全社員で創る120年企業の玩具開発 奈良・池田工業社の柔軟な発想力とは
(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年1月22日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
けん玉、しゃぼん玉、水鉄砲、凧など昔ながらのおもちゃ、数百円で気軽に買えるおもちゃなど、2000種類以上の玩具や生活雑貨を取り扱っているのが、奈良県宇陀市の「池田工業社」(和佐野達也社長)だ。販売数が多くない、大手メーカーが投資できないニッチな商品に特化して企画・開発することで、市場で独自性を発揮している。創業から120年余、素朴でどこか懐かしい玩具を世の中に届け続ける仕組みや工夫に迫った。
農具から虫かご、季節玩具へ、顧客の声から商品数を拡大
玩具や雑貨の企画・製造・卸を手掛ける池田工業社は、1902年(明治35)に創業。当初は鍬(くわ)や鎌などの農具を大阪で仕入れ、大八車(荷車)で運んで地元で販売していた。その後、農具の端材で作った「虫かご」を全国で売り歩いたのがおもちゃ製造販売の原点だ。虫かごを卸していた問屋から「虫取り網も一緒に売ってはどうか」「他にも子どもたちが遊べる物が欲しい」といった要望を受けるようになり、扱う商品数が増えていった。以前は、夏限定の商品が多かったため、1970年代頃から冬の商品を増やし始めた。だが、クリスマス関連商品は既に多くのメーカーが作っていたため、けん玉や羽子板といった正月商品に力を入れたという。
季節限定の商品は、売れ行きの予測が難しく、参入障壁が高いとされる。例えば、夏向けの商品は3、4月頃から店頭に並び始め、8月後半には秋・冬物に入れ替わる。量販店で売れ残った商品は問屋を通じて返品されることもある。和佐野社長は「当社は虫取り網の縫製や虫かごの組み立てなどを近隣の農家などの内職先に委託する体制を何十年もかけて維持してきました。現在も輸入された商品の検品や包装作業に加え、店頭から返品された商品の検品やリパック作業を行っています。再販できる仕組みを構築できていることは季節商品を扱うメーカーとして優位性が高いですね」と胸を張る。
顧客と向き合い、トレンドをつかんだ柔軟な商品開発
和佐野社長は1999年に営業職の一般社員として入社、営業部長、常務などを経て2014年に社長に就任した。顧客は主に、玩具や文具、日用生活雑貨、物産、各種景品、書籍、教材などを扱う問屋だ。営業担当は問屋やその先の小売店バイヤーと向き合う中から消費者のトレンドやニーズをつかみ、商品開発に生かしている。和佐野社長は「ニッチな消費者ニーズに小ロットで対応できる小回りの良さも当社の強みです」と話す。
昔も今も人気がある水鉄砲は、かつては男児向けのデザインが主流だったが、「女の子も水鉄砲で遊びたいはず」と、ゾウやバナナの形をしたものや消火器型の水鉄砲を開発、今ではすっかり定番アイテムとなった。
営業先で聞いてきた情報を基に開発したのが「パクッと食べよう!しゃぼん玉」だ。以前からしゃぼん玉は扱っていたが、時々、消費者から「子どもが飲んでしまったが大丈夫か」という相談が寄せられることがあった。そんなとき、大手量販店のバイヤーから「食べられるしゃぼん玉は作れないの?」との声があり、子ども用ドロップやドリンク剤を製造している奈良県内の製薬会社と共同で開発した。食べられる原料でできた安心のしゃぼん玉は、いちご、ぶどう、ソーダの3種類で、2人で遊んで、できたしゃぼん玉をお互いに食べられるように吹き口と容器が2個セットになっている。現在新しい味のシャボン玉も開発中とのこと。
大手や競合の商品が並ぶ陳列棚の隙間を埋める
自社で取り扱う商品を、どのように売り込んでいくのか。和佐野社長は「営業の目的・目標は、小売店の陳列棚に商品を置いてもらうことです」と、大手量販店で行われる夏の季節商品の選定の様子を話してくれた。
夏の季節商品を並べる棚の前に、量販店のバイヤーや、問屋やメーカーの担当者が集まる。まず、前年の陳列棚を再現して、売れ行きが良くなかった商品を取り除くと、棚にスペースができる。そのスペースに大手メーカー、中堅メーカーのおススメ新商品が次々と並べられていくが、まだ少しスペースが残っている。その隙間を目掛けて自社の商品を提案し、「それ面白いね、採用しよう」という流れに持っていけるかが勝負所だ。和佐野社長は「会社を成長させようとすれば、小売店との取引の拡大が欠かせません。消費者の皆さんに喜んでいただくことはもちろんですが、大手・中堅メーカーが作っていないもの、価格などの条件面で優れた商品を提案できるかどうかが重要です」と説明する。
池田工業社は、製造を国内外100社以上の取引工場に委託する「ファブレス」の業務形態を取っている。和佐野社長は「投資した設備に縛られない商品企画や、営業企画ができることがファブレスのいちばんの魅力です」と話す。玩具の新しい成形型を起こすコストは海外なら3分の1ほどで済むと言い、「おもちゃは、流行り廃りが激しいため、初期投資をできるだけ抑えられるメリットがあります」と話す。
アイデアミーティングで社員の企画力を鍛える
「子ども人口が減少する中、従来通りの商品を扱い続けていては成長できない。幹部や営業担当だけでなく、全社員が新しいアイデアを出し続ける仕組みが必要だ」との思いからスタートしたのが「アイデアミーティング」だ。この取り組みによって、会社を挙げてアイデアを継続的に生み出し続ける土壌を作り上げている。
アイデアミーティングは2013年5月にスタートした。パート社員を含めた全社員が参加して、3~4人の班をつくり、週1回のミーティングを4か月間実施。班ごとにまとめたアイデアを発表して全員で採点し、高評価のアイデアは商品化の検討に入るという仕組みだ。アイデアミーティングを始めた頃、あるパート社員が「今まではスーパーでの買い物は5分ぐらいで終わったのに、アイデアを考えるために店内の商品を見て回るので時間がかかる」と愚痴を言われたことがあった。だが、和佐野社長はそれに手ごたえを感じたという。「自分たちでアイデアを考える必要性に迫られると、視点が変わるのだと実感しました。様々な商品を見て、誰がどのように考えてその形や色になったのか、なぜ売れているのか。それを常に考える習慣が身についてきている」と効果と成果を感じている。
アイデア発表会はこれまでに40回近く行われ、商品化されたアイデアも多数生まれている。社員の企画力が向上しただけでなく、「30人ほどの会社なので、同じ班になったことのない人はいない」というほど、社内のコミュニケーションが活発になり、部署の垣根を超えた一体感が育まれている。
「まるで学校」 スキルアップのサポートも充実
池田工業社は、「会社の実力」=「全従業員の総力」と位置付け、社員が仕事を通じて成長することで企業としても成長できると考え、様々な取り組みを行っている。業務改善や営業手法、管理マネジメントなど、職種や立場に応じた研修の受講や資格取得を、費用面からサポートするほか、職種にかかわらず、入社1、2年で東京での玩具の展示会に参加してもらい、業界の様子を肌で感じてもらっている。また、毎朝の朝礼では全社員がスピーチをする機会を設けている。毎朝交代で、月ごとのテーマに沿って話したり、読書感想を発表したりする。さらに、月1回、仕事への取り組み方などのテーマに沿ったレポートを書く課題もあり、社長や幹部社員がコメントをつけて返している。「『まるで学校みたいだ』と言われたこともありますが、自分の考えを言葉にして伝えること、人前で話すことは社会活動の様々な場面で役に立ちます。社員には常にちょっとした負荷がかかっていますが、自身の成長を感じながら、前向きに取り組んでくれています」と話す。
ミッションは「子どもを外へ連れ出すこと」
「当社が今、社会から与えられているミッションは『子どもを外に連れ出すこと』です。デジタル技術やAIが発達するほど、外で自然に触れさせたいというニーズも高まってくると思います。今どきの子どもたちは祖父母の家にある玩具で遊んでも、それを持って帰らず、自宅では動画やゲームをして過ごしています。子どもたちの玩具への執着心も変化してきています。一方で、動物園やテーマパークで体験を通じ感動をすれば、関連するキーホルダーやぬいぐるみを欲しがるでしょう。記憶に残るリアルな体験やその機会につながる商品、ひいては機会そのものを提供することを目指したい」と語る和佐野社長。「当社は常に新しい事業を考えています。農具から虫かご、玩具や生活雑貨へと、扱う商品は時代と共に変化してきましたが、新しいアイデアを考える姿勢は120年以上、変わらない我々のDNAです。考えることに終わりはなく、社員みんなと考え続けていきたい」と前を見据えた。

【企業情報】
▽公式サイト=https://www.yamaine-ikeda.co.jp/▽代表者=和佐野達也社長▽従業員数=35人(パート社員含む、2025年10月現在) ▽資本金=1000万円 ▽創業=1902年▽
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