スポーツで経済を動かすには 経産省スポーツ産業室が語る成長と改革の道筋

(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2025年12月18日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

スポーツ産業の現在地と可能性について探ってきた政策特集「スポーツで経済を熱くする」。

リーグやクラブ、パートナーシップを模索する企業など様々な立場から産業としてのスポーツを取り上げてきた。最終回は、スポーツ産業の海外展開や国内での市場拡大に向けて“旗振り役”を担う経済産業省サービス政策課スポーツ産業室のメンバー檜垣理沙、宮田礼美、寺島遥行、菊島康弘の4人による座談会をお送りする。

スポーツに熱くなるのは試合を見るファンだけではない。様々な道筋を経て今、行政官としてスポーツ産業に関わる4人の思いとは……。

経済産業省サービス政策課スポーツ産業室のメンバー檜垣理沙、宮田礼美、寺島遥行、菊島康弘の4人

「みるスポーツ」に焦点。成長産業化目指し様々な取り組み

――経済産業省のスポーツ産業室とはどのような組織なのですか。

檜垣 2021年に設置された比較的新しい部署で、スポーツ産業の成長産業化がミッションです。世界に比べて日本のスポーツ産業はまだまだ成長途上と言われており、言い換えれば、まだまだポテンシャルを秘めています。現在、スポーツ庁と連携して、遅くとも2030年までに日本のスポーツ産業の市場規模を15兆円に拡大するという目標を掲げ、「スポーツ未来開拓会議」を開催するなど、様々な取り組みを進めてきました。

経済産業省としては、特に「みるスポーツ」に焦点を当て、スポーツリーグ・クラブの海外展開や、スポーツの価値を活用して企業の経営課題や社会課題を解決していく「新しいパートナーシップ」の拡大などを支援しています。また、「エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会」では、「みるスポーツ」をエンタメ・クリエイティブ産業の1分野と位置づけ、成長戦略を議論しています。

加えて、スポーツ庁と共に、全国のモデル事例の選定やガイドブック策定など、「スタジアム・アリーナ改革」に取り組んでいます。これをさらに発展させて、スタジアム・アリーナが地域のシンボルとなって周辺施設やインフラを巻き込み、総合的・複合的なまちづくりを目指すスポーツコンプレックスを推進しています。

私はこれまで、近畿経済産業局で中小企業の海外展開支援などの業務にあたり、本省では通商政策やエネルギー政策などに携わってきました。スポーツ産業室の業務は、スポーツを産業と捉え、他分野の企業・産業を巻き込み、その裾野と規模を広げていくとともに、地域に根ざしたクラブの発展を通じて地方創生にも寄与するものです。これまで培ってきた経験や知見を生かし、少しでも業界の発展に貢献したいと思いながら取り組んでいます。

檜垣理沙(ひがき・りさ) 経済産業省スポーツ産業室室長補佐。近畿経済産業局で中小企業支援や環境・省エネ分野の海外展開等に従事した後、経産省本省で通商政策(米国、欧州・ロシア)、エネルギー(原子力、石油・LNG)や生活製品産業(国際関係)等を担当。2025年5月より現職
檜垣理沙(ひがき・りさ) 経済産業省スポーツ産業室室長補佐。近畿経済産業局で中小企業支援や環境・省エネ分野の海外展開等に従事した後、経産省本省で通商政策(米国、欧州・ロシア)、エネルギー(原子力、石油・LNG)や生活製品産業(国際関係)等を担当。2025年5月より現職

民間企業から地方自治体から――。多様な視点でスポーツと向き合う

――スポーツ産業室には多様なバックボーンのメンバーがいるとうかがいました。

宮田 私は全国でフィットネスクラブを運営している「セントラルスポーツ」から官民交流で出向しています。セントラルスポーツは、「0歳から一生涯の健康づくりに貢献する」という経営理念の下、主体となるフィットネスクラブ運営だけでなくスクール事業、介護予防事業、レジャー事業など様々な事業を展開しており、将来的なウェルネス社会の実現というところを目標に掲げています。

ソウルオリンピックで金メダルを獲得し、初代スポーツ庁長官も務めた鈴木大地さんや体操の橋本大輝選手や萱和磨選手など、所属しているトップ選手と接する中で「みるスポーツ」という側面も意識してきました。また、私は人事部や店長として勤務する中でインストラクターという職業の地位向上を目指し、人材育成にも力を入れてきました。官民交流で、これまで民間企業という立場からは見えてこなかったスポーツの側面について考える機会をいただいています。

宮田礼美(みやた・れみ) 経済産業省スポーツ産業室係長。2010年、セントラルスポーツ入社。2年間店舗でのインストラクター業務を経験後、本社人事部に配属。育休取得後副店長として現場復帰。2021年、店長に昇格。2025年7月より経済産業省出向・現職
宮田礼美(みやた・れみ) 経済産業省スポーツ産業室係長。2010年、セントラルスポーツ入社。2年間店舗でのインストラクター業務を経験後、本社人事部に配属。育休取得後副店長として現場復帰。2021年、店長に昇格。2025年7月より経済産業省出向・現職

寺島 長野市役所から行政事務研修員という形で経済産業省に出向しています。長野市は1998年(平成10)の冬季オリンピック開催地であり、市長はオリンピックやワールドカップで優勝した荻原健司さんです。「健幸増進都市ながの」というフレーズを掲げ、各種施策を推進しており、その意味では、他の自治体と比べてもスポーツに対する感度は高いと思います。

長野市としては、オリンピックの競技会場となった公共施設をまちづくりの拠点として、今後どのように活用していくかが重要であると考えています。また、長野市では2028年に50年ぶりの「全国国民スポーツ大会」「全国障害者スポーツ大会」(信州やまなみ国スポ)の開催も決定しており、専門部署もつくられて準備が進められるなど、時期的にもスポーツの機運が高まっています。

菊島 私も官民交流で「関彰商事」から出向しています。元々は石油製品の販売、ガソリンスタンドの運営からスタートした会社で、自動車ディーラー、オフィス什器の販売、コンビニエンスストアの運営など、茨城県を中心に幅広く地域を支える企業として成長してきました。メーカーなどと違ってオリジナルの商品、サービスが少ないところが課題だった中で、新たな事業の一つの柱として立てたのがスポーツ事業です。筑波大学と連携協定を結び、映像解析技術を活用して、動作分析に基づく野球指導を行うサービスを提供する「Invictus Sports」を5月に設立しました。また、地域の子供を対象としたスポーツの体験会や運動教室を開催し、茨城県のいくつかの自治体とは部活動の地域展開についての協議も進めています。

海外展開支援、新しいパートナーシップの創出、人材育成……

――実際にはどのような日々、どのような仕事をしているのですか。

寺島 日本のスポーツリーグ・クラブが海外に進出していくにあたり、現在、主要ターゲットとしているのは東南アジアを中心とするアジア地域です。その対象国の消費者は日常的にどのようにスポーツと接しているのか、どんな媒体でスポーツを観戦しているのか。また、現地企業はどんなクラブになら出資や放映権獲得の意欲を持つのか。日本のスポーツ市場をどう評価しているのか。このような情報を戦略的な海外展開に役立ててもらうことを目的に、対象国の消費者へのアンケートや企業へのヒアリングを通して調査しています。

2025年度はタイ、インドネシア、フィリピン、台湾の4か国・地域を対象とし、調査レポートの作成を進めるとともに、スポーツリーグ・クラブのニーズを基に、タイ・バンコクで初めてのビジネスマッチングイベントを開催しました。日本からJリーグ、SVリーグを中心に約20団体に参加いただき、現地の企業・団体との意見交換の場を設定しました。このイベントをきっかけに、クラブと現地企業の間で、具体的な協業に向けた話も進んでいると聞いています。

親元の長野市でも、サッカーやバスケットボールなどのスポーツクラブと行政や企業が共同で、色々なイベントを開催しています。経済産業省での経験を基に、いずれはスポーツを中心に様々なパートナーシップづくりを進める。そんな仕事を担えればと思っています。

寺島遥行(てらしま・はるゆき) 経済産業省教育産業室/スポーツ産業室係長。2020年、長野市入庁。福祉部局で公共施設の管理運営や高齢者の健康増進を目的としたイベント企画などに従事。2024年より経済産業省出向・現職
寺島遥行(てらしま・はるゆき) 経済産業省教育産業室/スポーツ産業室係長。2020年、長野市入庁。福祉部局で公共施設の管理運営や高齢者の健康増進を目的としたイベント企画などに従事。2024年より経済産業省出向・現職

宮田 私は、日本のスポーツリーグ・クラブの海外展開の支援事業を担当しています。世界における価値向上を目指し、例えば日本のスポーツクラブが海外に行って親善試合やファン交流イベントを開催したり、インバウンドの拡大を目指し、海外のインフルエンサーを招いて、国内のスポーツリーグをPRする事業を行ったり、海外向けにコンテンツをローカライズする事業を支援したりしています。

また、企業との新しいパートナーシップの創出にも取り組んでいます。これまでのお金を出して、名前を出してもらうといった露出型のスポンサーシップの形から発展させて、企業の課題や社会課題を解決するためにスポーツをどのように活用していくのか、スポーツリーグ・クラブとパートナー企業の双方がWin-Winの関係となってスポーツを盛り上げていけるような、そんな新たなパートナーシップを創出していくための広報事業を進めています。

フィットネスクラブでの勤務が原点ということもあり、まずは体を動かすところから健康というものを見ていたのですが、スポーツを見ることも健康につながることに改めて気づかされました。スポーツの価値とは何なのかと視野を広げて考えることで、サステナブルなウェルネス社会の実現に貢献していきたいと思います。

菊島 スポーツリーグ・クラブは、競技力の向上とともに経営力強化に取り組むことも重要だと思います。リーグやクラブが事業経営を強化していくため、人材育成に寄与する事業に取り組んでいます。2026年2月には経営層向けに、海外視察プログラムを実施する予定です。米国のスポーツビジネス経営について学ぶため現地ロサンゼルスの様々な団体・施設を訪問し、クラブ経営、マーケティングやチケッティング、スタジアム・アリーナの運営などを視察し意見交換を行う内容となっており、その知見を経営に生かしていただくことを目的にしています。

国内のスポーツクラブを見ていると、資金も情報も少ない中、情熱をもった個人の熱量を頼りに、なんとか続いているといった状況のクラブもあると感じています。経済を回すためのファクターの一つとして、スポーツビジネスに関わる人材育成を支援していく必要があると感じています。

檜垣 経産省職員の私にとって、省庁とは全く違う視点や発想を持っている多彩なメンバーの存在は大変心強い存在であり、皆で知恵を出し合って日々取り組んでいます。日本は高い競技力など多くの潜在力を持ちながら、資金循環の仕組みは発展途上と感じます。米MLBや英プレミアリーグのように、持続的に資金を獲得し循環させていくビジネスモデルの構築が必要だと感じています。私自身、これまでスポーツとの接点が多かったわけではないライトファンでしたが、この部署に来てから、「みるスポーツ」は単なる観戦という枠を超え、エンターテインメントとしてもこんなに魅力があることを知りました。このようなライトファン層をさらに取り込んで感動を与えるとともに、ビジネスとしても拡大していけるポテンシャルも秘めています。今はまだスポーツとの関係が薄い分野も含め、様々なステークホルダーを巻き込み、もっともっと広がりのある産業になっていけるよう、我々も取り組んでいきたいと思っています。

地方都市での集客、経営人材の不足、女性活用など山積する課題

――皆さんの目から見て、国内のスポーツ産業の課題はどんなところでしょう。

菊島 球団が大都市圏に本拠地を置いていることもあって、プロ野球の試合にはたくさんの観客が訪れます。しかし、他のプロスポーツについては、特に地方都市をホームにしているチームは集客に苦労しているケースもあります。仕事終わりにスタジアムやアリーナに足を運ぶといったように、日常生活の中に「みるスポーツ」が組み込まれていくよう、努力を続ける必要があると思います。

菊島康弘(きくしま・やすひろ) 経済産業省スポーツ産業室係員。2022年、関彰商事入社。モビリティ総合企画部で自動車販売店舗の販促企画や自治体と連携した実証事業などに従事。2025年4月より経済産業省出向・現職
菊島康弘(きくしま・やすひろ) 経済産業省スポーツ産業室係員。2022年、関彰商事入社。モビリティ総合企画部で自動車販売店舗の販促企画や自治体と連携した実証事業などに従事。2025年4月より経済産業省出向・現職

寺島 先程、私の親元である長野市はスポーツに関する感度が高い自治体だという話をしました。それと矛盾する部分もあるのですが、長野市は中核都市で、政令指定都市に比べると規模も小さく、市内で活動するプロスポーツクラブも人材がまだ不足しているということを経済産業省に出向して実感しました。

スポーツ産業室としても、そこに課題を感じ、スポーツリーグ・クラブの人材育成を支援する事業を展開しているわけですが、私自身も自治体から経済産業省に出向してきているように自治体やパートナーシップを結ぶ企業からの人材がクラブに入っていくということが、もっとあっても良いと思います。逆にクラブから自治体や企業に人を派遣することもあっていい。双方向で人材交流が必要だと考えます。

宮田 スポーツクラブのトップや経営者の方々はまだまだ男性が非常に多い気がします。スポーツが好きで仕事にされたという方が多いということかもしれません。ただ、たくさんの女性がスポーツを見たり、楽しんだりしています。

他の産業も含めた国としての課題でもありますが、もっと女性の目線や意見がスポーツ産業の中で取り上げられ、実際に女性が経営側で活躍することが、業界の視野を広げていくことになるのではないでしょうか。

各クラブが持つノウハウ共有を。外需獲得も不可欠

様々なバックボーンを持ったメンバーがそれぞれの視点を生かしながら、スポーツの価値に光を当てる
様々なバックボーンを持ったメンバーがそれぞれの視点を生かしながら、スポーツの価値に光を当てる

――日本のスポーツ産業のポテンシャルを引き出すためには、何が必要でしょうか。

宮田 今、新しいスタジアム・アリーナが各地に誕生しています。そうした施設をうまく活用するノウハウを持った経営者の方々がいらして、経験や知識を結集して、自治体などと協力し、地域全体を盛り上げています。こうした方々が持っているノウハウは、他の地域にも応用できるものがたくさんあると思いますが、現状、まだその情報共有や横展開が不十分な側面もあると感じています。

そこにしっかりと横串を刺して、広げていくのが国の役割だと思います。先進的な事例があった時、「これは、うちではできない」ではなく、しっかりと分析して、「こういう形にすれば、うちでもできる」としていくことが必要です。クラブの持つ、隠れていたポテンシャルを引き出すことこそ、私たちがやるべきことだと考えています。

寺島 スポーツは様々な人たちを巻き込むプラットフォームになり得ると強く感じます。これまでスポーツ産業を育ててきた方々に加えて、新しい人たちをどんどん巻き込んでいくことが大事だと思いますし、私も視野を広く持って、関わっていきたいと思っています。

菊島 日本のプロスポーツはほとんどが海外から入ってきたものです。それぞれ、国内でブラッシュアップされて、ここまでに育ってきました。そうした経験やノウハウは日本にとって一つの財産だと思います。私自身、まだまだ知らないところで、実は世界的に見ても進んでいる部分もあるのではないかと思います。しっかりと、足元を見つめ直して、私たちも施策を考え、進めていく必要があると感じます。

檜垣 日本のスポーツや選手の魅力を、これまで十分に知られてこなかった国内外の人々にもっと知ってもらうことも必要です。日本の漫画やアニメは海外で高い人気を誇っており、エンタメ分野との掛け合わせも非常に有効な手段になり得ます。国内で人気が高いほど海外へ目を向けにくい傾向はありますが、少子高齢化が進む日本において外需の獲得は、スポーツ産業にとっても不可欠であり、インバウンド需要が拡大している今こそ大きなチャンスです。

例えば、大谷選手が活躍することで、日本人が米国のMLBに関心を寄せるように、海外の有名選手が日本のリーグで活躍することで、海外ファンの拡大にも繋がります。すでにBリーグやSVリーグはアジア枠を拡大し、積極的に取り組みを進めています。世界の選手が「日本のリーグでプレーしたい」と憧れるような環境づくりも極めて重要であり、日本のプロスポーツには、そんな未来があると信じています。

スポーツ産業は、多様なステークホルダーや他産業との融合によって、さらなる成長と拡大の可能性を秘めています。スポーツ産業室には、異なるバックボーンを持つメンバーが集まり、それぞれの視点を活かして取り組んでいます。役所の中でも珍しいこの組織の特性を生かして、これからもスポーツ産業の発展に向き合っていきたいと思います。

元記事へのリンクはこちら

METI Journal オンライン
METI Journal オンライン