トラヤ 生産性向上を魅せるライブオフィス開業

1946年に千葉県銚子市で開業したトラヤ文具店を源流とする株式会社トラヤ。代表取締役の遠藤雄太氏は3代目として家業を継ぐ際に、街の文具店からの転換という決断を下した。その思いを体現するべく開業したライブオフィス「accompanyアカンパニー」について話を聞いた。

株式会社トラヤ 代表取締役 遠藤雄太氏
(東京校9期生/2021年度修了)

メーカー勤務から3代目社長へ
未来を見据えて改革を推進

祖業のトラヤ文具店はトラヤ代表取締役の遠藤雄太氏の祖父が1946年に文具事務用品店として開業。戦後の物資不足のさなかに1本の鉛筆から買える場として始まり、時代と共に取扱品目を増やして業容を拡大してきた。現在は文房具に留まらず、オフィスや教育機関向けの設備・備品・サービスを包括的に手がける。デスクやイスといった家具類はもちろんのこと、OA機器の設置や保守管理、エアコン等の電化製品の設置やリサイクル、学校向けの理化学機器、幼稚園向け遊具や絵本なども扱い、それらを購入する際に必要な補助金等の申請の支援までも行っている。

遠藤氏は創業75周年を迎えた2021年に3代目に就任しているが、もともと事業承継の予定はなかったという。

「大学卒業後は東京で文具メーカーのパイロットコーポレーションに勤務していたのですが、2016年に父から『戻ってこないか』と言われました。家業を継ぐ予定だった兄が別会社に勤務することになり、私に白羽の矢が立ったのです。最初は迷いましたが、家業への愛着もあったので戻ることを決めました」

当時のトラヤは経営上の問題があったわけではないが、改革が必要な部分もあった。一番の課題は文具店だ。祖業に直結する業態で、地域に長年愛されてきた店舗ではあるが、オフィスではIT化が進み、大規模小売店の進出なども相まって消費者の購買行動は変化している。メーカー勤務だった遠藤氏には、街の文具店の未来が明るくないことが痛いほどわかり、閉店を決めたのだった。

「店舗以外の不採算事業も見直し、併せて人員整理も行いました。その対象には私が生まれる前から勤めていた方もいて、本当につらかったですが、継ぐと決めた以上はやらないといけないという覚悟がありました」

重く考え過ぎていた心が
ふと軽くなった恩師の言葉

店舗スペースは4階建て社屋のうち1階と2階の合計約473平米。閉店後、この空間をどう使うかが次の課題になった。顧客満足にかける思いを込めた理念「かったを求めて」に合致し、かつ、オフィスや教育機関向けの本来事業に関係する「新しい何か」を見つけなければならない。周囲に「新しいことに挑戦したい」と相談するなかで、ある知人から紹介されたのが事業構想大学院大学(MPD)だった。MPDは新規事業の構想を体系的に学べる上に、事業承継者も入学対象としており「自分にぴったりだと思った」。

遠藤氏が入学した2020年はコロナ禍の真っ只中。自宅からMPDまで片道3時間ほどかかることから、受講は金曜と土曜だけのつもりだったが、オンライン授業が充実したことで平日の授業も受けることができた。

「印象深いのは二之宮義泰特任教授の授業です。先生は製薬会社の海外進出を成功に導くなど豊富な経営実績をお持ちですが、あるとき仕事に悩んで帰宅すると、奥さまに『爪が欠けちゃって悩んでいるの』と言われ、『そうか、家では仕事の悩みなんて小さなことだ』と思ったそうです。その経験をもとに『仕事のときは考えられるだけ考える。でも、重たく考えすぎない方がいい』とおっしゃって、その言葉に感銘を受けました」

二宮教授の指導のもとに書き上げた事業構想計画書のテーマは「中小企業社長コネクトプラットフォーム」。社長業は時として孤独なもの。遠藤氏自身の経験もあって「ちょっとした悩みでも気軽に相談ができる場がほしい」との思いで構想した。いずれはこれを実現したいと考えている。

地域密着の企業だからこそ
地元企業の課題解決に貢献したい

2022年5月、文具店を閉店。店舗があった社屋1階と2階は、顧客に生産性向上に資する新しい「働き方」を体感してもらうライブオフィスとしてリノベーションすることにした。

ライブオフィス「accompanyアカンパニー」

「自己裁量を最大化し、ワーカー自らが働き方を自律的にデザインする総合的なワークスタイル戦略『ABW(Activity Based Working)』の思想を取り入れることにしました。オフィス内には少人数での打ち合わせやオンライン会議ができる場所、静かに集中できる場所など、様々な機能を持ったスペースがあり、そこで当社社員が実際に働いている姿をお客様に見ていただくことで、オフィスづくりのイメージを拡げていただきたいと思っています」

目的や人数に応じて自由に場を選ぶことができる

明るく開放的なミーティングルーム

新たなオフィスが完成したのは2024年9月のこと。以前は固定席だったが、ライブオフィスへの転換を機にフリーアドレスを採用。固定電話やデスクトップパソコンを廃止し、ペーパーレス化も進めた。社員からは慣れ親しんだ働き方を変えることに不安の声が上がったが、「どんな変化も3カ月あれば慣れる」と説得。実際、前の働き方に戻りたいという社員は出なかったという。

2025年5月23日、ライブオフィスがグランドオープンを迎えた。顧客の課題に寄り添いたいという思いを込めて、施設名は「伴走」を意味する「accompany」とした。顧客や取引先など約100名を招待したレセプションは地域伝統の「はねこみ太鼓」で幕を開け、施設やデザインのコンセプト、こだわりなどを紹介した後は見学ツアーを実施。参加者はユニークなオフィスに興味深く見入っていたという。

約100名を招待して開催したレセプション

「オフィス家具メーカーが手がけるライブオフィスは見応えがありますが、広い空間に最新製品が並ぶ様子はショールームに近い印象で、中小企業が自社と結びつけて考えにくい傾向にあります。当社のお客様は地元の中小企業がほとんどですし、当社は家具だけでなくOA機器や通信設備などをすべて取り扱い、補助金申請などの支援まで行っていることが強み。ここを起点にお客様の生産性向上に貢献したいと思っています」

今後はオフィス利用をしていない時間帯に、この空間を地域住民による演奏会や展示会などに貸し出すことを検討している。かつて街の小売店は地域の社交場でもあった。地元企業を応援し、住民が交流する場として、トラヤに新たな地域の歴史が刻まれていくことだろう。