"灰"から価値を生む──新日本電工が挑む資源循環の未来

創業から100年を迎えた合金鉄メーカー・新日本電工株式会社。同社が今、力を注ぐのが「焼却灰資源化」という、いわば"見えないインフラ"の事業である。家庭ごみなどを焼却した後に残る灰を、ただ埋めるのではなく、価値ある資源に変えていく。高温で溶かし、有害物質を無害化し、土木資材や金属資源として再利用する――そんな"パーフェクトリサイクル"を実現するしくみは、どのように生まれ、いまどんな社会的意義を担っているのか。
同社代表取締役社長・青木泰氏に、事業の背景と展望、そして企業としての覚悟を聞いた。
合金鉄メーカーの技術が環境課題に応えた
新日本電工の創業は1925年。以降100年にわたり、同社は「合金鉄」という鉄鋼用原材料を製造し、日本の産業を支えてきた。その主力技術が「電気炉による高温溶解」。素材を溶かして加工するこの技術が、思わぬ形で社会課題の解決に応用されることになった。
「1990年代、バブル崩壊後の日本で、焼却ごみが激増しました。処分場も逼迫し、どう埋め立てるかが大きな問題になったのです。そのとき、当社の技術を活用できないかという発想が生まれたのです」と青木氏。
1994年から合金鉄を製造していた電気炉での溶融処理検討・実験を繰り返し、1995年に民間企業としては初めて電気炉で焼却灰を高温で処理して無害化する事業を開始、環境対応の手応えを感じたという。2000年には「ダイオキシン類対策特別措置法(1999年成立)」、2001年には「循環型社会形成推進基本法」が相次いで施行。社会の流れと重なりながら、同社は2002年、茨城県鹿嶋市に焼却灰資源化専用電気炉を本格稼働させた。
「埋めない」選択肢──"見えないインフラ"としての存在意義
この事業の社会的意義は明確だ。
「今のままでは、国内の最終処分場は25年後には満杯になるとも言われています。当社はその焼却灰を受け入れ、再資源化しています。家庭ごみなどを燃やした後に出る焼却灰を溶かし、スラグ(溶融スラグ)にして土木資材にしたり、金・銀・銅などの金属を回収したり。全てを"価値"として再び社会に返す、それが当社のリサイクルのかたちです」
同社が製造・販売する「エコラロック(R)」は、再生資材として道路基盤や防波堤などに活用されている。単なる"灰"ではなく、社会インフラを支える"資材"として活躍しているのだ。
加えて、従来なら処理が難しく埋め立て対象となっていた「飛灰(ひばい)」も、同社の炉では処理可能。ここにも、同社の高温技術が活きている。
96の自治体とつながる「顔の見える」循環モデル
現在、新日本電工は96の地方自治体・広域組合と契約を結び、焼却灰の受け入れを行っている。たとえば千葉県船橋市の清掃工場から受け取った焼却灰を処理し、そこで生成されたエコラロック(R)を同工場の駐車場路盤材として還元する――このような「見える循環」が実現している。
「自治体との信頼関係があってこその事業です。清掃工場のリプレースでは、DBO(Design-Build-Operate)方式を採るケースも多く、当社はエンジニアリング会社を中心としたSPCとも密接に連携しています。地域の環境インフラにとって欠かせない役割を担っていると自負しています」。
また、同社は焼却灰資源化電気炉がある鹿嶋市を本拠とするJリーグクラブ「鹿島アントラーズ」のスポンサーとして地域への認知浸透、教育啓発活動などにも力を入れている。

2030年、その先へ──処理能力の拡大と未来への布石
同社の焼却灰処理能力は現在13万トン(4炉体制)。2030年までに22万トン(7炉体制)へ拡張する計画が進行中だ。
「焼却灰の発生量自体は人口減少で微減していくと見られますが、最終処分場の問題は避けられません。当社のようなリサイクル施設が拡張しないと、社会インフラが立ち行かなくなるリスクもあるのです」
すでに焼却灰収集エリアを西日本まで拡大することも視野に入れており、距離や運送効率も考慮した収集戦略を検討している。
また新設炉には省力化技術や飛灰処理能力の強化なども組み込むことで、将来的なグリーンフィールド展開への備えも進めている。
「挑戦を止めない」──経営者としての視座
環境関連法規制への厳格な対応、安定した経営基盤はもちろん、青木氏が特に重視するのは"挑戦する組織文化"の醸成だ。
「現状維持は後退。失敗の反対は"挑戦しないこと"です。公共性の高い事業であるからこそ、守るべきものと攻めるべきもの、両方の視点を持ちたいと思っています」
そのために、社内では「社長との対話」と題したディスカッションを年2回実施。社員一人ひとりが事業課題について意見を述べ、対話を通じて視座を高める取り組みも行っている。
「考える力、伝える力、コミュニケーション力。この"縦軸と横軸"を持った管理職が増えることで、会社全体がより強くなると思っています」

「この会社がなければ、社会が困る」存在へ
新日本電工の環境分野の事業は、派手さよりも「縁の下から社会を支える存在」である。焼却灰資源化に加え、排水処理(水処理)や水力発電なども手がけながら、社会インフラの一翼を担い続けている。
青木氏は語る。
「私たちの仕事は、世の中の"当たり前"を支えるもの。市民の方に知られていないからこそ、正しく伝え、地域とつながり、誇りをもって取り組んでいきたい」
全国の小・中学校に毎年寄贈されているキャリア教育教材『おしごと年鑑』にも掲載されるなど、次世代への啓発にも余念がない。
焼却灰という"終わり"に見えるものから、"始まり"を創り出す。新日本電工の挑戦は、"見えないインフラ"の担い手として、循環型社会の中核を成す存在になりつつある。