誰も注目しなかった場所に、チャンスがある 喫煙所メディア「BREAK」がつくる、認め合える都市の設計
喫煙者数1700万人──。都市の片隅で彼らの存在がますます肩身の狭いものになる中、ある企業がその“余白”に着目した。 2019年設立されたコソドは、快適な喫煙空間「THE TOBACCO(ザ・タバコ)」と喫煙所内のサイネージ広告メディア「BREAK(ブレイク)」を展開。翌年施行の改正健康増進法による喫煙場所の減少を見据え、喫煙者が直面する社会課題に着目し、事業としてその解決を試みている。誰も注目しなかった“6分間の休憩”を、広告がもっとも届く場所へと転換するユニークなモデル。価値が見落とされてきた空間に新しい意味と役割を設計した逆張り型スタートアップは、いかにして都市の“余白”を収益化し、社会課題の解決にもつなげようとしているのか──取締役CMOの湯川健太氏に話を聞いた。
湯川健太CMO
社会課題解決への挑戦
―喫煙所事業に参入した背景について、創業の経緯をお聞かせください。
代表の山下はこれまで複数の事業を経営してきましたが、2019年に一度立ち止まり、「自分たちの事業が社会にどう貢献できるか」を改めて考えるタイミングがありました。もともと社会課題への関心は強く、次に取り組むなら、社会と経済が交差する領域で、本質的なテーマに向き合いたいという意志がありました。その中で注目したのが、2020年に施行される改正健康増進法でした。喫煙人口は減少傾向にあるとはいえ、今なお1,700万人という大きなセグメントが存在します。一方で、公共空間における喫煙場所は急速に減っている。このバランスの崩れは、喫煙者だけでなく都市全体の快適性やマナーの共存にも影響する“構造的な課題”だと捉えました。実際に、路上で喫煙している人たちにヒアリングを行うと、「汚い」「狭い」「暗い」といった声が上がりました。もちろん、ルールとしての喫煙所は設置されているのですが、利用が進まない背景には、“空間設計と運用設計の快適性”という視点が欠けていた面もあったのかもしれません。そこでまず、都市の中心に、快適で開かれた喫煙空間をつくり、検証を始めました。それが「THE TOBACCO」です。快適な喫煙所というだけでなく、都市の余白に人が自然と集まるにはどう設計すればいいかを試す、実験的な場でもありました。私たちのミッションは、「空間に新たな価値を創造し、人々の多様な“好き”をつなぐ」こと。タバコという嗜好品が社会から否定されがちな今だからこそ、頭ごなしに線を引くのではなく、共存のための設計と仕組みを提示したいと考えています。適切な空間があれば、煙は漏れず、ゴミも出ず、摩擦も生まれにくい。吸う人も、吸わない人も、どちらにとっても価値のある場所を設計する。それが私たちの最初の挑戦でした。
THE TOBACCO (丸ノ内)
逆張り戦略の着眼点
―大手企業が参入しない喫煙所ビジネスに、なぜベンチャーとして挑戦したのでしょうか。
健康経営が注目され、喫煙者も年々減っている今、喫煙領域は「縮小産業」と見なされがちです。多くの大手企業にとっては、ブランドや経営方針の観点からも参入が難しい領域だと思います。しかし、代表の山下は、まさにその“誰もやらない領域”にこそ、ベンチャーだからこそ価値を生める余地があると考えました。多くの企業が敬遠する分野だからこそ、しがらみのない立場で思い切った発想ができる。その着眼点が、私たちの現在の事業の起点になっています。当初は、綿密な事業計画を立ててスタートしたというよりも、まずは空間をつくってみて、人がどう反応するのかを検証するというアプローチでした。前例がないことに臆せず、「実験」として取り組むカルチャーが、コソドの強みになっていたと思います。実際、現在では月間約200万人が私たちの喫煙空間を利用しており、都市型サイネージメディア「BREAK」も約500面に広がりました。誰にも注目されていなかった空間が、人が自然に集まり、広告効果も生まれる場へと変わった。私たちの仮説──“滞在する6分間には、まだ価値が眠っている”という考えが、ひとつのかたちになりつつあります。現在では、喫煙所という都市の余白空間に、広告価値と社会的機能をかけ合わせることで、喫煙所という場、そこに設置したOOH(BREAK)も合わせてメディアとして成立する仕組みを構築しています。BREAKは、喫煙者だけでなく、施設管理者や広告主、そして都市全体にとって意味のある空間を目指し、運用を拡大しています。
オフィス喫煙所サイネージ『BREAK』
滞在型メディアの価値
―サイネージ広告「BREAK」の媒体としての特徴と、広告主へのアピールポイントを教えてください。
BREAKは、都心の喫煙所に設置された“滞在型OOHメディア”です。この空間の最大の特徴は、喫煙という明確な目的で6分間とどまる人に、音声と映像で自然に情報が届く環境にあります。密閉性が高く、外音が遮られた小空間で、周囲に視線を奪うものもない。スマホを触っていても“なんとなく見てしまう”状況が生まれやすく、BREAKはその6分間に設計されたメディアです。 利用者の中心は40〜50代のミドル層や管理職ですが、20〜30代の若手層も多く、都市部のオフィスで働くビジネスパーソン全体への接触設計が可能です。 さらに、会社員比率91%、可処分所得10万円以上の割合36%、役職者比率42%といったデータが示すように、意思決定層への到達性と、情報感度の高い層への接点を同時に担保しています。また、タクシー広告と補完的に併用されることも増えています。 タクシーが“移動する経営層”に向くメディアだとすれば、BREAKは“オフィスに留まる実務層”へ届く。異なる状況・接触態度を設計できるセットメディアとしての価値が評価されています。現在は月間500万リーチを超え、BREAKは都市の余白に新しい価値を埋め込みながら、広告接触の再定義を進めています。
喫煙所モデルの水平展開
―今後の事業展開について、どのような構想をお持ちでしょうか。
今後の展開としては、現在の喫煙所という空間における“6分間の体験価値”の最大化です。BREAKはすでに広告媒体として成立していますが、接触者が確実にとどまる6分間という特異な条件を活かせば、サンプリング、デジタルプロモーション、インタラクティブ施策など、リアル×デジタルを融合した新しい販促・体験設計が可能です。 街頭では敬遠される販促行為も、「いまいいですか?」の一言で自然に受け入れてもらえる。そこには、“空間の構造”と“人の状態”を掛け合わせたコミュニケーションデザインの可能性があると感じています。私自身、もともとはデジタルマーケティング出身ですが、今は“行動が生まれる空間”の設計にこそ可能性を感じています。サイネージ×リアルの体験設計という、誰もまだ定義しきれていない領域で、新しいマーケティングのインフラをつくっていきたいと思っています。