ブロックチェーン技術用い真贋証明 伝統工芸品の流通に新風

日本の伝統工芸作家の作品を購入できるマーケットプレイスを運営するARTerrace(アーテラス)。ブロックチェーン技術を駆使し、作品の真贋を保証することで、コレクターや愛好者が安心して作品を購入できる点が最大の特長だ。日本の伝統工芸を世界と繋ぎ、日本の文化の豊かさを発信することを目指す。

聞き手 : 小宮 信彦 事業構想大学院大学 特任教授、電通 ソリューション・デザイン局 シニア・イノベーション・ディレクター

小宮 起業に至った経緯について教えてください。

藤野 以前はファミリーマートの経営企画部門に従事しており、新規事業を立ち上げることに面白さを感じていました。店舗で扱う商品のトレーサビリティ管理の仕事に関わる中でブロックチェーンに興味を持ちました。この技術を生かすことによって課題の解決ができないかと考え、着目したのが日本の伝統工芸です。

藤野 周作
(ARTerrace代表取締役社長)

現状では、人間国宝の作家が制作した伝統工芸品を古物商に売る時の価格は買値の3割ほどにとどまるケースが多いです。なぜなら、本物かどうかを判定できる人がいないからです。そこで、3Dスキャンした数値データを管理することによって正確な真贋判定ができるようになれば安心して売買ができ、流通が活発になると考えました。退職後、ブロックチェーン技術を持つ海外資本の会社で働いた後、3年ほどかけてシステムを作り上げ、2024年2月に起業しました。

真贋判定に利用する3Dスキャナー(左)。右は類似した2作品を、スキャンしたデータを用いて照合した例

伝統工芸品のECを開始
真贋証明データは300年保証

小宮 オンライン上で伝統工芸品を展示、販売できるプラットフォームを提供されています。どのようなビジネスモデルなのか教えてください。

藤野 伝統工芸作家から作品を消化仕入れ(商品が販売されたタイミングで、その商品を仕入れたとする取引形態)し、お客様に実際にお買い上げいただいた段階で、作家さんにお支払いをし、私たちに手数料が入ります。また売り上げの一部を寄付し、伝統工芸の発展に寄与しております。作品は私たちの手でお預かりし、3Dスキャンをしてデジタルデータで保存します。購入時にはNFTを活用して真贋証明と購入者の所有権を証明する正規品認証書を発行します。また、WEB3.0ベースの分散ストレージ技術を用いてデータを300年間保証する仕組みも整えました。私たちはすべての作家の工房を訪れ、制作の様子をつぶさに見ます。そして、プラットフォーム上で、それぞれの作品の説明だけでなく、作家の背景や作風、技法などの情報も提供しています。

陶芸、金工、漆芸などARTerraceでは様々な日本の伝統工芸品を扱っている

小宮 日本における伝統工芸品の流通を変える取組ですね。

藤野 例えば米国では1次、2次流通の規模が同程度あるのに対し、日本では工芸作品の真贋判定ができないために、2次流通はほぼ行われていないのが現状です。私たちの仕組みによって所有する人が増え、2次流通も活発になればと期待しています。買っていただくお客様には買うことにとって日本の文化を未来に残すことに貢献したという事を実感していただきたいですね。

人間国宝作家からも高評価
伝統工芸ファンの拡大に期待

小宮 どのような作家の作品を取り上げているのでしょうか。

藤野 たとえば、有田焼の名門で、色絵磁器において陶芸家としては最年少で人間国宝となった十四代今泉今右衛門先生や、金工の第一人者として知られ、2008年に人間国宝に認定された桂盛仁先生です。他にも、重要無形文化財「鍛金」を代表する女性作家の大角幸枝先生、伝統的な漆技法を用い、現代のデザインに昇華させる革新者として知られる松本達弥先生の作品などを扱っています。

ある人間国宝作家からは「ブロックチェーン技術を使った証明書が発行されることにより、購入される方は安心して買うことができる。日本の伝統工芸文化を愛してくださる幅広い方がつながって移転する仕組みが整うことは作家にとってもありがたい」とおっしゃっていただいています。また、購入されたからは、「売るつもりはないけれども、売れる安心感があるのはありがたい」とおっしゃっていただいています。購入した作品を保管してほしいという要望もあり、さらにサービスを発展させていきたいと考えています。

小宮 大阪・関西万博の共創チャレンジに取り組まれています。どのようなことを期待していますか。

藤野 伝統工芸とWeb3技術を融合することによって過去の遺産を未来に継承し、デジタル技術によって新しい価値創造を実現する取り組みは、大阪・関西万博のテーマである「未来社会のデザイン」に密接に関連しています。万博の場で、日本の伝統工芸の魅力を世界中に発信するだけでなく、文化を未来の世代に伝える新しい方法を提案する機会になればと期待しています。

私たちは日本の伝統工芸を一人でも多くの皆さんに伝えることを目的にしています。志を同じくする方がおられれば、ブロックチェーンを活用した仕組みも提供させていただきたいと考えています。伝統工芸職人だけでなく、新しい市場に挑戦したいと考える職人や文化団体とも手を携えていきたいですし、教育機関との連携を通じて、文化と技術の融合を学ぶ学生や若手クリエイターに対して実践的な経験の場を提供し、新たなキャリアのきっかけになればとも考えています。

小宮 今後、プラットフォームをどのように発展させていきたいと考えていますか。

藤野 日本の伝統工芸が好きな方に利用していただきたいのはもちろんですが、今まで伝統工芸に興味はあったけれども一歩踏み出すことができなかった人たちや、日本の工芸文化をまだあまりよく知らないという人にこそ触れてほしい。知っていただき、興味を持ち、購入し、使っていただくことで、日本ならではの伝統工芸の文化を感じてほしいと思います。そして、今後は世界の人たちにも積極的に発信し、日本の豊かな文化を広めていきたいと考えています。