理念・組織・事業を刷新 水道機工、100周年から始まる新たな挑戦

1924年創業、日本の水道水の5割以上を支える水処理プラントメーカー・水道機工。2024年に創業100周年を迎えた同社は、新たな企業理念を掲げ、次の時代に向けた変革を加速させている。子会社との組織融合、新領域への挑戦——。東レから転じ、改革を牽引する代表取締役社長・古川徹氏に、老舗企業の進化の構想を聞いた。

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古川 徹(水道機工株式会社・代表取締役社長)

100周年を機に企業理念を刷新

「人と地球をつなぐ」新たな使命

水道機工は、上下水道施設の設計・施工から運転管理、メンテナンスまでを手がける水処理の総合エンジニアリング企業である。1924年にドイツ製水処理機械の輸入商として創業し、戦後は国産化のパイオニアとして日本の水道インフラ整備を支えてきた。2004年に東レグループ入りし、現在は連結売上高約260億円、従業員約900名を擁する。

古川氏は東レで長年キャリアを積み、2019年に副社長として水道機工に着任、2021年に社長に就任した。着任後、古川氏が真っ先に目を向けたのが企業理念だった。ところが、ホームページの片隅に記載されているだけで、社内で共有されている様子がない。「長い歴史がある会社なのに、もったいない。ここを変えなければと思いました」。100周年が近づく中、経営陣で議論を重ね、2021年6月に新たな企業理念を制定した。

「100年先も人と地球をつなぐ情熱で、笑顔あふれる環境を技術と製品で創造し、社会に貢献します」。この言葉に込めた思いを、古川氏はこう語る。「水道機工という社名ですが、将来も水だけを扱っているかはわからない。だから『水』ではなく『人と地球』という大きな視座で捉えました。同業他社と同じ表現にならないよう、言葉選びには相当こだわりましたね」。

ビジョンには「人」を据えた。「設備が物を作るのではなく、人がプラントを作って社会に貢献する。そういう人があふれれば、長く残る企業になれる。そう強く思っています」。策定後は従業員とのグループディスカッションを重ね、理念の浸透を図っている。

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社長室にも飾られている水道機工グループの新たな企業理念とVISION

全国の浄水場に届く信頼

事業を支える一貫体制と製品力

東レから転じた古川氏は、外からの目で水道機工を見つめることができた。グループ会社とはいえ畑違いの業務に携わっていたことが、かえって新鮮な気づきをもたらしたという。「アットホームで、人に優しい。真面目で謙虚に、お客様と向き合っている。いい会社に来たな、と思いました」。

その「良さ」を支えているのが、事業面での明確な強みだ。水道機工は、原水の水質分析から、プロセス設計、機械設備の導入、施工、試運転、運転管理、メンテナンスまで、すべてをグループ内で完結できる一貫体制を持つ。「お客様に『最初から最後までお任せください』と言える。それが我々の強みです」。

製品力も際立つ。長年の歴史で培った製品群は浄水分野で業界随一を誇り、日本全国の浄水場に納入実績がある。「『水道機工です』と名乗れば、浄水場の方には社名が通じる。先人たちが築いてきた財産ですね」。こうした競争優位が、自治体からの厚い信頼につながっている。

官民連携時代に向けて

子会社とのグループ融合を進める

水道事業を取り巻く環境は大きく変わりつつある。全国の自治体では職員の高齢化や人手不足が深刻化し、水道施設の老朽化も進む。こうした中、施設の運転管理やメンテナンスを民間に委託する「官民連携(PPP/PFI)」の動きが加速している。

グループ内で運転管理・メンテナンスを担うのが、子会社の水機テクノスだ。全国約40カ所の浄水場の運営を手がけている。官民連携では建設から運営までの一括対応が求められるため、水道機工との連携強化が課題だった。「同じ本社ビルの2階・3階にテクノス、4階以上に水道機工がいるのに、ネットワークもコミュニケーションツールも別々でした。ここを一つにしなければ、と思いました」と古川氏は振り返る。

融合を進めるため、古川氏は水道機工社長と水機テクノス社長を兼任する体制を敷いた。まず着手したのがコミュニケーション基盤の統一だ。「号令をかけてから2年かかりました。抵抗感はありましたが、これがなければグループとして機能しない」。現在は管理部門の共同運営化、機能別の人材配置と相互出向を進め、基幹システムの統合プロジェクトも進行中だ。

こうした融合の先に見据えるのが、官民連携への本格対応だ。自治体が求めるのは、建設後も長期にわたって施設を支えられるパートナー。「建設して終わりではなく、運転管理・メンテナンスまで一貫して対応する。そうした案件にグループ一体で応えられる体制が、ようやく整いつつあります」。

グループの総合力は、社会課題への対応でも発揮されている。近年、健康リスクが指摘される有機フッ素化合物「PFAS」の水道水への混入が各地で問題となっている。同社は従来の活性炭やイオン交換樹脂に加え、鉱物系吸着材「フルオロソーブ」の選択が可能。「原水は千差万別。お客様の水質や要望に応じた最適な選択肢を提供できるのが、浄水の第一人者としての責務です」。また、2024年8月には災害時の緊急災害水支援チーム「EWAT」を発足し、造水機7台を常時待機させる体制を整えた。能登半島地震の教訓を踏まえ、自治体との連携強化を図っている。

受け継がれるパイオニア精神

新領域マテリアル事業への挑戦

未来を見据えた挑戦は、水処理の枠を超えて広がっている。古川氏が力を入れるのが「マテリアル事業」だ。

「企業理念を作るとき、『将来も水を扱っているかわからない』という議論がありました。だからこそ、水に限定せず新しい領域にも踏み出していきたい」。その第一歩が、水処理薬品の技術を応用した土壌改良材・肥料の開発である。

東レ建設の砂耕栽培施設での実証実験では、同社の肥料を使った葉物野菜が通常の1.5倍の大きさに育ち、収穫までの期間も1.5倍早まるという成果が出た。「肥料は輸入依存度が高い分野。下水汚泥を活用し国内で生産できれば、食料安全保障にも貢献できます。次期中期経営計画の後半には利益貢献を見込んでいます」。水で培った技術を、土という新たな領域へ——。挑戦の歩みは止まらない。

100周年を前に以前の社史を紐解いた古川氏は、先人たちの姿に改めて感銘を受けたという。戦後間もない時期から海外視察に赴き、第一号の水処理機器・技術を次々と世に送り出してきた歴史。そこに古川氏は「パイオニア精神」を見出した。

「将来を見通すことはできません。でも、志を持った人を育てておけば、どんな変化にも対応できる。それが我々の強みです」。1世紀にわたり日本の水を支えてきた老舗企業は、先人から受け継いだパイオニア精神と「人と地球をつなぐ情熱」を胸に、次の100年へと歩み出している。