大分県・佐藤樹一郎知事 果敢に挑戦し、未来を創造できる大分県へ

2023年4月、大分県では20年ぶりとなる新知事に就任した佐藤樹一郎知事。前県政が築き上げたものを継承しつつ、自身の8年にわたる大分市長の経験から「連携」を重視。自ら県内各地を回り市町村や県民と対話し、吸い上げた意見や要望は県政に反映。大分県のさらなる発展を目指している。

佐藤 樹一郎(大分県知事)

――20年ぶりに誕生した新知事として、どのような大分県を目指されますか。

誰もが安心して住み続けたい大分県、誰もが訪れたい大分県づくりを進めます。また、県民が自分の夢をしっかりと実現でき、厳しい状況にある方々も安心して暮らしていける温かい大分県を目指します。これらを実現するため、「対話」「継承・発展」「連携」を基本姿勢に県政運営に臨みます。

まず、県民の皆さんとの「対話」を通して、皆さんが抱える課題やニーズを把握して行政を進めていくことが何より大事だと考えています。

また、「継承・発展」では、前県政が築き上げてきたものを継承しつつ、時代の要請や潮流の変化の中で見直さなければならないものはしっかりと見直し、やめるべきはやめ、新たに取り入れるべきことは取り入れ、県勢を発展させていきます。

県内18市町村と「連携」を図り、基礎自治体の仕事をサポートすることも県の大きな役割です。県が管理する河川や道路の管理・整備、あるいは県域にまたがるような公共交通の整備についても、市町村の意見を伺いながら取り組みます。また、災害対応や広域インフラの整備などでは国との連携も必要になります。さらに、行政機関だけでは手が行き届かないところは、経済・労働界、NPO等とも連携して取り組みを行っていくことが大事です。

「対話」「継承・発展」「連携」という基本姿勢のもと、住めば安心、元気や活力が生まれ、夢を持ち未来を創造していけるような大分県を目指します。

誰もが安心して、元気に
活躍できる大分県を目指す

――次の長期総合計画策定の準備を進めていらっしゃいますが、どのような点を重視したいとお考えですか。

長期総合計画では「安心元気」「未来創造」を掲げ、「誰もが安心して元気に活躍できる大分県」「知恵と努力が報われ未来を創造できる大分県」を目指します。

「安心元気」では、「災害に強い県土づくり」が大前提となります。その上で、県民が安心して暮らせる社会づくり、ヤングケアラーなど支援を必要とする方々に寄り添う社会づくりに取り組みます。

また、企業誘致や農林水産業の振興を進めるとともに、外国人を含めた多様な人材の確保にも取り組み、県民が元気に活躍できる社会を目指します。

「未来創造」では、未来を担うこどもたちが将来に向けて夢を持てるようにすることが大事です。DXを進めて、県内のどの地域に住んでいても多様で質の高い教育を受けられるように教育環境を充実させます。また、「空飛ぶクルマ」など次世代空モビリティや先端技術に果敢に挑戦するとともに、豊予海峡を通じて連結する東九州新幹線と四国新幹線の整備計画路線への格上げなど、広域交通ネットワークの充実にも力を入れていきます。

若者の移住者が増加
出会いの場の創出も牽引

――人口減少対策にはどのような方針で取り組まれますか。

現在大分県の人口は約110万人ですが、人口問題研究所によると、2035年には100万人を切ると推計されています。自然増と社会増でみると、やはり自然増が大きく減少しています。社会増については、日本人だけでみると減少ですが、外国人まで入れるとこの2年は県全体でプラスになっています。

大分県は男性の健康寿命が全国1位、女性は全国4位となっています。合計特殊出生率は、全国が1.26に対して、大分県は1.49と全国平均を少し上回っています。しかしながら、人口減少を食い止めるには2.06~2.07必要です。

こどもを育てている方に聞くと、希望するこどもの人数は約3人となっていますので、将来の収入や住宅などに展望を持つことができ、安心してこどもを生み育てられる社会にしていく必要があります。結婚する人が減っていることも出生率に大きな影響を与えています。出会いの場が少ないということなので、県では年に4回婚活イベントを実施しています。出会いの機会を増やし、希望する方が結婚し、希望通りこどもを育てられる優しい社会を作ることが求められています。

社会増減では、2022年度の県内移住者は過去最多の1,508人となり、6年連続で1,000人を超えています。テレワークが普及し、「転職なき移住」が可能になりました。伴走型サポートによる若者の移住にも取り組むとともに、IT、福祉・医療の資格取得から移住までをサポートするスキルアップ移住の推進などにより、さらに移住者を増やしたいと思います。また、外国人の方々が安心して生活できる環境を整備して、外国人の方々にも大分を選んでもらえるようにしたいと思います。

左/結婚を希望する若者の出会いを応援するプロジェクト「OITAえんむす部」。1対1のお見合い支援や、県主催の婚活イベント等を行う 右/大分県では男性の子育て参画を推進しており、父親が参加するイベントも多数開催

「儲かる農林水産業」の実現に
向け、若者の参入を促進する

――既存産業の活性化や、新産業創出の取り組みについてお聞かせください。

自然豊かな本県では、農林水産業が幅広く展開されています。

農業では、栽培作物を米から、ネギやイチゴ(ベリーツ)、ピーマン、高糖度サツマイモ(甘太くん)等に転換し、企業的経営による収益性の高い農業を目指しています。中山間地域では、力強い集落営農組織づくりを推進しています。経営力強化の支援をはじめ、農地確保や集出荷場・加工場の整備、販路開拓などを行い、将来に向け発展していく農業を目指します。そうなれば継承者問題の解決につながり、若い世代の新規参入者も増えるでしょう。

畜産ではブランド牛の「おおいた和牛」を全国に出荷しており、将来有望な産業になっています。耕畜連携による自給飼料の生産体制への支援などを行い、畜産業の充実を図っていきます。

水産業も大分県の魅力の1つです。関さば、臼杵のフグ、姫島車えびなどが人気で、ブリの養殖も盛んです。県では、加工場の整備や、販路開拓などの支援を行っています。

2024年秋には、別府湾で「全国豊かな海づくり大会」が開催されます。この機会をとらえ、大分の魅力的な海の幸を全国に発信したいと思います。また、豊かな山が豊かな海を育むと言われていますので、自然保護の大切さも合わせて全国に発信していきます。

大分県には山間地域が多く、50年を超える高齢材や大経材が豊富に存在しています。近年は円安となり、国内産木材の需要が高まり、林業は将来有望な産業として若い世代の参入者も増えています。県では大径材活用の促進に向け、木材加工施設整備への支援や販路拡大、花粉の少ない早生樹による再造林を推進しています。

こうした取り組みを進め、将来に希望の持てる「儲かる農林水産業」へと成長させていきます。

企業的経営による高収益な農業の実現を目指し、栽培作物を米から、高糖度サツマイモ(甘太くん、左)やイチゴ(ベリーツ、右)等に転換しようとしている

法政大ベンチャーと覚書締結
「空飛ぶクルマ」の開発拠点へ

――起業家育成や、スタートアップ支援への取り組みはいかがでしょうか。

スタートアップのためのインキュベーション施設の整備や、各種セミナーやビジネスプランなど、起業家育成に向けた事業を展開し、起業に至るまでの伴走型支援を行っています。起業成功者とのマッチングやネットワークの構築、資金面での援助や場所の提供などは、起業家の卵が成長へのステップを進める上で非常に重要です。起業を目指す方は年々増えており、昨年度の創業支援件数は過去最高の643件を達成しました。起業した人たちが成功し、大きく成長していくような支援を行ってきたいと思います。

大分県と大分県産業創造機構が主催する、九州最大規模のスタートアップイベント「湯けむりスタートアップサミット2023」。先輩起業家らによるトークセッションの様子

――今後、特に育成に力を入れていきたい新産業や、産業分野はありますか。

空飛ぶクルマなどの次世代空モビリティ分野です。2025年の万博では空飛ぶクルマの商用運行が予定されており、実用化が近いのではないかと思います。こうしたなか、2023年9月に、本県は法政大学やヒエン・エアロ・テクノロジーと空飛ぶクルマの機体開発等に向けた覚書を締結しました。同社は2025年に2人乗り、2030年に6人乗りの機体を完成させる計画です。県内には、空飛ぶクルマにも対応し得る、優れた技術を有する企業が多く存在していますので、こうした取り組みにぜひ参画し、新分野に挑戦してもらいたいと思っています。

導入資金やIT人材の支援で
中小企業のDXを後押し

――行政や産業のDXへの取り組みについてお聞かせください。

中小企業にとってDXの推進は生産性を上げるという意味で大変重要です。県では、セミナーなどで啓発するとともに、導入資金面の支援、ITツールの実装やデジタルスキルを有した人材育成などを行い、中小企業のデジタル化への一歩を後押ししています。

行政も、DXによって大幅に業務を効率化できます。行政手続きの100%電子化や公金収納のキャッシュレス対応などに取り組んでおり、2023年度末までに全体の84%の手続きの電子化が完了予定です。今後は経済対策の臨時給付金などに迅速に対応できるように、市町村も一緒にDXを進めていかなければならないと思っています。

――県のカーボンニュートラルへの取り組みについてはいかがでしょうか。

大分県では大分市を中心に、製鉄、石油化学、非鉄金属などの基礎素材産業が展開しています。こうした産業はエネルギー多消費型で、CO2を大量に排出します。したがって、大分県民一人当たりのCO2排出量は全国1位です。しかし、強調したいのは、本県のコンビナート企業群は、例えば、製鉄では、高い水準の省エネ・省CO2化を実現しており、世界と比べてもCO2排出量は少ない方だということです。すなわち、エネルギーの効率改善が進んだ事業所群であるということです。

現在、より一層CO2を発生させない技術開発に取り組むとともに、コンビナートの特性を活かして、水素・ガス・熱などを事業所間で有効に利用しあう仕組みづくりに挑戦しています。水素等の次世代エネルギーの需要と供給面の創出に向けた多様な取り組みを拡大し、カーボンニュートラルの実現を目指していきます。

別府や湯布院だけではない
まだまだある大分の魅力を発信

――観光産業活性化や、インバウンドの再拡大を見据えた観光施策についてお聞かせください。

本県が「おんせん県おおいた」としてPRを展開して10年が経過しました。「大分県=温泉」のイメージは全国に定着し、別府や湯布院は多くの人で賑わっています。他にも耶馬溪や安心院・臼杵など、大分県には魅力的な地域がたくさんありますので、そうした地域にも周遊を促す取り組みが必要です。

2024年の4~6月には、県内の18市町村、観光事業者や福岡県、JRグループなどと連携し、「福岡・大分デスティネーションキャンぺーン」を開催します。1年前となる2023年5月には福岡県との共催で、全国の旅行会社など477社の方々にご来県いただき、全18市町村が出展した観光商談会や地域を巡るエクスカーションを行いました。9月にも大分県単独の商談会とエクスカーションを行い、旅行会社の方々から高い評価をいただくとともに、観光振興のための有益なアドバイスを頂戴しました。

デスティネーションキャンペーンの翌年2025年には大阪・関西万博が開催されます。こうした機会をとらえ、世界に向けて大分県の魅力を発信したいと思います。

インバウンドについては、2023年6月に定期国際線が復活した韓国からの観光客をはじめ、アジア地域を中心に順調に回復しています。最近では欧米からの観光客も増えており、臼杵市などはフランスからの観光客に人気です。

コロナ禍を経て、自然・アクティビティなどの体験型コンテンツに対する需要も高まっています。さらに、最近は各地のお祭りが続々と再開されており、歴史や文化を通じて地域の魅力を発信するよい機会になるのではないかと思っています。

また、2023年から、九州全域で行う国際自転車ロードレース「ツール・ド・九州」が始まりました。今回大分ステージでは約2万7千人が現地で観戦されており、大変賑わいました。こうした広域連携での取組もたいへん大事だと思います。2024年も開催されますので、九州の雄大な自然と伝統文化を楽しんでいただけるように取り組みたいと思います。

 

佐藤 樹一郎(さとう・きいちろう)
大分県知事