濵田省司・高知県知事 地産外商の振興で県経済を成長軌道に

2019年に初当選した濵田省司知事は、前知事から引き継いだ「地産外商」を柱とした産業振興に取り組む。その重点ポイントとして、新たに関西圏との経済連携の強化を掲げ、高知ならではの地産で外商拡大に挑んでいる。目指すのは、「地産外商が進み、地域地域で若者が誇りと志を持って働ける高知県」だ。

濵田 省司(高知県知事)
取材は、新型コロナウイルス感染症対策をとり、ソーシャルディスタンスを十分に保ち行われた(2021年8月26日)

農林水産業が盛んで、ハウス園芸は全国1位

――現在、注力されている地産外商の戦略についてお聞かせください。

地産外商は、地域の産品を県外や海外の市場に売り込む活動です。少子高齢化が進む中で地産地消だけでは先細るという危機感から、尾﨑前知事が産業振興計画の柱として2009年度から取り組みを始めました。

その成果として、2019年度の地産外商公社の支援による外商の成約件数は2009年度の約56倍(9896件)になりました。経済成長率もプラスに転じており、2018年度は2008年度対比で、県内総生産(実質)3.9%増、労働生産性16.2%増、一人当たりの県民所得20.0%増という高い水準に上がってきています。

図表  産業振興計画により増加傾向に転じた各種生産額


産業振興計画の取り組みを通じて、地産外商が大きく前進し、各分野の生産額などは増加傾向にある。①の時期までは生産年齢人口の減少に連動する形で、各種生産額も減少傾向にあった。しかし、平成21年から産業振興計画が始まると、生産年齢人口の減少に関わらず、各種生産額が増加傾向に変わった(②)。

出典:第4期産業振興計画バージョン2

 

今後もこの歩みをより確かなものにするために、2020年4月に第4期高知県産業振興計画を、今年4月にはウィズコロナ・アフターコロナを見据えた第4期産業振興計画バージョン2をスタートしました。

高知県は県土の84%が森林で、自然豊かな中山間地域が多く、産業は農林水産業が中心です。中でもハウス園芸は全国1位の生産性を誇っています。これは、日照時間や豊かな農地などの恵まれた自然条件に加え、環境制御技術を取り入れてきた成果です。

県内のハウス農家をインターネットで結び、作物の生育状況や出荷状況などのデータをクラウド上でデータベース化します。そのデータをAIで分析して、スピーディーな生育ができる環境整備や、より高く売れる出荷のタイミングなどの情報を農家に提供するプロジェクトを推進しています。高知の強みにデジタルという時代のキーワードを掛け合わせた象徴的な取組として、若い人が楽しく稼げる農業を実現する期待のプロジェクトとして取り組んでいます。

ナスやトマトなど、7品目の生産効率アップに注力している

林業も地域産業の大きな柱のひとつです。地域おこし協力隊として都会から来ていただいている方々に林業に従事してもらっています。その方々に定住していただけるように、林業でもスマート化を推進しています。森林は脱炭素社会を実現する上でも非常に重要です。森林率全国1位の高知県から日本をリードする脱炭素の取り組みを仕掛けたいです。

万博・IRで盛り上がる関西から
観光客を誘致し地産外商を拡大

――外商戦略では、関西圏との経済連携強化を重視されていますね。

国内で最も大きな市場は首都圏ですから、高知県地産外商公社の一番のターゲットとして、銀座にアンテナショップ「まるごと高知」を出店して外商戦略を展開しています。そうしたベースの上で、「関西・高知経済連携強化戦略」を策定しました。

私は尾﨑県政を引き継ぐ前の2年間、大阪府副知事として関西の経済活力を目の当たりにしました。当時の関西圏はアジアからのインバウンドで大盛況でした。万国博覧会やIRを睨み、大阪の中心地や市街地では建設投資が盛んに行われていました。関西圏との経済連携の狙いは、万博やIRで関西圏を訪れる観光客を本県へ誘客し、新しく整備されるプロジェクト関連施設で県産品の外商を拡大することです。

今、県内の観光関連産業はコロナ禍で生きるか死ぬかの大打撃を受けています。現在の課題は、事業を継続し雇用を維持してもらうこと。経済活動を回復していくこと。そしてウィズコロナ・アフターコロナの社会に対応すること。

幕末に坂本龍馬などの多くの志士を輩出。観光面での大きな魅力になっている Photo by yuu nakamura /Adobe Stock

この3つのフェーズを意識した取組を行っています。社会構造の変化の中で生まれる新しいニーズに対応した商品づくりや、新しい市況を見据えた事業戦略づくりが重要です。

関西戦略の一番の目玉ともいえるインバウンドに関しては、今からきちんと仕込みをして、収束が見えたらすぐに動けるところまで持っていきたいと考えています。

食品輸出額が29倍に拡大した3つの要因

――食品分野の外商拡大も柱のひとつにしていらっしゃいます。

実はコロナ禍で保存食などの新しい市場ニーズが伸びたため、より長期保存が可能な食品の開発に注力しています。また、輸出を睨み、HACCPに対応した施設整備を行うなど、地産の強化に取り組んでいるところです。

商品は地産外商公社のネットワークを活用してPRしていきます。コロナ禍の中でも、地域密着型の量販店は巣ごもり需要で業績が好調です。宅配や通販も伸びていますので、こうしたところにうまく商品を乗せていくための支援や、デジタルツールを活用した外商活動などにも取り組んでいます。

2020年度に地産外商公社が関与した外商の売上は、2019年度の約46億円から約47億円へと増加しています。こうした成果が出ている最大の要因は、地産外商公社が約10年にわたり地道な外商活動を積み重ねることで得た人的ネットワークだと思っています。

例えば、テレビでマツコ・デラックスさんが「ミレービスケット」と言えば爆発的に売れるわけです。毎年のように高知県の産品をマスコミに取り上げていただけるのも、マスコミ各社との信頼関係が構築できているからだと思います。

――物流面では、高知県は距離・時間・費用の面が他県に比べて不利ではないかと思うのですが。

おっしゃるとおりで、単純に輸送コストだけ見てもハンデです。ただ、それを嘆いていても仕方ありません。海、山、川など、高知ならではのものを使って付加価値の高いもの、高知ならではの商品を作り、それに注目していただき、買っていただく。そのためには丁寧な外商活動を行っていく必要があります。

その一方で、食品の小口配送の新しい仕組みづくりなども、難題ではありますが、検討し始めています。

海外に関しては、2009年から10年あまりで食料品の輸出額は約29倍に拡大しています。これには大きく3つの要因があります。

1点目は高知県の強み。現在、ゆず、土佐酒、養殖マグロなど水産物の加工品が稼ぎ頭になっています。2点目は国別や品目ごとに戦略を作成し、パートナーとなる商社を選出して商流を作る戦略。3点目は認知度の向上で、発信力のあるブロガーさんや、メディアに向けたプロモーションで情報を拡散していることです。

外商活動には人材が必要です。県内では商社のOBの方に企業の取り組みを支援してもらっています。海外ではシンガポールに事務所を設置し、アメリカ、フランス、中国には食品海外ビジネスサポーターという、現地商社とのネットワークを繋ぐ人材を配置して販促活動に取り組んでいます。

コロナ後の観光戦略は
強み×新しいニーズ

――アフターコロナに向けた、観光産業の方針についてお聞かせください。

高知県の観光の最大の強みは豊かな「自然」です。アフターコロナを考えた時に、自然を満喫できる体験型の個人旅行にのびしろがあると考え、ここ2年ほど展開してきた自然・体験型観光キャンペーン事業を土台に、さらに売り込んでいきます。

仁淀ブルーで知られる仁淀川の支流にある「にこ淵」

「食」も観光の強みです。旅行雑誌のアンケートでも、高知県は食べ物がおいしい県としてトップを取ることも多く、必ず上位に入ります。観光の目玉は高知に来ないと食べられないものです。また、幕末を中心とした高知の「歴史」も、特に坂本龍馬ファンの方々から魅力的に思っていただいています。

アフターコロナでは、自然・食・歴史を通した高知県の魅力に、コロナによるニーズの変化をうまく掛け合わせることが求められます。例えば今、コロナの影響で少人数による旅行の割合が増加したため消費額の落ち込みが課題となっています。これを解決するのは、滞在型・周遊型のコンテンツの充実です。市町村が広域連携を組み、周遊ルートを作り、それを売り込む。こうした取り組みが今後の肝になるでしょう。

インバウンド戦略では、観光情報サイト「VISIT KOCHI JAPAN」を立ち上げ、県内の観光スポットを紹介する外国人向けの動画等を配信しています。この7月に公開されたアニメ映画「竜とそばかすの姫」にも出てくる、仁淀ブルー等のスポットを紹介しています。動画は潜在的な高知ファンを掘り起こします。閲覧状況などから今後の攻略法を分析して、誘致活動に活用します。

若者が誇りを持ち活躍できる
元気な高知県を目指す

――産業振興を担う人材育成について、どのようにお考えですか。

人材育成は非常に重要です。特に地産外商の活動では、中山間地域における地産の後継者不足が課題となっています。高知市などの都市部でも後継者や担い手は不足しており、育成や確保にはかなり力を入れています。

「土佐まるごとビジネスアカデミー」は県内の大学等と連携してビジネス研修を開設しています。「土佐の観光創生塾」では、観光に携わる方々にアイデアの種を培っていただいています。第一次産業についても「農業担い手育成センター」「漁業就業支援センター」などを設置して、農業や漁業に挑戦したいという若者の支援を行っています。

林業は、林業大学校を香美市に新設しました。建築家の隈研吾氏に校長に就任していただき、林業だけでなく木造建築を広めるため、専攻課程には木造設計コースも開設し、全国から研修生が集まっています。他にも高知デジタルカレッジや食のプラットホームの設置など、各産業分野に特化した学習機会を提供する取組を行っています。

――最後に、知事が目指す高知県の理想の姿をお聞かせください。

元気な高知県をつくりたいと思っています。それを実現するキーワードは3つあり、1つは「デジタル化」です。当県が大都市圏から遠いことも、デジタル化を進めることでハンデではなくなるイノベーションが期待できます。

2つ目は「グリーン化」です。これまでは環境配慮と経済成長は二律背反すると考えられていました。しかし、グリーン化という新しい技術改革を経済成長の種にし、環境と経済が好循環するパラダイムシフトを図ることがトレンドになりつつあります。これは当県にとってチャンスです。

例えば、伝統産業である土佐和紙の技術で、アルミ電解コンデンサ用のセパレーターを開発し世界市の6割を占める企業も出てきています。こうしたものをグリーン化のイノベーションに組み込み、経済と環境の好循環の中に産業が乗るようなことができないか検討したいです。

3つ目は「グローバル化」です。アフターコロナに備えて、輸出やインバウンド観光の準備をしておくこと。加えて、外国人労働者に活躍していただくための環境整備などを始めています。

付加価値や生産性の高い産業を育成し、地域ごとに魅力ある働く場を作ることで、若者が希望と誇りを持って住み続けることができる、あるいは一人でも多くの若者が県外から戻ってきたり移住して来たりするような、元気な高知県を実現したい。そういう思いをもって県政を進めています。

人と人のつながりが息づく高知を一つの大家族に見立て、「高知家」をキーワードに県産品をPR

 

濵田省司(はまだ・せいじ)
高知県知事