時事テーマから斬る自治体経営 「先進事例」の注意点
ある自治体が何か新たな取り組みを行うと、それは「先進事例」となる。その後、多くの自治体担当者が同地を視察し、自分の自治体にも導入できないかと検討する。近年はシティプロモーションや子育て支援策などが特に注目されてきたが、それら先進事例を参考にする際の注意点とは何だろうか。
自治体は先進事例を参考にして政策を立案する傾向が強い。先進事例を参考とすることは、決して悪くはない。しかし、注意する視点がある。今回は先進事例を参考にする際の注意点に言及する。
先進イコール成功ではない
最初に「先進事例は必ずしも成功事例ではない」という事実を指摘しておきたい。自治体職員や地方議員に、筆者が視察先を選定した理由を尋ねると「先進事例だから」という回答が多くある。ここで注意してほしいのは、先進事例は必ずしも成功事例ではないという事実である(図)。先進事例とは、あくまでも「他に先駆けて実施した事例」のみである。読者は「先進事例が本当に参考とすべき事例か」を客観的に検討する必要がある。
図 先進事例の注意点

出典:筆者作成
A市はシティプロモーションの先進事例と称されている。確かにA市は2000年半ばという早い時期からシティプロモーションに取り組んできた。しかし、A市はこの10年間で、定住人口が大幅に減少し、交流人口も逓減の状態である。しかも財政も悪化している。A市はシティプロモーションの先進事例と言えるが、むしろ失敗事例と捉えた方が正しいだろう。
ところが、A市はシティプロモーションの先進事例と認知されているため、視察が相次いでいる。議会視察も多くある。A市を視察したB議員は、自らの議会で「A市を参考にしてシティプロモーションを実施し、定住人口の増加を目指したらどうか」(趣旨)と執行部に質問している。もしA市を参考にして、シティプロモーションを実施したら、様々な指標が悪化する可能性がある。
B議員の議会質問を前後の文脈から想像すると「A市はシティプロモーションの先進事例だから、きっと定住人口を増加させているだろう」と考えている様子が窺える。B議員は「先進事例がイコール成功事例」と短絡的に考えていることが失敗のはじまりである。この点は注意しなくてはいけない。
繰り返しになるが、先進事例イコール成功事例ではない。A市の場合は、先進事例ではあるが失敗事例と認識した方が正しい。失敗事例と判断した場合は、反面教師として活用した方が賢明である。
なお、B議員のように「定住人口を増加させたい」と考えるならば、シティプロモーションに取り組んでいる自治体に視察に行くのではない。視察に行くべきは「定住人口が増加している自治体」である。このように書くと、当たり前のことを述べているだけである。ところが、当たり前すぎて気が付かない現状がある。
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