MIZUHIKI 四書五経の教えに学び、心豊かな社会を作りたい

未開封、魔よけ、人と人とを結びつけるという水引の意味に、独自の解釈を織り交ぜて社名としたMIZUHIKIの神田尚慶氏。人材総合ファームなどで培った営業経験と人脈を武器に、インフラ関連企業と金融機関のブリッジに挑む。その活動の根底にあるのは四書五経を筆頭とする儒教の教えだ。

神田尚慶 株式会社MIZUHIKI役員
(東京校11期生/2023年度修了)

中国留学から人材業界へ
作業だと気づいたことが転機に

高校卒業後、貿易業を営む父親の勧めで中国へ語学留学し、中山大学に進学したMIZUHIKIの神田尚慶氏。やがて個人で翻訳の仕事を受けるようになったものの、営業力の弱さという壁にぶつかった。「このまま言葉の壁がある中国にいるよりも、日本で実践する方が営業力を早く身に着けられるのではないか」と考えた神田氏は帰国し、オランダ資本の総合人材ファームに入社。そこで営業のノウハウを学ぶや、1年半後には四半期で全国1位の営業成績を達成した。

その後、知人の誘いを受けて、エネルギー関連のヘッドハンティング部署の立ち上げに参画する。知名度も何もない状態から事業を興すことに魅力を感じて挑戦してみたものの、売上が順調に伸びていくのに反して、内心では違和感が芽生えた。

「私が本当にやりたいのは事業を作っていくこと。ビジネスには『事業、仕事、作業』という3つの段階があり、やれば結果を出せる今の状態は作業に過ぎないと感じたのです。事業を興すにはどうすればいいのか、その思いが大学院進学につながりました」

資源ゼロから事業を作る
MPDで得た経営資源とは

社会人向け大学院を選ぶ際に、神田氏はMBAも検討しているが、「多くのMBAプログラムは『いかに事業を大きくしていくのか』がメイン。私は経営資源が何もないところから事業を作るにはどうすればいいのかを学びたかったので、事業構想大学院大学を選びました」。

「体験授業で岸波宗洋教授がお話しされた『存在次元』の話に惹かれ、この先生に教わりたいと思ったんです。入学後も多くの学びがありました。私の副指導教員の下平拓哉教授は戦略戦術が専門で、軍の統率構造や米軍が学ぶ戦略などをビジネス応用するとどうなるかという教え、視点をたくさんいただきました。また、二之宮義泰特任教授の講義『事業の実装』では、事業を興す際の汎用性あるロードマップを学び、視座が一段上がったと感じています」

神田氏は、それまでの自身の仕事における立ち位置は「プレイヤー」だったと振り返る。営業パーソンとして好成績を上げることはできたが、メンバーと共にチームとして課題に向き合い、成果を出した経験は乏しい。通常は組織で闘うために必要な知識を、実社会で経験を通して学んでいくが、その足りなかった部分を「大学院という場で、短期間のうちに習得できたことは大きかった」。また、人脈も広がり、「この事業はあの人に声かけたら、こういう展開になるかもしれない」という想像ができる人が増えたという。「知識と経営資源を同時に獲得できた」ことが、大学院での大きな収穫だったと神田氏は言う。

四書五経を実践する経営
インフラと金融で「国を作る」

2023年7月、神田氏は大学院で得た着想を発展させ、心の「豊かさ」とプロジェクトデザインを事業の核とする株式会社MIZUHIKIを設立した。ベースにあるのは母親から教えを授かった儒教だ。儒教の四書五経のうちの『大学』には八条目(格物、致知、誠意、正心、修身、斉家、治国、平天下)が記され、神田氏によれば「天下の平和を実現するには、まずは自分が勉強し、物事に感謝しなさい。その上で心を正しく誠実にし、自分の内側から整えなさい。その後にコミュニティや社会を、そこができたら次は国家というように、より大きなところの平和を考えなさいということ」。この教えこそがMIZUHIKIの事業そのものだという。

会社のロゴ「シン・ミズヒキ」。水引文化を基盤に、対極を中庸で捉え、気と縁の循環から新たな価値と関係性を生み出す思想概念図だという

「私が思う心の『豊かさ』とは八条目とかなり等しいもの。自分に対して誠実であり、物事に対して感謝をする。そこから出会えた人たちの縁を大切に、事業を興していく。事業を興すということは国をつくるということです。『易経』には、混沌としている世の中に道を造り、民を導くことが事業だと書かれていました。お金儲けではなく、世が平和になるためにどのようなことをするのか、それが事業なのです」

具体的な事業の1つが、上下水道や道路などのインフラ専門の人材紹介「SUSTAINABLE DEVELOPMENT CAREER」だ。この事業は神田氏の経験が生きる分野であり、「国づくりにも通じるので、そこに携わる方々を支援したい」と考えている。また、金融分野(金融商品取引業者、資金移動業者、関連Fintech業者)を専門とする人材紹介「Golden Leaf Partners」も始動。大手コンサルティング会社の金融インダストリーのパートナーだった人材を招き入れ、体制を強化している。人材紹介業は競合も多いが、神田氏は独自のアプローチでそれぞれの課題を引き出し、適材適所となる人材を紹介していく。

「エンジニアリングと金融の橋渡しに挑戦したいと思っています。インフラ関連のプロジェクトは資金難でとん挫するケースも少なくありませんから、小規模で経済合理性がある事業に関しては証券化を図ることでプロジェクトを成立させることができるのではと考えています」

また、やや異色とも言える事業が、北品川の寺内に開いた予約制のシガー茶室「陰陽」だ。「豊かな時間を作る」というコンセプトで、シガーやアルコール、国内外から取り寄せた本格的な茶などを楽しめる空間を提供する。

完全予約制の「北品川寺バー 陰陽」。シガーやお茶などを味わいながら滞在時間を楽しんでもらう場として設計しており、シガールームや茶室などコンセプトの異なる空間が共存する

「シガーをたしなむ時は基本的に誰かと時間を共にしますから、その人との絆や友情を深めていく場を創造したいと思って始めました。空間演出にも提供するものにもこだわっており、茶室を設えているほか、エリザベス女王がお茶会で初めて使った茶葉や、明朝・清朝皇帝に献上されていた茶畑のプーアル茶、樹齢千年の木から取った茶葉など、希少な茶を揃えています」

人材紹介、ハードインフラと金融のマッチング、シガー茶室と、一見するとつながりがないように思えて、それらはすべて水引のごとく、しっかりと結びついている。神田氏は「まずは今まで信じてくださったお客様にしっかりとサービスをお届けし、その上で、アジアを代表とする会社を作っていきたい」と締めくくった。