夢と実用性を兼ね備えた「スーパーアドビ」住宅

(※本記事は『reasons to be cheerful』に2025年6月16日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

アース・ワン画像
(写真提供:CalEarth)

カリフォルニアで相次ぐ山火事の被害を受け、あるシンプルで災害に強い建築手法が再び注目を集めている。それは、古代と現代の技術を融合させた住まいづくりだ。

カリフォルニア州ヘスぺリア──モハーヴェ砂漠の南端にあるこの町の画一的な住宅街の背後に、まるで大人のホビットのための遊び場のような光景が広がっている。砂の中からはアーチ型の建造物、完全な円形ドーム、そして緊急用シェルターが顔をのぞかせている。

これらの幻想的な構造物の中には、正式な許可を得た延べ床面積約213平方メートルの3LDK住宅「アース・ワン」がある。2台分のガレージと2つのバスルームを備え、上下水道と電気も完備されている。室内はアースカラーで塗装され、アーチ型の天井や曲線の壁が心地よい居住空間を演出している。ウォークインクローゼットや通常のキッチンといった最新設備も整っている。

この「アース・ワン」を含む周辺の建物群を手がけたのは、カリフォルニア州にある非営利団体「CalEarth(カリフォルニア地球芸術建築研究所)」だ。CalEarthは、「未来の住まいは地球上でもっとも古い素材──土──にある」と信じる人々によって形成されたムーブメントの中心に位置している。

アース・ワン内部画像
アーチ型の天井と曲線の壁が「アース・ワン」に温もりを与えている(写真提供:Michaela Haas)

一見すると、これらの建物は砂漠地帯で昔から見られる「アドビ」と呼ばれる日干し煉瓦の住居に似ている。しかし、CalEarthの創設者である故ナーダー・カリリ氏が「スーパーアドビ」と呼んだこの手法は、従来のアドビとは一線を画す。袋に詰めた土を蛇のように巻き重ね、鉄条網で固定することで、強固で曲線的、かつ耐火性の高い構造物を生み出す。防水のために外壁には漆喰が塗られているが、使われているのは基本的に「土」「袋」「ワイヤー」「水」という極めて素朴な素材ばかりだ。

「この村全体は、この地面の土だけで建てられているんです。この中庭の土もここから掘り起こしました」と語るのは、創設者の娘であり、現在CalEarthの財務責任者を務めるシーフテ・カリリ氏だ。「それがこの建築法の魅力なんです。あるものをそのまま使って、家を建てられるんです」

ある土曜日の朝、100人以上がヘスぺリアのCalEarthを訪れ、毎月開催されるオープンハウスでこのユニークな構造物を実際に見学した。見学者の中には、山火事の被災者やロサンゼルスから訪れた建設業者の姿もあり、耐火性と低コストの代替住宅を模索していた。「このスーパーアドビはマグニチュード7.2の地震にも山火事にも、ハリケーン・マリアにも耐えたと聞きました」と話すのは、リサーチの成果を確認しに来た白髪の建設業者。「そして、通常の家の約3分の1のコストで済むんです」

土地の土で建てられた建物画像
「この村全体は、この土地の土でできている。それこそが魅力。あるものを使って家を建てるのです」──シーフテ・カリリ(写真提供:Michaela Haas)

続きは無料会員登録後、ログインしてご覧いただけます。

  • 記事本文残り72%

月刊「事業構想」購読会員登録で
全てご覧いただくことができます。
今すぐ無料トライアルに登録しよう!

初月無料トライアル!

  • 雑誌「月刊事業構想」を送料無料でお届け
  • バックナンバー含む、オリジナル記事9,000本以上が読み放題
  • フォーラム・セミナーなどイベントに優先的にご招待

※無料体験後は自動的に有料購読に移行します。無料期間内に解約しても解約金は発生しません。