シロ コスメブランドを軸に、社会課題を解決する会社に

日本発コスメティックブランドとして、近年世界で認知度を高めている「SHIRO」。ブランド誕生時より、「自分が毎日使いたいものをつくる」「素材の魅力を最大限引き出す」という理念を実践し、高品質な製品を生み続けている。ブランドプロデューサーの今井氏に、製品開発の経緯や今後のビジョンを聞いた。

今井 浩恵(株式会社シロ 代表取締役会長、SHIRO ファウンダー/ブランドプロデューサー)

年間100以上の新製品を開発

「厳しい自然が育んだ素材の力を最大限に引き出し、自然の恵みを余すことなく製品に使い切る」をものづくりの哲学に掲げる「SHIRO」。その哲学に共感した人々の口コミで認知が広がり、近年急成長を遂げているコスメティックブランドだ。

フレグランスやスキンケア、メイクアップまで多様な製品を展開

フレグランスからスキンケア、メイクアップ製品まで多様なシリーズを展開しているが、ユニークなのは、がごめ昆布を使用した「がごめ昆布シリーズ」や、酒かすと米ぬかを使用した「酒かす米ぬかシリーズ」など、生産者の顔が見える、日本ならではの身近な素材を使用した製品を開発・販売していること。また、年間100以上という驚異的な数の新製品をリリースしていることも特徴だ。

北海道栗山町の小林酒造の酒かすと、石川県能登半島で自然循環型の農法で農作物を生産する山燕庵の米ぬかを使った「酒かす米ぬかシリーズ」

「結果的に年100程度の新製品が出ていますが、製品の開発計画は立てていません。開発から販売まで一貫しているのがSHIROの特徴で、自社工場も開発チームもあり、私が今この瞬間、『これがつくりたい』と思ったらすぐにつくれます」と、SHIROを運営する株式会社シロの会長で、ブランドプロデューサーの今井浩恵氏は語る。

「一昨日もラベンダーを見に行っていましたが、開発担当者に『すごくいいラベンダーを見つけたから送るね、これでこういうのをつくって』とLINEで伝えました。すると、1週間もしないうちに、私の自宅にサンプルが届きます。つくりたいと思ったものがすぐ手に取れ、どの程度の熱量でそう感じたのかを忘れないうちに試せるので、製品化の判断も早いです。開発担当者とは、LAURELというSHIROの前身のブランドの時から20年以上一緒なので、そのスピード感が普通になっています」

今井氏は、ハーブや石けん、ジャムなどを製造していた、北海道砂川市の株式会社ローレル(現、シロ)に1995年に入社。2000年に26歳の若さで創業者から事業を引き継ぐと、食品・雑貨製造から化粧品製造販売へと事業を転換し、OEMを請け負いつつ、2009年に自社ブランドの「LAUREL」を立ち上げた。

全ての基点は、自分が欲しいか

その後、2013年にOEM事業から撤退し、2015年にブランド名を「LAUREL」から「shiro」へ変更。2016年のロンドン出店を皮切りに世界市場へ進出し、2019年のリブランディングにより、現在のSHIROへ行き着いた。今井氏は2021年に会長に就任し、現在、ブランドプロデューサーの役割に専念している。この事業変革の経緯について、今井氏は「本当にシンプルに自分が欲しいもの、毎日使いたいものだけを生み出していった結果」だと言う。

「世の中にすでにあるもので『儲かりそうだから、ここで勝負しよう』というのではなく、世の中になくて、もっとこういうものがあったらいいのにと思うことを見つけてものづくりをしたら、今のSHIROができました。普通の経営者は事業計画や売上計画を考えるのかもしれませんが、私は全くそういったことを考えません。『これが欲しい、いいものをつくる、お客様にお伝えする』の繰り返しです。宣伝もほとんどせず、いいものをつくれば自然と広がり、数字に出るというシンプルな構造です」

マーケットインでもなく、また、一般的なプロダクトアウトよりもさらに徹底した形で、今井氏の思考や感性を製品に落とし込んでいるSHIRO。それが、同ブランドの最大の強みになっている。

「例えば、香水は従来、ラグジュアリーブランドの高価なものか、ドラッグストアで販売されている安価なものの二択でしたが、『その中間にある心地よい香りのフレグランスが欲しい』と思い、つくりました。全ての基点は自分が欲しいかどうかで、どこかで買えるのであれば、それを私がつくる必要はないと考えています」

さらに、SHIROのもう一つの強みは、今井氏自らが製品の素材を国内外へ探しに出かけ、生産者と会話して自らの目で選ぶことだ。

「一般的なコスメティックメーカーは植物エキスなどをドラム缶で購入し、そのエキスがどんな原料から、どういう工程でつくられているのかを知らずに使っていることがほとんどです。SHIROは原料から徹底してこだわっているので、その差は非常に大きいと思います」

社会課題を解決できる会社にする

SHIROは2021年に、今後のブランドの方針を「ラグジュアリーでもなく、ローカルでもなく、今の社会に存在しない『何か』を目指す」と定めた。そして同年6月より、砂川市内で自社工場の移転と同市の活性化を目指す「みんなのすながわプロジェクト」を開始。2023年4月に、新工場の「みんなの工場」がオープンした。

「新工場では、『工場を開く』ことをテーマにしました。一番の目的は、子どもたちの原体験をつくることです。工場の研究開発室とキッズスペースがガラス一枚で隣り合っているので、子どもたちが楽しく遊ぶ風景の先で、大人がビーカーを振って製品をつくっています。それが10年後、20年後、子どもたちが就職の際などに、ものづくりに対して前向きな想いを持つきっかけの1つになればと願っています」

今後のビジョンとして、今井氏は「一次産業などの社会課題を解決できる会社にしたい。シロの場合は今すでにあるもの(素材)を使い、地球へ還元していくことが役割」と力を込める。同社は2024年春、SHIROの世界観を体感できる一棟貸しの宿泊施設「MAISON SHIRO」を開業するが、これも林業の課題を解決したいとの想いで始まったプロジェクトだ。自生する森の蘇生過程で生まれる間伐材の材質や取れ高に合わせて建物を設計したり、捨てられてしまう枝葉を天然湧水で蒸留するラボラトリーを併設するなど、従来の施工主本位の設計ではない、“森の都合”に合わせた施設になる。

「SHIROはこれまで、農業と漁業の生産者さんに会いに行き、使っていないものや捨てるものを原料として活用させていただくという製品づくりをしてきました。しかし、唯一、林業だけやっていなかったのです。結果的に宿泊施設になりましたが、宿泊施設をやりたかったわけではありません」

これまでも、SHIROはカフェやサロンなどの新業態に進出してきたが、これらも理念に沿った行動の結果として生まれた事業だという。

「例えば森で拾った落ち葉を原料にした製品をつくり、それがすごく売れるようになれば、いつの間にか、地球って気づいたらSHIROのおかげでキレイになったね、という日が来るかもしれない。一般的な会社とは考え方が逆ですが、営利目的でなく、ただものをつくって消費を促すのでもなく、つくりたいのはそんなブランドです。今の事業だけが、SHIROがやりたいことではありません。今後は、社会の手が届いていない部分で私たちができることを見つけ、その課題解決に取り組んでいければと思っています」

 

今井 浩恵(いまい・ひろえ)
株式会社シロ 代表取締役会長
SHIRO ファウンダー / ブランドプロデューサー