海外のGX注目企業20選 排出ゼロを目指す様々なアプローチ

二酸化炭素などの温暖化ガスを実質排出ゼロにするための事業が世界各地で進んでいる。水素やアンモニアを燃料に用いるための技術開発、商業化には多くのプレイヤーが参入している。二酸化炭素の回収、固定化や再利用でも、経済性や実現性のある手法の検討が進み、既にプラントが稼働したものもある。

米LanzaTech社

米国イリノイ州に本社を置く企業。工場から排出される一酸化炭素、二酸化炭素などの排気ガスや、プラスチック、バイオマスをはじめとする様々な廃棄物をガス化したものを原料に微生物を培養、炭素をバイオエタノールとして回収する。このガス発酵プロセスに使う微生物は同社がウサギの腸内細菌をもとに独自に開発・改良した。これで生産したバイオエタノールは、燃料、繊維、包装材などに再利用できる。廃棄物を炭素源として利用するため、食料との競合が起きない。また工場の操業から発生する二酸化炭素を直接回収する手段としても注目されている。同社では、産業活動由来の環境汚染が過去のものとなる新たな炭素循環型経済の実現を目標にしている。商業プラントはインドの製油施設と、中国の鉄鋼所で既に操業を開始している。2020年にLanzaJet社を設立し、再生エタノールを原料としたバイオジェット燃料とバイオディーゼル燃料の商業化を目指している。

日本企業ではANAが同社よりバイオジェット燃料を購入することを、ブリヂストンが使用使用済タイヤを再生資源としてリサイクルする技術開発のパートナーシップ開始を発表している。積水化学工業とは、共同開発した技術に基づく合弁会社積水バイオリファイナリーを設立、岩手県久慈市の実証プラントが2022年に稼働を始めた。

 

米Amogy社

アンモニアを高効率で電力に変換する技術を開発している企業。水素燃料電池の先進テクノロジーと水素キャリアとしてのアンモニアの優位性を組み合わせて利用する作戦で、アンモニア燃料を水素に変換してから燃料電池に送り込むシステムをつくっている。既に、アンモニアを燃料に動く出力100kWの燃料電池トラクターを製作している。これはディーゼルエンジンのトラクターのように短時間で燃料補給ができるのが特長で、1回の補給で数時間分、動作可能な電力を供給できたという。また2023年1月には、大型トラックを同社のアンモニア燃料システムで走行させる実証実験にも着手している。

同社の技術は農業分野やトラック輸送部門の脱炭素化につながるとして期待されており、大型トラックや輸送船の実証実験も予定している。日本企業では2023年3月に商船三井、同子会社のMOL PLUSとアンモニア燃料船に関する覚書を3社間で締結。同時にMOL PLUSはAmogy社への出資を決めている。

 

中国SPIC Hydrogen Energy Tech社

中国の主要電力企業の1つ、国家電投集団傘下の水素技術開発スタートアップで、2017年に設立された。水素製造装置や燃料電池、およびそれらの主要部品を製造している。2022年12月にはシリーズBで45億元を資金調達し、中国の水素エネルギー分野で初めてのユニコーン企業となった。水素エネルギー産業を戦略的に育成するという中国の方針のもと、国営企業としてエネルギー・製品ラインの両方から産業チェーン全体を開発・発展させ、必要な技術と機器を開発し、グリーン水素エネルギーサプライヤー、水素エネルギーエコシステムを先導する役割を果たすことが期待されている。

 

シンガポールHorizon Fuel Cell Technologies社

低出力から高出力のモビリティ向け、そしてメガワットスケールの発電用までを様々な製品を手掛ける水素燃料電池企業。統合が容易なモジュール型の燃料電池をの大量生産・供給を開始している。韓国の国有鉄道や欧米、アジア太平洋でのトラック、バスなどの大型車両向けに製品を提供中だ。2018年には中国で1000台の水素燃料トラック向けの受注を獲得、2020年には米国にHyzon Motors社を設立し、水素燃料電池技術による輸送用トラックを開発している。

 

スウェーデンPowerCell Group社

輸送業界に水素燃料電池モジュールを提供するため、2008年にボルボグループからスピンオフして設立された企業。同社の製品はエネルギー密度が高く、バス、トラック、建設機械などのさまざまな車両で利用できるほか、航空・船舶向けにも供給している。ボッシュ、ボルボやスウェーデンエネルギー庁などが出資しており、ボッシュとは燃料電池の共同開発も行っている。

 

フランスErgosup社

分散型のグリーン水素供給ソリューションを開発・販売している。再エネと水を原料に、オンサイトの電解槽で水素の大量生産と安全な貯蔵を可能にする。機械式コンプレッサーを使用せずに、高圧で純粋な水素を直接生成する点に特徴がある。同社の水素イオン貯蔵を使うと、水素を非常に長期間(週、月など)にわたって水素イオンの形で液体電解質に貯蔵することが可能だという。

 

イスラエルH2Pro社

水素燃料を安価に製造する技術を目指すスタートアップで創業は2019年。水の電気分解による水素製造を改良した、「E-TAC」技術を開発している。通常の水の電気分解では、酸素と水素が同時に発生するが、E-TACでは、H2Pro社独自の電極を用いて水素を先に発生させ、その後、加熱により酸素を発生させる。これにより電力消費を抑制しつつ酸素と水素を分ける隔離膜が不要になる。同社にはビル・ゲイツ財団や韓国 Hyundai社、仏Arcelor Mittal社が出資している。日本企業では住友商事がイスラエルで設立したCVCを通じて出資した。

 

英H2 INDUSTRIES社

液体有機水素キャリア(LOHC)を用いた水素貯蔵の技術を持つスタートアップ企業。工業用の熱伝達流体として用いられているトルエン系オイルを水素キャリアとして利用すると、常温常圧で水素の貯蔵・輸送が可能になる。LOHCの水素化と脱水素プロセスでは、同社独自の触媒技術を使用している。水素をLOHCに結合させる化学反応は、多孔質貴金属触媒とLOHCが入った水素化ユニットの中で生じる。脱水素プロセスには250~300度の熱が必要なため、自然に水素が漏れることはない。2025年には海運業界向けに、LOHCと供給ユニットの提供を開始する計画。

 

スイスGRZ Technologies社

特殊な微細構造を持つ金属製コンポーネントを用いた水素貯蔵の技術を持つスタートアップ企業。再エネ余剰電力を水素として大量に貯蔵することを可能にする技術開発を進める。同じ技術を利用した熱水素圧縮機や、グリーンメタンを生産するためのプラントの開発にも挑戦する。韓国Hyundai社と連携して貯蔵できる水素密度の飛躍的な向上を図っている。

 

米H2scan社

パラジウム/ニッケルセンサーによる水素モニタリングと水素漏洩検知装置を提供する企業。水素とパラジウムの相互作用を利用した水素のセンシング技術に基づいた、モニタリング装置や水素漏れ検知装置を提供している。同社の装置は15年以上に渡って、電力会社、製油所、ガスライン会社、原子力発電所、燃料電池製造施設などで用いられている。

 

米Starfire Energy社

小型・分散型のグリーンアンモニア製造モジュールと、アンモニアから水素をつくる分解技術の開発をしている。設立は2007年。アンモニア製造については、触媒技術に加え、従来よりも低圧・省エネルギー、そして再エネの出力変動に柔軟に対応できる技術をもつ。商用化に向け、スケールアップに挑戦しているところだ。出資企業としては、APベンチャーズやシェブロン・テクノロジー・ベンチャーズ、New Energy Technology社などの他、大阪ガスと三菱重工業が、それぞれ米国子会社を通じて出資している。

 

スイスClimeworks社

チューリッヒ工科大学から2009年にスピンオフした会社で、空気中から直接CO2を回収する技術(DAC技術)を開発している。同社が開発した特殊な膜フィルターで回収したCO2は、CO2を必要とする食品加工会社、飲食店、農家などへ販売する。2021年にアイスランドCarbfix社と協力し、アイスランドの地熱発電所に隣接する場所に、二酸化炭素を玄武岩に吸着させるDAC施設を稼働させた。2022年には米Microsoft社と、二酸化炭素回収・貯留に関する10年間のオフテイク契約を締結ずみ。

 

英Storegga Geotechnologies社

大気中のCO2を直接回収するDirect Air Capture(ダイレクト・エア・キャプチャー、DAC)によるCO2の回収・輸送・貯留を行うAcorn CCSプロジェクトを遂行中。欧州初となる大規模DACプラントの商業運転達成に向けた事業化調査を進めている。プラントで回収されたCO2は、枯渇した油・ガス田に恒久的に貯留する計画だ。過去に排出され、空気中に蓄積されたCO2を回収、除去できるネガティブCO2エミッションを実現し、CO2排出量マイナスにつなげる。三井物産、Macquarie Group Limited、GICなどが出資。

 

米Commonwealth Fusion Systems社

トカマク型核融合発電の商業化を目指した技術開発を進めるMIT発のスタートアップ。2023年2月にはマサチューセッツ州に20万平米の本社兼研究所を開設した。実験用の小型トカマク型核融合炉SPARCを同地に建設中。稼働予定は2025年で、2030年代始めにエネルギー供給を開始する。核融合炉に必要な、小型で強力な磁場を発生する高温超電導(HTS)磁石も同じ敷地内の工場で製造する。イタリアのエネルギー企業Eni社、ビル・ゲイツ氏のBreakthrough Energy Ventures、シンガポールTemasek社 などから資金を調達している。

 

英PowerHouse Energy Group社

そのままではリサイクルできない廃プラスチックを無酸素状態で高温で処理し、水素含有ガスを製造するシステムを提供する。その際熱源には同システムから得た燃料を用いる。廃棄物やバイオマスに含まれる化学エネルギーを効率よく回収する、新しいケミカルリサイクルを提唱している。英国の環境プラント企業Peel L&P Environment社と連携しており、初めての商業プラントを英チェシャー州に開設する準備を進めている。

 

フランスBack Marker社

スマートフォンやタブレットなど中古の電子製品を買い取り、工場で修理して「リファービッシュ品」として保証付きで販売する。フランス、ドイツ、米国に拠点を持つ。使用可能な資源を活用し、新品の過剰生産を防止することで地球環境の持続可能性に貢献する。中古品を買い取り、清掃・修理したリファービッシュ品の利幅は新品販売より高いという。日本にも進出したい考えだ。

 

英Connected Energy社

EVバッテリーをアップサイクルして産業用サイズの蓄電池をつくる企業。同社の産業用大型蓄電池は、欧州ではEV充電設備、再生可能エネルギー発電所などの現場に既に導入されている。EVバッテリーの二次利用の可能性を広げることで廃棄物を削減し、自動車業界に貢献するとともに、再エネ導入で電力業界が抱えるようになった需給バランスの課題を解決する。日本企業では住友商事が出資を公表している。

 

英Monodraught社

商業ビル向けに、持続可能な換気、冷却、暖房、照明ソリューション設計、製造、設置とメンテナンスサービスを提供する企業。40年以上の歴史がある企業で、ビルの省エネ化の研究開発を積極的に進めている。アルミニウム製のパイプで屋根から屋内に日光を導入する「サンパイプ」はロンドンオリンピックのハンドボール競技会場や、高級商業施設として再開発されたロンドンのバタシー発電所などに導入されている。この他にも、相変化材料を用いた空冷・換気システムや、ヒートポンプによる暖房ユニットなどネットゼロエネルギー住宅に向けた製品を提供している。

 

米Seald社

既存住宅をアップグレードし、高断熱化するとともに、ヒートポンプシステムを導入して効率の良い冷暖房システムを提供する。同社の特徴は、最初にシステム導入にかかる費用をゼロにすることで、より多くの人が二酸化炭素排出量が少ない暮らしを始められるようにしていること。このため、同社のサービスを利用したい住宅を、事前に細かく調査し、エネルギーコストを把握する。初期導入費用はSeald側が負担し、顧客は月々のエネルギーコストの削減額に見合った支払いをするという費用負担システムを採用している。

 

米DANDELION ENERGY社

地中熱ヒートポンプシステムを提供する企業。地中熱ヒートポンプとは、住宅の地下に地熱を得るためのユニットを埋設し、夏は冷気、冬は暖気を得る設備のこと。米国の研究機関による試算では、地中熱の活用により住宅が消費するエネルギーを7割削減できる。ニューヨーク州にある住宅で、地下のボイラー設備を同社の地中熱システムに置き換えたところ、二酸化炭素排出量を4分の1に減らせたという。

 

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