日本製鋼所 コア技術で変化に対応 脱炭素のチャンスをつかむ

鋼の加工技術をコアに、戦前は兵器メーカー、戦後の高度成長期はインフラ・エネルギー、そして原子力発電所向けの部材から現在の産業機械と、主力ビジネスを変化させてきた日本製鋼所。社会が脱炭素を目指す中、再生可能エネルギーの供給を支えるインフラ提供に可能性を見出している。

宮内 直孝(日本製鋼所 代表取締役社長)

日本製鋼所は現在、約2100億円の売上の8割を産業機械が占める、B to Bの機械メーカーだ。中でもプラスチック製造・加工に使われる産業用機械のシェアが大きい。「製鋼」の文字が社名にある通り、10年ほど前まで、同社の事業の半分は素形材、すなわち原料を溶かして製造した鋼や合金に熱や力を加えて加工し、複雑な形状や高い強度を持つ金属部品を製造・供給するビジネスだった。1907年の創業から、同社はこれまでに何度も大きな事業内容の変革を経験しつつ、企業としての存続を図ってきた。現在は、脱炭素社会の実現という大きなビジネスチャンスへ向け、変革の最中にある。

技術を核に事業転換と拡大に成功

日本製鋼所代表取締役社長の宮内直孝氏は、「もともとは兵器の国産化を目指して設立され、大砲や小火器を製造する会社でした。第二次世界大戦後、民需を目的とした素形材と産業機械の製造にシフト。日本の経済成長と共に、発電用タービンローターや造船部材、石油精製・石油化学プラント用圧力容器など、エネルギー・インフラを支える巨大な部品加工を手掛けるようになりました。高温高圧に耐える鋼を、顧客の要望に応えて加工するというのが日本製鋼所のコア技術といえます」と説明する。

その集大成と言えたのが、原子力発電所向けの部材である原子炉用圧力容器だ。二酸化炭素を出さないエネルギーとして注目され、「原子力ルネッサンス」が盛り上がっていた2000年代は、世界シェアの7、8割を占めるまでに成長していた。しかしそれも、2011年3月の東日本大震災に続く福島第一原子力発電所の事故以降は方針転換する必要に迫られた。

「原発向けのビジネスで成功体験があり、震災後もしばらくは復活を期待する雰囲気が社内にありました。しかし2017年に私が社長に就任した時点で産業機械へのシフトを明言、資源を集中して今に至っています」。

事業内容は変化しているものの、企業としての在り方や哲学はあまり変化していないと宮内氏は指摘する。戦前の兵器製造は、顧客である軍の要望を満たすために様々な技術的チャレンジを行っていた。民需に転換し、インフラ・エネルギー産業向けの製品の製造を始めてからも、顧客のリクエストに対応し、過去にないサイズや過酷な条件に耐えうる部材を製造できる技術開発を進めてきた。

「素形材も産業機械も、お客様の要求に技術陣がトライして成功する、の繰り返しでした。特に素形材とプラスチック加工用機械は歴史が長く、世界的にも『困ったら日本製鋼所に聞いてみよう』というブランド力があります」。

脱炭素で生まれる新ビジネス

脱炭素を目指す社会の動きは、同社のビジネスに更なる変化をもたらす可能性がある。まずは製造技術。日本製鋼所では鋼の製造には電気炉を使用しており、このプロセスからの二酸化炭素排出は少ない。一方で、さまざまな部材を加工する前段階のひずみの除去プロセス、加熱炉での熱処理は、高温かつ長時間にわたるため二酸化炭素排出が多くなる。そこで他社とコンソーシアムを組み、アンモニア燃料による加熱炉の開発を進めようとしているところだという。

また、再エネ関連事業にも粘り強く取り組んでいる。日本製鋼所は2019年に風力発電機の製造・販売事業からの撤退を発表した。これは、日本の気候条件で陸上風力発電の風車を販売しても、利益を出しづらいという経営判断に基づくものだ。一方で、発電所をつくるための巨大な部材では、インフラ・エネルギー分野の経験の蓄積を生かせる。

「例えば、着床式の洋上風力発電の杭を打つための巨大な部材。原発の部材の製造技術を転用して作っています。海外では大型の洋上風力発電の設置が盛んであること、他に作れる企業がないことから案件が増えてきています」。

水素エネルギーのインフラを支える製品も、成長が期待される新分野だ。燃料電池自動車に水素を供給する水素ステーション用の鋼製蓄圧器(水素タンク)や、水素吸蔵合金(MH)を用いた水素貯蔵設備など、安全性を担保しつつ、長く使える製品を提供している。

水素ステーション用鋼製蓄圧器

「特にMHタンクは小型燃料電池への水素供給で利用が伸びることを期待しています。再エネの負荷変動を平準化するために、燃料電池を使った給電システムが必要になりますので、需要は伸びていくのではないでしょうか。これらの開発には補助金なども活用して、様々な試験を実施しているところです」と宮内氏はいう。

日本製鋼所の水素タンクは、水素の輸入にも活用できると同氏は考えている。再生可能エネルギーの主力である風力発電、太陽光発電については、日本国内では発電に適した土地が限られる。一方海外では、低コスト再生可能エネルギーで「グリーン水素」を生産できる。日本には、当初は未知のエネルギー源だった液化天然ガス(LNG)を、産業利用で大きく成長させた実績がすでにある。LNGの経験を生かし、水素をタンクで海外から輸入するという選択も今後は可能性がありそうだ。

社内資源活用とM&Aをにらむ

日本製鋼所はものづくりの会社であり、社員はものをつくることが好き。宮内氏自身、過去にはリチウムイオン電池のセパレーター・フィルムなどを製造する機械の開発に関わった経験がある。なお同製品は現在、世界シェア7割を占める製品になっているという。ただし、ものづくりへの志向は強みであるとともに弱点でもあると宮内氏は考えている。

樹脂を加工する産業用機械の1つ、フィルム・シート製造装置

「例えば、部材の製造・加工のために大型機械を使用したり、原発の部材向けの非破壊検査を実施してきたノウハウを生かして、メンテナンス・サービス事業を成長させたいと考えています。しかし、新しくサービスのビジネスを創り出す人材はまだ少ない。ものづくりも大切だが、今後はビジネスを創り、担う人を育てていかねばなりません」。

現在の主力となった産業機械系の事業では、プラスチック以外の分野に進出することを計画している。子会社の事業や、他社との共同開発に着手しているフォトニクス分野や液晶関連、半導体基板の製造装置など、同社にとって有望な分野は多い。

「M&Aなどにより、外部の事業と人材を合わせて社内に取り込み、拡大させたい。そのために、50~60億円規模の比較的小規模な企業を買収し、大きく育てていきたいと考えています」と宮内氏は方針を説明した。

大特集 企業存続の危機 カーボンニュートラルの光と陰

宮内 直孝(みやうち・なおたか)
日本製鋼所 代表取締役社長

 

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