古田肇・岐阜県知事 世代を超えた人材育成で「航空宇宙の岐阜」へ

2021年2月に5期目を迎えた古田肇岐阜県知事。「オール岐阜」の構えで、「岐阜県らしさ」が活きる様々な施策を展開している。産業創出において特に注力しているのは、「航空宇宙の岐阜」として国際交流の拠点となることだ。産学官の連携のもとで、航空宇宙分野を担う人材育成にも取り組んでいる。

古田 肇(岐阜県知事) 取材は、新型コロナウイルス感染症対策をとり、ソーシャルディスタンスを十分に保ち行われた(2022年3月30日)

――令和4年度予算「『清流の国ぎふ』づくり~ウィズ・コロナからアフター・コロナへ」が成立されました。現在の新型コロナ対策についてお聞かせください。

本県では、「『オール岐阜』での対策推進」「専門知の尊重・積極的活用」「スピードと決断」の3点を基本姿勢とし、長期戦の構えで全力で新型コロナ対策に取り組んできました。当面の対応としては、3月22日以降「まん延防止等重点措置」の適用を解除しましたが、新規感染者数、陽性率、ワクチン追加接種率など、未だ第6波の出口が不透明な状況にあります。

このため、改めて各般の対策の徹底、継続を明確にしました。すなわち、ウィズ・コロナ対策として、まず飲食、移動、学校行事、家庭生活等にあたっての慎重な感染再拡大防止対策、しっかりとした療養体制の堅持、3回目のワクチン接種の加速化といった対策の「3つのフロント」で推進しております。併せて、生活困窮者や孤独・孤立対策などにも目を配り、県民の暮らしを守るための施策にも全力で取り組んでおります。

ポジティブな話題がコロナ禍の閉塞感を吹き飛ばす

――コロナ禍の閉塞感を打破するような、明るい話題はありますか。

岐阜県では、重苦しい日常に希望の光がさすような明るい話題が数多く生まれております。例えば、先般の北京冬季オリンピックでは、スキー競技フリースタイル男子モーグルの堀島行真選手、スノーボード女子ビッグエアの村瀬心椛選手、ノルディック複合男子団体の永井秀昭選手と、出場した岐阜県ゆかりの3選手全員がメダルを獲得するという快挙を果たし、県民に勇気と感動を与えてくれました。

観光分野では昨年、長良川流域が国際認証機関により「世界の持続可能な観光地100選」に選ばれましたし、下呂温泉は旅のプロが選ぶ第35回「にっぽんの温泉100選」で2位に選ばれました。さらに、当県の伝統芸能である地歌舞伎の保存・振興の中心的役割を担ってきた岐阜県地歌舞伎保存振興協議会が、その活動実績が認められ、2021年度ふるさとづくり大賞団体表彰(総務大臣表彰)を受賞しました。

「世界の持続可能な観光地100選」に選出された「長良川流域」

農林水産部門でも、「第51回日本農業賞」の個別経営の部で、養豚業の(有)吉野ジーピーファームが大賞および農林水産大臣賞を受賞、郡上漁業協同組合は国際基準の水産エコラベル「マリン・エコラベル・ジャパン漁業認証規格Ver.2.0」を、淡水漁業としては初めて取得しました。

このように、岐阜県の未来を明るく照らす、県民の皆さんの創意工夫や努力を、大変頼もしく感じており、引き続きしっかりと支援してまいります。

デジタルとアナログが共存する
「岐阜らしい」デジタル社会へ

――様々な領域のDXが進んでいますが、県のDXに関する対応をお聞かせください。

コロナ禍により、リモートワークやオンライン会議など、新しい仕事のあり方が日常の一部になりました。これに限らず、デジタル化は、人口減少や少子高齢化時代の様々な課題への解決策になることが期待されます。本県では、県内市町村長や各界の代表の方々とともに議論を積み重ね、「岐阜県デジタル・トランスフォーメーション推進計画」を策定しました。

この計画には3つの柱があります。1つ目は、「県民がDX効果を実感できる取組み」です。AIが自動集約したSNS情報による災害時の被災状況の把握や、アプリを活用したスポーツや健康活動の促進、リアルとオンラインのハイブリッド公演・展示会の実施などを進めます。

2つ目の柱は、「デジタル環境の整備及びイノベーション創出」です。中小企業におけるクラウド活用や、半導体関連産業やデータセンターの誘致のほか、農業ビッグデータを活用した収量や収益性の向上、森林情報を一元管理する森林クラウドシステムの活用などに取り組みます。

そして3つ目は「新たな成長の芽を育てる人材育成」です。デジタル技術を活用したSTEAM教育の推進、DX人材育成のための社会人教育、建設や建築業におけるデジタル活用人材の育成など、幅広い分野で取り組みを進めます。

こうした計画では「岐阜県らしさ」をどこに求めるかが大切です。本県ではそれを「誰一人取り残されないデジタル社会」を実現することであると考えています。単に社会に発生するデジタル・デバイドを解消するというのではなく、デジタル化の持つプラス面とともにマイナス面にも目を配ることで、誰もが幸せに暮らすことができる社会の実現を目指します。そのためには、技術を導入するだけでなく、既存のルールや業務モデルを洗い直して、県民サービスや生産性を向上させることが重要です。

また、デジタル社会だからといってアナログを切り捨てることがあってはなりません。デジタル社会には、身体的、精神的ストレスといった負の側面もあります。それを軽減するのは、リアルな体験や人によるケアといったアナログです。デジタルとアナログを上手く共存させることが、岐阜県が目指す「誰一人取り残されないデジタル社会」を実現するのだと思います。本年度から県庁内に新設した「デジタル推進局」が中心となり、岐阜県らしいデジタル社会の構築を進めてまいります。

県が率先して取り組む脱炭素
削減目標は2030年までに70%

――アフター・コロナに向け、「脱炭素社会ぎふ」の達成も目指されています。

本県では、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする「脱炭素社会ぎふ」を目標にしています。そのための取組みのポイントは2つあります。1つ目は、「県による率先実施」です。一排出事業者としての県自身が、2030年度までに70%の削減目標を掲げています。これは政府の目標である50%を大きく上回るものです。これを実現するための柱は、「徹底的な省エネ推進」、「再生可能エネルギーの積極導入」、「次世代自動車の導入」です。具体的には、新築施設のネット・ゼロ・エネルギー・ビル化、使用電力の再生可能エネルギー由来100%化、県有施設への太陽光発電設備の設置、公用車のうち全乗用車のEV、PHV、FCVへの更新などに取り組みます。

2つ目のポイントは、「オール岐阜体制」で取組みを展開することです。今年度は、2030年度までに国の削減目標46%を上回る目標を掲げ、これを進めるために、産業界などの各分野の代表からなる推進会議を創設するとともに、県民・事業者・市町村等の各主体と連携し、温室効果ガス削減に向けた取組みを推進します。そして、住宅への太陽光発電設備の設置や、エネルギー地産地消に向けた取組み支援、燃料電池自動車導入や電気自動車充電設備の導入支援、県内の森林における「J-クレジット」ならぬ「G-クレジット」認証制度の構築など、広範囲な分野で脱炭素化に向けた実効性のある施策を進めていきます。

航空宇宙産業の競争力強化と
世代の切れ目のない人材育成

――新産業創出として、従来より航空宇宙産業の育成に注力されています。これまでの取組みと今後の構想をお聞かせください。

宇宙産業は2040年には世界市場が110兆円に達すると見込まれています。本県ではその宇宙産業を中核産業と位置付づけています。2021年11月には産学官による「ぎふ宇宙プロジェクト研究会」を立ち上げ、JAXAの技術者などを招き、県内企業に最新の宇宙産業の情報を提供してきました。今後は、宇宙分野への部品供給に向けた調査・分析、マーケティング指導のほか、人工衛星やロケットなどの製造を行う関連企業とのマッチング支援などを行い、将来的には衛星データの活用など宇宙に関する新ビジネスにも取り組んでいきたいと考えています。

かかみがはら航空宇宙博物館に展示中のH-Ⅱロケット 開頭試験用衛星フェアリング(左上)、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」(模型)(右上)。航空宇宙生産技術開発センターの講義(左下)、実習(右下)

航空宇宙産業の競争力の強化に向け、世代の切れ目のない人材育成にも注力しています。子どもたちに航空宇宙への夢や関心を抱いてもらうため、各務原市にあった博物館を、内閣府・経産省・文科省・航空宇宙学会・航空宇宙工業会と連携して、「岐阜かかみがはら航空宇宙博物館(愛称:空宙博(そらはく))」としてリニューアルしました。スミソニアン航空宇宙博物館、シアトルの航空博物館、フランスのル・ブルジェ航空宇宙博物館など、世界的な航空宇宙関連の博物館と連携協定を結んで展示を行うなど、宇宙を巡る国際交流の場という役割も担っています。

高校生には、実習施設として県立岐阜工業高等学校内に設置した「モノづくり教育プラザ」、就職者に対しては、スキルアップを支援する「成長産業人材育成センター」といった拠点を整備しました。さらに、岐阜大学内に設置した「航空宇宙生産技術開発センター」では、先端生産技術を活用できる人材を育成しています。また、新たにスタートした東海国立大学機構では、統合された岐阜大学と名古屋大学のそれぞれの強みを活かし、航空機の設計から製造、飛行実証や評価に至る一連のプロセスを体験できる国内初のカリキュラム「航空宇宙設計・生産融合人材育成プログラム」を実施しています。さらに、社会人向けに、品質や原価について学ぶ講座や、電動模型飛行機の自動組立実習を行う講座を実施しています。

こうした連続的な取組みにより、岐阜県に人が集まり、イノベーションが起き、スタートアップ企業が生まれ、「航空宇宙の岐阜県」となることを目指しています。

――地域活性化のために「新次元の地方分散」も掲げられていますが、進捗はいかがでしょうか。

2020年度の県への移住者数は、過去最高の1752人を記録しました。コロナ禍における地方回帰の動きは、ライフスタイルの見直し、リモートワークなどの働き方改革とともに広がりを見せています。こうした動きを、従来の移住や定住とは質的に異なる「新次元の地方分散」と捉え、県内にさらに人や企業を呼び込み、地域の活力創出につなげていきたいと考えています。

今年度は、従来の移住促進のオンラインセミナーや移住フェアなどに加えて、リアルとオンラインを併用した相談対応や移住セミナーなどの新たな取組みを実施して、本県の魅力をさらにアピールしていきます。

企業誘致については、2020年度までの5年間で全国平均の約2倍にあたる217件の工場立地件数となりました。今後は、東海環状自動車道西回り区間の整備などによる急速なアクセス向上を活かし、半導体をはじめとするデジタル関連産業の誘致を強化していきます。

2年連続で大河ドラマの舞台に
戦国・武将観光を推進

――アフター・コロナに向けた観光戦略について、お聞かせください。

コロナ収束後のインバウンド再開とV字回復を見据えて、地域資源の磨き上げを着実に進めておくことが重要だと考えています。本県では従来から、全国や世界に通用する地域資源の磨き上げを進める「岐阜の宝もの認定プロジェクト」に取り組んでいます。これは、県内外から「ふるさとのじまん」を募集し、その中から全国に通用するものを「岐阜の宝もの」として認定するプロジェクトです。今後はその認定基準にサステナブル・ツーリズムの国際指標を取り入れ、世界が認める持続可能な観光地域づくりを進めます。

すでに、長良川流域や白川村が国際認証機関より「世界の持続可能な観光地100選」に選ばれています。こうした評価も活かしながら、自然や歴史、文化、匠の技といった本県の魅力を官民連携によるデジタルマーケティングの展開を進めることで、戦略的に国内外に発信していきます。

加えて、NHK大河ドラマでは、一昨年の「麒麟がくる」に続いて、本年の「鎌倉殿の13人」では、クライマックスとなる承久の乱の激戦地の1つが、本県の美濃地域です。また、来年の「どうする家康」でも、本県が重要舞台の1つになっています。これらを機に、近隣県との連携を一層強化し、「岐阜関ケ原古戦場記念館」を核に、豊富な県内の戦国武将ゆかりの地を活かした戦国・武将観光を推進していきます。

2020年開館の「岐阜関ケ原古戦場記念館」

東西両軍の激突を大迫力で描くシアター

 

古田 肇(ふるた・はじめ)
岐阜県知事