鈴木直道・北海道知事 国を牽引するデジタル産業の集積地を目指す

全道へのデータセンター誘致を行う「北海道データセンターパーク」の推進に取り組む北海道。次世代半導体の国内での量産化を目指すラピダスの千歳市進出を契機とした、デジタル関連企業・人材の一大集積地を目指す構想も進んでいる。鈴木直道知事に、今後の北海道が目指す姿について聞いた。

鈴木 直道(北海道知事)

――北海道では、温室効果ガス排出量を2030年度までに48%削減、2050年までに実質ゼロとする「ゼロカーボン北海道」を目指されています。取組の進捗状況をお聞かせください。

北海道は2020年に、国に先駆けていち早く、2050年までの温室効果ガス排出を実質ゼロとする「ゼロカーボン北海道」を打ち出しました(図表1)。これは、気候変動対策はもとより、ゼロカーボンへの投資により新たな雇用や産業を創出し、地域を活性化し、「環境と経済の好循環」を目指すものです。決断の背景にあるのは、北海道の再エネポテンシャルです。「日本全体の2050年ゼロカーボン達成には、全国随一の再エネポテンシャルを誇る北海道が頑張らないといけない」という強い思いを持って取り組んでいるところです。

図表1 「ゼロカーボン北海道」の概要

出典:北海道

 

これまでの進捗状況として、最新の2020年度は温室効果ガス排出量から吸収量を差し引いた実質排出量の推計値は5134万トンとなっており、ゼロカーボン北海道推進計画に基づく基準年の2013年度と比べて30.3%減少、前年度と比べて5.4%減少する見込みです。

今後は2050年までのゼロカーボン北海道の実現に向け、新エネ導入に加え、省エネ設備への改修、人材育成、研究開発などの取組をより一層加速する必要があります。脱炭素に資するために必要な事業に中長期的な視点で継続的に施策展開を図る観点から、この度、全国トップクラスとなる100億円規模の基金を設置しました。この基金を活用し、地域の再エネ導入や水素利用をはじめ、ブルーカーボン、半導体、ゼロカーボンを担う人材の育成などに取り組むこととしています。

そして本年度は、本道の日本海側の5カ所が「有望地域」に選定された洋上風力の取組の加速化のほか、データセンターなど再エネ消費産業の誘致推進も含めた、関連産業の振興に関する取組を一層強化します。同時に、省エネ住宅の取得・改修や太陽光パネルの導入などを進めていきます。

また、こうした取組に加え、地域の脱炭素化、家庭及び事業者の方々の行動変容の促進、さらには、吸収源対策や道有施設の脱炭素化など様々な分野における取組を充実することなどにより、道民の皆さまと一体となって、環境と経済が好循環する「ゼロカーボン北海道」の実現に全力を尽くしていきます。

北海道を省エネ・ゼロカーボンの
データセンターの集積地に

――昨年、石狩から札幌・千歳・苫小牧にかけてのエリアを中心に道内全域で展開する「北海道データセンターパーク」を打ち出されました。その目的と主な施策についてお聞かせください。

我が国が直面する少子高齢化、担い手不足、生産性の長期的な低迷といった社会課題の解決のみならず、デジタルと脱炭素の両立、成長力の復活、経済安全保障の観点からもデジタル技術の活用は必要不可欠です。同時にデジタル技術の普及は、まさに道民の日々の生活や企業の事業活動において、利便性や生産性の向上など様々なメリットをもたらす可能性を秘めています。

こうした中、北海道には冷涼な気候や豊富な再生可能エネルギー、自然災害リスクの低さといった優位性があります。それを最大限活かしながら、省エネ・ゼロカーボンのデータセンターとそれらのデータセンターを利用するデジタル関連企業、デジタル関連人材、この3つの集積を目指す「北海道データセンターパーク」の取組を積極的に推進しています。また、本年2月には、次世代半導体の製造企業であるラピダス社に千歳市への立地を決定いただいたことで、石狩・札幌・千歳・苫小牧といった道央エリアを中心に、本道にデジタル関連産業を育てる素地ができつつあります。

そこで、これらの状況を捉え、道では、データセンターや次世代半導体に加えて、国際海底通信ケーブルなどのデジタルインフラを核として、それらを活用するAIの高度計算処理基盤やクラウドサービス、自動運転やドローン、スマート農林水産業、スマートインフラといった多様で革新的なデジタル関連産業の集積に向けた「推進方向」を、この7月に打ち出しました。

この推進方向では、デジタルの効果や好循環の全道への拡大・波及に向け、まず、道央圏を軸にデータセンター等のデジタルインフラを面的に整備、それをハブに道内各地に分散型のデータセンターを設置し、これらのインフラ間を高速なネットワークで接続することで、全道にデジタルインフラを拡大させていきたいと考えています。

併せて、農林水産業や観光といった、それぞれの地域の特色を活かした幅広い産業におけるデジタル化等を進めることで、生産性の向上や高付加価値化を図ります。ドローンや自動運転といった新技術をいち早く実装することで、様々な社会課題の解決に繋がることを期待しています。さらに、道内の大学や高専、高校、関係機関と協力しながら、全道各地でデジタルや半導体を支える人材を育成していきます。こうした取り組みにより、デジタルによる効果や好循環を、広大な北海道の全域に拡大・波及させていきたいと考えています。

デジタル産業の転機となる
ラピダスの工場立地

――ラピダスはこの9月に、千歳市で次世代半導体工場の建設を開始します。同社の北海道進出の経緯と、道のデジタル産業に与える影響についてお聞かせください。

近年、デジタル化の急速な進展により、半導体の需要は大幅に伸び、世界中で次世代半導体の開発が加速する中、国においては、日米間の首脳・閣僚レベルで連携を進めるなどして、我が国の次世代半導体の製造基盤の確立に向けた取組を行ってきています。

こうした中、昨年8月、次世代半導体の量産製造を目指して、国内トップの技術者が集結し、トヨタ自動車、NTT、ソニーグループなど国内主要企業8社等の出資により、ラピダス社が設立されました。国の日米協力の枠組みの下、米国IBM社と連携し、線幅(せんはば)が2ナノメートル以下の最先端・最高水準の半導体の技術開発に取り組み、量産製造の事業化を目指しているところです。この次世代半導体は、量子、AIなどを含む様々な分野で大きなイノベーションをもたらし、日本の半導体産業の再興・発展のみならず、我が国の経済安全保障にも貢献する極めて重要な中核技術となるものです。

私はこうしたラピダス社の前例のないチャレンジに強い共感を覚え、今年の2月、自ら同社の社長にトップセールスを行い、最終的に、良質で潤沢な水資源や、自然に囲まれた広い工業用地、多くの理系人材を輩出できる教育機関、豊富な再生可能エネルギーなどをラピダス側に評価いただき、新工場の建設予定地を北海道千歳市に決定していただきました。

ラピダス社では、2025年のパイロットライン稼働、2027年の量産製造開始を目指し、過去に例のないスピードで工場などの整備を進める中、道としても、共に挑戦するパートナーとして、必要なインフラ整備や人材育成などについて、国や地元千歳市、経済団体等と緊密に連携して取り組んでいきます。また、ラピダス社の立地を契機として、次世代半導体の製造・研究・人材育成等が一体となった複合拠点の実現を目指しており、今後の取組の指針となる「仮称・北海道半導体産業振興ビジョン」をとりまとめ、オール北海道で目指すべき方向を共有し、各般の施策に取り組んでいきます。

ラピダスの次世代半導体工場のイメージ 資料作成:Rapidus株式会社、作図協力:鹿島建設株式会社

また、国はこの5月、東京圏・大阪圏を補完・代替するデジタルインフラ中核拠点の整備を促進する地域として、北海道と九州を位置づけました。これは先述の北海道データセンターパークの推進力となるだけでなく、次世代半導体やAIなどとの連携による様々なイノベーション創出を大きく前進させる力となります。ラピダス社の小池社長は、データセンターパークと重なる地域をデジタル産業の一大集積地とする「北海道バレー構想」を提唱されています。これは道のデジタル関連産業の集積に関する取組とも親和性が高いため、同社を核に、データセンターパークとも連動しながら、各施策(図表2)に戦略的に取り組んでいきたいと考えています。

図表2 「 北海道データセンターパーク」とデジタル関連産業集積への取組

出典:北海道

 

一次産業や宇宙産業から、
北海道らしいスタートアップを創出

――スタートアップや起業家支援においては、北海道はどのような取組を行っていますか。

スタートアップは、本道経済の活性化はもとより、地域課題の解決にも大きな役割を担っています。

道ではこれまで、関係機関と連携しながら、産学官による共同研究や、新たな製品開発などへの助成に加え、起業経験者や投資家の方々の指導・助言などによる優れたアイデアや技術を有する人材の発掘・育成、地域と企業が連携した実証試験の支援などに取り組んできました。こうした取組により、札幌圏を中心にITやバイオ関連、十勝や空知地域などで宇宙関連のスタートアップも創出されてきましたが、こうした動きをさらに加速させるため、2023年6月に、道庁に「スタートアップ推進室」を新たに設置し、支援体制を強化しました。

今後は、学生を対象とした起業塾の開催や、起業希望者を対象とした計画作成から事業化に向けた一貫した伴走支援を提供していくほか、道内で事業展開を目指すスタートアップと道内自治体等とのマッチングや実証実験を支援します。さらに、首都圏で本道のビジネス環境等をPRするイベントを開催する計画などもあり、市町村や関係機関との連携を一層密にしながら、一次産業や宇宙、食・観光、エネルギーといった本道に優位性のある分野において、「北海道らしいスタートアップ」の創出と集積に取り組んでいきます。

アドベンチャートラベル・
ワールドサミットをアジア初開催

――北海道の観光産業活性化のための施策についてお聞かせください。

本道が有する自然や食、文化の魅力は、コロナ禍を経ても輝きは変わらず、再び成長軌道に乗せていく大きな強みとなります。新型コロナウイルス感染症の水際対策終了に伴い、本道経済に大きな効果をもたらすインバウンドを含め、本格的な観光需要回復の兆しが見えてきました。道では、コロナ禍を経て変化した旅行者ニーズも踏まえながら、アジアはもとより欧米などをターゲットとした戦略的プロモーションを通じて、新たなインバウンドの取り込みを進めます。本道の強みを生かしたケア・ツーリズムやワイン・ツーリズムの推進、アドベンチャートラベルに代表される観光の高付加価値化に向けた取組などを重点的に展開し、関係機関と一体となって観光産業の活性化に向けた取組を加速していきます。

また、2021年にコロナ禍によりバーチャル開催となったアドベンチャートラベル・ワールドサミットが、本年9月、本道でリアル開催されます。世界約60カ国800人の参加者が来道されますが、この皆さまは、多くの顧客を抱えるバイヤーやインフルエンサーなどです。こうした参加者の心に強く残るものとするため、主催するアドベンチャートラベル・トレード・アソシエーション(ATTA)はもとより、国や関係自治体、パートナー企業等と緊密に連携し、機運醸成、受け入れ体制の準備を進めているところです。

アジアで初となる今回のリアル開催は、本道観光の発展に向けた大きなチャンスです。この機会を最大限に生かし、アドベンチャートラベルの適地である「北海道」を世界にアピールするとともに、道内各地にアドベンチャートラベルが根付くよう、地域や事業者の皆さまと一体となってツアー商品の開発や国内外へのPRなどに取り組んでいきます。

2023年9月、アジア初のアドベンチャートラベル・ワールドサミットをリアル開催する

今後の日本の発展を牽引する
存在を目指し、果敢に挑戦

北海道、そして我が国は、今、大きな転換期にあります。世界的な潮流として、地球温暖化や、人口問題などの課題への対応が急務となっている中、3年を超える新型コロナウイルス感染症との戦いで疲弊した経済の立て直し、国際情勢の変化によるエネルギーや原材料価格の高騰など、様々な課題に直面しています。一方で、ビッグデータ、AIといったデジタル技術の進展は、時間や場所の概念に変革をもたらしつつあり、我が国は、新たな価値観とデジタル技術が創り出す社会、そして、これまでに経験したことのない社会へと進んでいるところです。

こうした世界的な潮流を踏まえて、本日お話ししたように、様々なポテンシャルを最大限発揮し、北海道の価値を押し上げていくとともに、北海道が今後の日本の発展を牽引し、世界の中で輝いていけるよう、果敢に挑戦していきたいと思います。

 

鈴木 直道(すずき・なおみち)
北海道知事