ネットワークの巨大な可能性を開拓 データから新たな価値を生み出す
1992年、日本初の国内インターネット接続事業者として創業し、黎明期から日本のインターネットを支えてきたインターネットイニシアティブ(IIJ)。ビジネス・暮らしを問わず、あらゆる場面でデジタルシフトが進むなか、日本のインターネットのパイオニアとしてどんな世界を目指すのか。4月に就任した新社長に聞く
谷脇 康彦(インターネットイニシアティブ[IIJ]
代表取締役 社長執行役員)
ネット接続サービスから始まり
新しい付加価値の創造に寄与
1994年にインターネット接続サービスを開始以来、クラウドをはじめとするアウトソーシングサービス、WANサービス、システムインテグレーションなどをトータルに提供するソリューションプロバイダーとして事業領域を拡大し、成長してきたインターネットイニシアティブ(IIJ)。エンジニアが社員の7割を占めており、高い技術力を持つ技術オリエンテッドな企業であると言える。
コロナ禍を経て、時間と距離を超越できるツールとして、インターネット技術の重要性が認識され、デジタル投資への意欲の高まりも続いている。
「日本のデジタル投資は、コスト削減を目的としたものが主でした。しかし海外では、デジタル技術を活用した新しい事業領域の開拓に力点が置かれています」と、IIJ社長の谷脇康彦氏は話す。
従来の事業領域の垣根を越えることが比較的容易なのが、デジタル技術を活用したビジネスの特徴だ。各企業によるデジタル投資の拡充は、IIJにとって歓迎すべきこと。今後はさらに、単なるコスト削減ではなく、顧客企業の新しい付加価値の創造に寄与できるようなサービス・ソリューションの提供を目指すという。
さらなる成長へ新領域を開拓
5000億円の売上を中長期で目指す
連結売上高5000億円規模を中長期ビジョンに掲げ、新中期経営計画(2024~26年度)で売上高3800億円規模への成長を目指すIIJ(2025年3月期の実績は3168億円)。
新中計では目標達成へ向け、既存・コアビジネス領域の強化に注力する。同社のコア事業は、ネットワークとソリューションという創業以来の強みを活かし、企業や社会の課題を解決するサービスインテグレーションである。
「デジタル化に対する社会的認知が進むなか、案件の大型化が進み、複数年にわたるプロジェクトなどが増えています。コア領域においては、こうした案件の大型化への対応が重要と考えています」。
一方、さらなる成長へ向け新領域の開拓にも力を入れる。その1つに、様々なデータを収集し連携させて解析し、新しい付加価値を生み出す「データ連携ビジネス」がある。
例えば、同社の提供する「IIJクラウドデータプラットフォームサービス」は、オンプレミスやクラウドなど、様々なシステム間のデータ連携を簡単に実現する国産iPaaS(Integration Platform as a Service)だ。
「ソリューションにおいては、全てがネットワークベースへ移行しつつあります。全てのデータ、全てのコンピュータリソースはネットワーク上にあるという姿を頭の中に描きながら、新たな事業展開を進めています」。

デジタルデータ処理の需要増に対応するため、データセンター(DC)への投資を強化している。千葉県の白井DCでは5月に3期棟の建設が始まった
データ量・質・流通速度がカギ
デジタル通貨の活用に期待
データの有効活用を掲げるのは簡単だが、そのためにはまず、デジタル処理可能なデータを増やす必要がある。そして、データや情報の改ざんを防ぐセキュリティも重要だ。さらに、データを移動させる流通速度も要求される。
「安全で高速なデータ活用の仕組みを作るには、データ量・質・流通速度の3つを三位一体で伸ばしていく必要があります。ネットワークに強みを持ち、ソリューションビジネスを事業の柱としているIIJとしては、こうした顧客ニーズに応えられるよう、あらゆるサービスの機能拡充を進めます」。
2018年1月には、各業界を代表するリーディング企業との合弁会社ディーカレットを設立。デジタル通貨の取引・決済を担う金融サービス事業へも参入。デジタル通貨取引の最初のケースとして、2024年8月、環境価値のデジタルアセット化とデジタル通貨決済取引を開始した。
「デジタル通貨の使用は、金額ベースの価値を移動させるという点でデータ流通そのもの。広い意味で、データ流通という枠の中にデジタル通貨も含まれています。データ駆動社会において、デジタル通貨は大きな起爆剤の1つになっていくと思います」。
自由からイノベーションが生まれる
社員の好奇心を伸ばす環境整備
2025年4月に新社長に就任した谷脇氏。データ連携ビジネスのほか、セキュリティサービスの強化と人材育成を、力を入れるべき3つの取り組みとして挙げている。
セキュリティサービスの強化については、同社が提供するサービスの質を強化することと併せ、顧客の経営層から見ても理解しやすいサービスを目指し、ユーザビリティを上げていく。
「サイバー攻撃に対するセキュリティは従来、講じなければならないコストとして見られがちです。ただ、海外では、インターネット・セキュリティ対策を有価証券報告書に明記して、企業価値を上げるのが一般的となっています。そうした視点もふまえ、現場の技術者だけでなく、経営層にも理解いただけるようなレポーティング機能やサービスを強化していきます」。
人材育成では、イノベーションが生まれやすい環境をつくっていく。
「いま、技術職・営業職という区分けそのものが時代にそぐわなくなってきていると感じます。様々な領域の垣根をなくしていくのがデジタル技術。当社の場合、営業職にも技術的知見は要求されますし、技術者はニーズを踏まえない技術開発をいくらしても意味がない。技術サイドもそうでない人たちも、なるべく自由に動ける。そうした環境を作りたい。イノベーションは自由から生まれると思っています」。
同社では、若手技術者向け勉強会「IIJ Bootcamp」や、業務部門とエンジニアが、新たな技術を使って業務課題を解決する「技術工作室」など、社員がボトムアップで発案した様々なコミュニティが立ち上がっている。
「社員に、『こういうスキルを身に着けてほしい』というのではなく、自由に自分の興味や得意分野を伸ばしていけることが大事だと考えています」。
1960年代から50年ほど続いてきたインターネット革命だが、いま、いよいよ大きな変革期に入っている。
「あらゆるリソースがネット上に上がるようになり、データという資産が新しい価値を生み出す社会が到来しようとしています。そういう意味では、第二次デジタル革命というくらいの大きな社会変革が起こると思います。インターネットはオープンイノベーションが基本。会社の枠に閉じたものでも、日本に閉じたものでもなく、幅広い仲間と切磋琢磨するなかでいいモノ、新しいモノが生まれていく。そうしたオープンイノベーションの精神が、IIJのDNA。今後も多種多様なパートナーと組んで、いいサービスを創っていきたいと思います」。

オープンイノベーションに積極的に取り組んでおり、IIJのエンジニアが国際会議などで講演する機会は多い。写真はAPNIC(Asia-Pacific Network Information Centre)主催のカンファレンス
- 谷脇 康彦(たにわき・やすひこ)
- インターネットイニシアティブ(IIJ) 代表取締役 社長執行役員