脱炭素への挑戦は新規事業のチャンス NEDOのGI基金事業

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、脱炭素を実現する企業などの野心的な取組を後押しする、総額2兆3000億円のグリーンイノベーション基金事業を推進中だ。開始から2年が経過した同基金事業の現状と、同事業の取組をいかに将来構想に生かすか、ヒントを聞いた。

NEDOグリーンイノベーション基金事業統括室長の梅原徹也氏(右)と、同室主査の北川和也氏

日本政府は2050年のカーボンニュートラル実現と併せて、脱炭素化を「成長の機会」と捉えるという姿勢を打ち出している。そして「経済と環境の好循環」を作る新たな産業政策として、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し、重点14分野を中心に企業などの取組を全力で後押しすると表明した。そのなかでも目玉とされるのが、NEDOに創設した「グリーンイノベーション基金」(総額2兆3000億円)だ。

研究開発・実証から社会実装まで
参画企業のコミットを求める

最大の特徴は、基金としての特性を生かし、研究開発・実証から社会実装までを見据え、企業などの野心的な取組に対して最長10年間の継続的な支援を行うこと。また、「成果最大化に向けた仕組み」として、「事業化に向けた企業の本気度を示してもらう」(梅原氏)ためのコミットメントを課し、長期的な事業戦略ビジョンの提出を求め、採択審査に反映するだけでなくウェブサイトで一般に公表。取組状況が不十分な場合には、事業中止や委託費の一部返還を求めるとしている。一方で、NEDOの研究開発プロジェクトとして初めて、目標達成度などに応じて国費負担割合が変動する「インセンティブ制度」も盛り込んでいる。

総額2兆3000億円の基金を20のプロジェクトに投入する計画で(表参照)、研究開発はすでに動き出している。「次世代型太陽電池の開発」「大規模水素サプライチェーンの構築」「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」「スマートモビリティ社会の構築」などすでに19件のプロジェクトに対して10年間で最大約1兆8700億円の拠出を決めた。このうち、1件の「製造分野における熱プロセスの脱炭素化」については現在公募中。また、残る1件の「廃棄物・資源循環分野におけるカーボンニュートラル実現」についても現在計画が検討されている。

表 グリーンイノベーション基金事業のプロジェクト

出所:グリーンイノベーション基金事業を元に編集部作成。各プロジェクトには、 企業の他に大学・公的研究機関が参加している。詳細は各プロジェクトのサイトを参照

それぞれの研究開発プロジェクトは、従来の国家プロジェクトにおける平均規模(200億円程度)以上が主で、市場規模やCO₂削減効果の大きさなどが重視されている。現在、大企業がプロジェクトに多く参画する状況ではあるが、現実的に社会実装を考えると、サプライチェーンの上流から下流まで、様々な企業の協力は必須になる。「その中には中堅・中小企業も数多く含まれてくるでしょう。また、新たな産業を創出する役割を担う、スタートアップの活躍にも大変期待しています」と梅原氏はいう。

既に始動しているプロジェクトでも、中堅・中小企業やスタートアップが担い手になっているプロジェクトは複数ある。また、「グリーンイノベーション基金事業は、毎年進捗状況を確認し、社会情勢の変化に合わせて各プロジェクトの目標も柔軟に変えていく方針です。開発スピードを上げなければならなくなったとか、追加的に新たな技術開発が必要になった際には、ピンポイントで当該技術を持っている企業に手を挙げてもらわないと課題が解決しないケースも想定されます。中堅・中小企業やスタートアップにも常に関心を持って推移を見ていてほしい」と呼びかける。

参画企業の事業戦略ビジョンから
脱炭素のビジネスチャンスを知る

グリーンイノベーション基金事業は、単にプロジェクトに参画する企業のためだけのプロジェクトではないと梅原氏は言う。例えば、プロジェクトに参画する大企業は、基金事業のウェブサイトで、各プロジェクトの「事業戦略ビジョン」として将来の事業構想を公開している。「これを見ると、参画企業が具体的にどのようなセグメントで収益化を狙っており、いつ頃・どのような技術が必要とされるのかについて把握できます。脱炭素に関心を持つ事業者にとって、研究開発やサービス開発のテーマを決める際の参考になるはずです」。

将来的には、自治体や地域にプロジェクトがかかわりを持ってくる可能性もある。現在の社会を変革し、カーボンニュートラル社会を実現することが目的の研究開発プロジェクトだけに、実証実験、事業化の際には様々な主体の協力が欠かせない。既に地元の自治体が協力している例として、「大規模水素サプライチェーンの構築」プロジェクトでは、水素利用の拡大に取り組む川崎市の臨海部が海外からの輸入水素の受け入れ地として選定されている。「他の地域でも、プロジェクトにより様々なビジネスチャンスが生まれてくる可能性があります。自治体や地域の関係者は、地元企業が参画しているプロジェクトを、関心を持って見守ってほしい」と梅原氏は呼びかける。

現在、基金事業として発表されているのは20プロジェクト。脱炭素技術開発への要請が強まっていることもあり、当初2兆円で始まった基金に、2022年度第2次補正予算で3000億円が基金に上積みされた。さらに2023年度当初予算のうち4564億円も基金への積み増しが予定されており、既存プロジェクトの内容追加や新規プロジェクトの追加をするべく、経済産業省中心に検討が進んでいる。プロジェクトの進捗や追加を含めた情報発信に向け、NEDOでは今後、基金プロジェクトの特設サイトを充実させる予定だ。脱炭素に関わる市場や世界の動きも把握できるようにしていき、企業や自治体などが「今後、いつごろまでに何をすればよいのか」を検討する材料として活用してほしいと考えている。