齋藤元彦・兵庫県知事 人・モノ・投資・情報が集まる「躍動する兵庫」へ

国内外から多様な人やモノを惹きつける魅力あふれる兵庫をつくるため、若者の活躍を広げるためのスタートアップ支援や、高いポテンシャルをもつ大阪湾ベイエリアの活性化など、様々な新たな施策に取り組む兵庫県。「大阪・関西万博を地域経済活性化のチャンスに」と語る齋藤元彦知事に、今後の構想を聞いた。

齋藤 元彦(兵庫県知事)

3つの施策により
兵庫のブランド力を高める

――齋藤知事が目指されている兵庫県の姿についてお聞かせください。

昨年就任して以来、私が目指しているのは「躍動する兵庫」をつくり上げることです。新たな挑戦が次々と湧き上がり、人・モノ・投資・情報を国内外から惹きつける、そんな魅力あふれる兵庫をつくりたい。「躍動する兵庫」に向けて、私は大きく3つの視点を定めています。

まず、“新しい成長の種をまく”ことが大切だと考えています。若者たちの活躍を広げるスタートアップ支援の強化はもちろん、企業等のデジタル化の促進や社会全体での脱炭素化の加速、兵庫の魅力を発信する新たな観光戦略の推進など、成長の原動力となる施策の展開を進めています。

また、“地域の価値を高める”ことも重要です。海上交通の実証実験をはじめ、高いポテンシャルをもつ大阪湾ベイエリアの活性化に向けた取組や、空き家の有効活用を促す土地利用の規制緩和など、新しい事業に着手しました。このように、県内各地の魅力や可能性に磨きをかけて広く発信するとともに、人口減少で顕在化する課題への対応も進めていかなければなりません。

そして、全ての基盤となるのが安全安心です。県下に“安全安心の網を広げる”ため、ヤングケアラーや課題を抱える妊産婦への支援、発達障害児の保育施設への受入拡大のほか、災害に強い県土づくりにも引き続き取り組みます。

これらの施策により、HYOGOのブランド力を高め、国内外からヒト・モノ・投資・情報が集まる兵庫をつくり上げるべく邁進していきます。

――大阪湾ベイエリア活性化推進協議会やSDGs推進本部の立ち上げなど、新たな取り組みを開始されました。大阪・関西万博も控えていますが、これらを県の活性化にどう活かしますか。

2025年の大阪・関西万博の開催は、兵庫県にとっても大きなチャンスです。県内には、多彩な地場産業や持続する農林水産業に加え、大震災からの復興という力強い活動の歴史が各地域に存在しています。SDGs達成への貢献が目的の一つに掲げられる大阪・関西万博に向けて、まさにSDGsを体現するこれらの地域活動をそのモデルとして、広く国内外に発信していきます。

具体的には、地域の活動の現場そのものを、地域の人々が主体となって発信して、多くの人に訪れてもらい、その方々に地域を見て、学び、体験していただきたい。我々は、この地域活動の現場を「ひょうごフィールドパビリオン」と名付けました。そして今、県民の皆さんから、各地域の特色ある取組や活動を募っているところです。これらの取組が万博後もレガシーとして根付き、地域に様々な人やモノ、投資が集まる兵庫を、県民の皆さんと一緒につくっていきたいと考えています。

また、先ほども触れましたが、万博会場も含まれる大阪湾ベイエリアの活性化が、兵庫の活性化に直結します。言うまでもなくベイエリアには、多くの事業所はもちろん、関空・伊丹・神戸の3空港や、大阪港・神戸港といった交通インフラが集中し、高度な研究機関も多数集積しており、非常に高いポテンシャルを有しています。

「大阪湾ベイエリア活性化推進協議会」は、このようなベイエリアの強みや特色を活かしたビジョンを描き、官民で連携しながら新しい発想や手法を取り入れたプロジェクトを推進するために設置しました。この協議会を最大限に活用しながら、万博を契機とした地域経済の活性化を図っていきます。

グローバルな社会変革を生み出す
システム・プロダクトを創造

――兵庫は阪神・播磨の工業地帯の鉄鋼・造船・機械・化学工業を根幹に発展された一方、約40業種の地場産業が集積しています。既存産業の競争力を高めるための取り組みをお聞かせください。

ものづくり県ひょうごとして、技術の高度化によって競争力を強化し、県内産業の活性化を進めてきました。例えば、「中小企業に開かれたものづくり技術支援機関」として、神戸・姫路・西脇に工業技術センターを設置しています。ここでは、中小企業のニーズを的確に把握し、技術相談や指導、共同研究など、具体的な成果につながる技術支援のほか、戦略的な技術開発や技術の高度化支援を行っています。

また、地域に根差した地場産業の活性化も大切です。県では、産地組合や産地企業の産地ブランド化に向けた取組への支援や、地場産品の情報発信、PR活動の促進による販路開拓も進めています。今年度からは、地場産品のさらなる魅力向上のため、産地組合が行うSDGsの取組への支援も始めていますが、今後も社会情勢や産地のニーズに応じた施策を積極的に実施していきたいと考えています。

――新産業や次世代産業の育成についてはどのような取り組みがありますか。

2003年度から、産学官連携による初期段階の共同研究を支援しています。これまでに、航空・宇宙分野やロボット分野、環境・エネルギー分野など、累計267チームの研究を支援し、85%以上の研究が実用化・商品化に至るなどの成果をあげました。引き続き、立ち上がり期の研究プロジェクトを支援し、新たな芽を大きく育てていきます。

加えて、次世代成長産業の育成も重要です。県では、ドローンや空飛ぶクルマといった次世代モビリティの社会実装にも積極的に取り組んでいます。また、県内に関連企業が集積する電池分野と、製造の国内回帰を目指す半導体分野の技術開発促進に向けて、産学官で連携した協議会を立ち上げ、推進体制を強化していきます。今後も、世界最先端の科学技術基盤や、優れた技術を持つ企業の集積などの強みを最大限に生かし、未来を支える産業分野を育てていきます。

――起業家育成やスタートアップ・エコシステムの創出など、県内に新たな――起業家育成やスタートアップ・エコシステムの創出など、県内に新たなイノベーションを生み出すための施策についてお聞かせください。

新たなイノベーションを生み出すためには、若者の挑戦を支え、社会課題の解決や新たな産業活力の創出につなげる取組が欠かせません。県・神戸市・国連機関UNOPSが連携して支援を行う「SDGs CHALLENGE」では、昨年度に採択したスタートアップのうち5社に対し、さらに1年間の追加サポートを実施し、本格的な海外事業展開につなげようとしています。今年度は新たに14社を採択し、兵庫県・神戸市からグローバルな社会変革を生み出すシステム・プロダクトの創造を目指します。

また、新たにスタートさせた「HYOGO TECHイノベーションプロジェクト」では、社会課題解決型のスタートアップが持つ様々な技術と県下の地域課題とをマッチングさせ、県民主体の課題解決モデルの創出に取り組んでいます。

県民主体の課題解決モデルの創出に取り組む「HYOGO TECHイノベーションプロジェクト」。例えば、全国的な古民家宿泊ブームの火付け役となった丹波篠山市(下)は、関係人口の見える化と関係値を深める新たな仕組みの構築を目指し、同プロジェクトに参加 Photo by Buuchi /PIXTA

人材育成では、今年4月に「ひょうごスタートアップアカデミー」を始動しました。県内6校の中学校・高校で、シリコンバレー生まれの課題解決型のアントレプレナーシップ教育プログラム「BizWorld」を実施しています。県内の4大学と連携した起業人材育成と併せ、社会課題の解決に主体的に取り組む若者を育成しています。

約4000の行政手続の
オンライン化を進める

――産業や行政のDXには、どのように取り組んでいかれますか。

兵庫県では、県民の誰もがデジタルの恩恵を享受できる“スマート兵庫”を実現するため、2024年度までの3年間の「スマート兵庫戦略」を策定しています。行政・暮らし・産業・基盤の4つのデジタル化を取組の柱として位置づけ、市町や民間との連携により、デジタル化を戦略的に推進していきます。

産業分野では、AIやロボットの導入など企業のDXを推進するため、「スマートものづくりセンター」を県内4か所に設置しました。企業ニーズに応じた相談や指導、研修プログラムへの助成などを通じて、DX人材の育成に取り組んでいます。

また、行政DXの取組としては、行政サービスの利便性を向上させるため、行政手続のオンライン化を進めています。約4000の行政手続について、特に効果・実現性の高いものから優先してオンライン化を進めます。処理件数が多い主要な手続は、国の対応や対面が必要な手続などを除いて、来年度までに全てオンライン化する予定です。手数料・使用料等の支払いについても、電子納付システムや窓口端末の導入によりキャッシュレス化を進めます。

播磨臨海地域で新エネルギーの
サプライチェーン拠点を形成

――県の脱炭素へ向けた方針や目標についてお聞かせください。

2050年カーボンニュートラルの実現には、この10年間の取組が鍵を握っています。県では、今年3月に「地球温暖化対策推進計画」を改定しました。2030年度の温室効果ガスの排出量は2013年度比で48%削減、再生可能エネルギー導入は2020年度実績の約2倍である2030年度100億kWh、再エネ比率30%に引き上げた目標を掲げ、強力に温暖化対策を進めています。

これらの目標達成に向けた取組の一つとして、初期投資を必要としないPPA方式を活用し、県施設の駐車場等への太陽光発電設備の導入に取り組んでいます。導入にあたっては、プロポーザルで選ばれた事業者との公民連携で事業が進んでいるところです。県自らがPPA方式による太陽光発電設備の導入に取り組むことで、課題の把握・解決を図りながら、今後は市町や民間企業に拡げていきたいと考えています。

また、姫路港を含む播磨臨海地域は、製造品出荷額等が全国2位となるなどエネルギー消費量が大きく、エネルギーの供給拠点としてのポテンシャルが高い地域です。このような地域で、産業の脱炭素化や水素等の新しいエネルギーのサプライチェーン拠点の形成に取り組むことには、大きな意義があると考えています。このため、県では今年7月に産学官が参画する協議会を立ち上げ、来年度半ばの計画策定を目指して、播磨臨海地域カーボンニュートラルポート形成計画の策定に着手しました。

さらには、県民の日常生活での脱炭素化を広げることが大切です。そこで、将来の有力なエネルギーと期待されている水素エネルギー利活用の拡大にも取り組んでいます。具体的には、FCVの普及に必要不可欠な水素ステーションの整備を補助しています。これまでの大・中規模ステーション整備に加え、今年度から低コストで導入可能な小規模ステーション整備への補助制度を創設しました。こうした取組により、現在県内4箇所目となる中規模水素ステーションが神戸市内で、5箇所目となる小規模水素ステーションが三木市内で整備が進むなど、少しずつ効果が現れてきています。2025年までに県内10ヵ所以上への設置を目指しています。

脱炭素社会の実現には、県民・事業者・団体・行政等のステークホルダーが一体となって取り組むことが極めて重要と考えています。様々な主体の参画と協働のもと、県が率先しながら、脱炭素への取組を加速していきます。

各地の風土をストーリーとして
体験する「兵庫テロワール旅」

――観光産業では、アフターコロナに向けてどのような戦略がありますか。

アフターコロナの観光は、団体から個人への流れが加速するでしょう。その土地ならではの出会いや学び、そして感動を求める本物志向が高まるものと考えています。このため、現在検討している来年度以降の観光戦略では、兵庫でしか味わえない「本物の観光体験」を提供していく予定です。

有馬温泉や姫路城はもちろん、県内各地には、それぞれの地域に根ざした「食」、「人」、「風土」といった魅力ある地域資源が数多く存在します。まさに、来年にはJR全国6社と連携した兵庫デスティネーションキャンペーン(DC)を予定しています。これをきっかけに、各地の地域資源を育んだ自然、歴史、文化などの風土を、一つのストーリーとして体験する「兵庫テロワール旅」として提案していきます。

左/有馬温泉は日本書紀にも記録がある日本最古の温泉 Photo by miiko/Adobe Stock
右/日本初の世界文化遺産に登録された姫路城 Photo by AGATAFOTO/Adobe Stock

この兵庫テロワール旅をスローガンに、多くのコンテンツを現在作り上げていますが、各地で地域資源を継承してきた取組には、SDGsの理念に通じる英知が息づいており、そのような視点を見える化していくことも大切です。万博を機に展開する「ひょうごフィールドパビリオン」も具体的な展開の形の一つです。兵庫テロワール旅を含めた一連の取組を通じて、世界に誇るHYOGOブランドを確立していきたいと考えています。

来年の兵庫DC、2025年の大阪・関西万博と、兵庫の観光にとってまたとない好機が訪れます。これらの時間軸を意識しながら兵庫への誘客を図り、地域や産業の活性化はもちろん、文化・環境の保全も含めた形で持続可能な観光地域につなげていく、これが今後の観光戦略になると考えます。

※取材は、新型コロナウイルス感染症対策のため書面インタビューにより実施された(2022年9月7日)

 

 

齋藤 元彦(さいとう・もとひこ)
兵庫県知事