の小谷陽課長補佐は語る。
「旅費は、旅行者が支出した実費額を弁償することが原則です。しかし、旧旅費法は、制定された昭和25年当時の実情に照らして、証拠資料確保の困難や行政事務の簡素化の要求等から、宿泊料を含めた多くの旅費種目について、標準的な実費額を基礎とした定額を支給することとしていました。このような中で、近年はインバウンドの増加や為替・物価の変動により、宿泊料が定額を超過する事例が増加しました。また、旅費制度の例外的な取扱いが増加し、執行ルールが複雑化したことで、旅費支給事務に長く携わる職員にも非常にわかりにくいものになってきていました」
旧旅費法は、「デジタル化の進展」「旅行商品や販売方法の多様化」「交通機関・料金体系の多様化」「海外の宿泊料金の変動」などの経済社会情勢の変化に対応できていない面があり、法令と実態の乖離が大きくなっていたという。
また、テレワーク等の柔軟な働き方による出張実態の変化を制度に反映させつつ、職員の負担軽減・業務効率化を図る必要もあったため、今回の改正に至った。
改正旅費法における
3つのポイント
改正旅費法の変更点は、主に3つある。「旅費の計算等に係る規定の簡素化」「旅費の支給対象の見直し」「国費の適正な支出の確保」だ(図)。1つ目の「旅費の計算等に係る規定の簡素化」においては、旅費の種類及び内容に係る規定を簡素化した。
図 改正旅費法の3つのポイント

出典:財務省
「旧旅費法は、旅費の種類や内容の詳細を法律で規定していましたが、旅費は実費弁償であり、必ずしも給与のように法律で詳細を規定する必要はありません。そこで、旅費の種類や内容に係る技術的事項を政省令に委任し、適時・適切に時代の変化に対応できる体系に変えることが適当と考え、改正旅費法では第6条において、旅費の種類及び内容は実費を弁償するためのものと定めた上で、詳細は政省令で規定することとしました。これに伴い、元々第48条まであった法律が第12条までとなりました」
また、デジタル化の進展を踏まえて、書面での手続を想定して規定されていた旅行命令簿等及び旅費請求書の様式を廃止した。今後は、旅費法令の様式にとらわれず、柔軟なシステム開発が行われることが期待される。
2つ目の「旅費の支給対象の見直し」においては、出張や勤務の実態に応じて、自宅発の出張に係る旅費の支給を可能とした。旅費法の制定当時は、官署以外で勤務することが想定されておらず、出張は、職員が勤務をする官署から出発することが前提だった。そのため、自宅から出発する場合は、官署から出発する場合の旅費が支給額の上限となっていた。しかし、近年では自宅発による出張も多く見られ、テレワークも普及してきたため、出張の定義を改め、自宅等から出発する場合の旅費を支給することとした。
「さらに、旅行者に対する旅費の支給に代えて、旅行代理店等に対する直接の支払を可能としました。旧旅費法では、旅行代理店等の活用が想定されておらず、原則、旅行した職員本人のみが旅費の請求主体・受給対象とされていました。しかし、実際の運用においては旅行代理店等を活用しつつ旅費の代理受領を認めており、また職員による立替えをなくし、事務負担軽減を図るためにも、旅行代理店等の活用を拡大することにしました。今後は、国と旅行役務提供契約を締結した旅行代理店等が、旅費に相当する金額を直接請求・受給できるようになります」
3つ目の「国費の適正な支出の確保」においては、旅費法令の規定に違反して旅費を受給した旅行者等に対して旅費の返納を求めるとともに、旅行者の給与等からの控除を可能とする規定を新設した。
「今回の改正では、宿泊料等を実費支給としたことで旅行の実態に即した旅費の支給が可能となる一方、一定程度自由度が増すことから、より一層、適切な支給を担保していく必要があります。そのため、旅費の返納と控除についての規定を新設しました。不正受給の抑止とともに、仮に不正受給が発生した場合には厳格に対処することを想定しています。また、旅費法の適正な執行を確保するため、財務大臣による各庁の長に対する監督規定も新設しました。こうした仕組みの導入により、旅費の不正防止・冗費節約を図り、国費の適正な支出を確保していきます」
旅費制度を参考にする自治体や
公法人からも多くの問い合わせが
今回の旅費法改正に当たり、財務省は1つ1つの規定を細かく見直して丁寧に作り上げてきたが、現場の人々から特に注目が集まったのは、上限付き実費支給方式とした宿泊費の上限額だったという。
「旅費法令上は『宿泊費基準額』になりますが、この金額をどのような水準に設定すべきかは、今回の改正に当たり、最も難しい論点の一つでした。様々な検討の結果、都道府県や外国の都市ごとに、ビジネス目的で利用された宿泊先・宿泊費・泊数等の実勢データを調査し、その結果等を踏まえて設定しました。なお、宿泊費基準額はその時々の経済社会情勢に合わせて設定していく必要があることから、毎年実勢データの調査を行い、その結果を踏まえて適時・適切に見直していくこととしています」
また、抜本的な見直しということもあり、直接適用される各府省等やその地方支分部局だけでなく、国の旅費制度を参考にしている地方自治体や公法人等からも、数多くの問い合わせが寄せられているという。
「国の旅費制度について、一定の関心があることを改めて認識しましたので、今後は財務省ホームページ等を通じて、制度の周知を図っていきたいと考えています」
お問い合わせ先
旅費法改正についての解説を行うウェビナーを2025年6月11日(水)に実施いたします。
詳細やお申し込みはこちら
https://www.mpd.ac.jp/events/20250611_concur