愛知県・大村秀章知事 「世界と大交流する愛知」が日本経済を牽引する
ジブリパークやIGアリーナ、STATIONAiといった大型プロジェクトが次々と結実している愛知県。大村秀章知事が目指すのは、世界と大々的につながることで愛知県の産業に高付加価値と力をつけ、日本経済の成長エンジンとして日本の発展を今まで以上に強力に牽引していく役割を担うことだ。
大村 秀章(愛知県知事)
ジブリパークとSTATION Ai
愛知が推進する2大プロジェクト
――現在、2023~2026年度までの重点政策を示された「あいち重点政策ファイル360プラス1」に取り組まれています。同政策の特徴と、これまでの成果についてお聞かせください。
「あいち重点政策ファイル360プラス1」は、愛知が誇る日本一の産業集積をさらに成長させ、未来へ輝く「進化する愛知」をつくる取組です。本県の製造製品出荷額は46年連続日本一を維持しています。2022年には過去最高の52兆4,098億円を記録するなど、順調に伸びています。本県の強みである製造業を伸ばし、加えて世界とつながる力をつける。そしてさらに製造業をグローバル化、デジタル化して高度化し付加価値をつけていく。「あいち重点政策ファイル360プラス1」では、こうしたことを実現するプロジェクトに取り組んできました。
特にこの2年間は、「ジブリパーク」と「STATION Ai」という2大プロジェクトが大きく結実しました。2022年秋に愛・地球博記念公園内にオープンしたジブリパークは、世界に向けた愛知のブランディング戦略です。ジブリパークは大量消費型のテーマパークではなく、スタジオジブリ作品の世界観に没入して楽しんでもらう公園施設です。駅や空港などにはジブリパークをイメージした歓迎装飾を施してジブリパークへ旅行者を迎え入れる雰囲気をつくり、世界に向けて「ジブリパークのある愛知」のPRプロモーションを実施するなど、ジブリパークを起点とする県内観光の促進に取り組んでいます。
ジブリパークには連日、県外や海外からたくさんの方にお越しいただき、2024年度の愛・地球博記念公園の来場者数は294万人を超えました。引き続き、国内外の皆さまに広く愛される公園施設として、存在感をさらに発揮できるように盛り上げていきます。
ジブリパーク「ジブリの大倉庫」 ©Studio Ghibli
――今年は愛知万博の20周年記念事業も行われていますね。
愛知万博20周年記念事業は、愛知万博の理念や成果の継承と愛知の魅力発信を目的として、週末のイベントを中心にこの3月から半年間実施しています。そもそもジブリパークは、愛知万博のレガシーを引き継ぐものという位置付けでつくりました。愛知万博は「自然の叡智」をテーマに持続可能な社会の実現を目指す、人・生き物・地球に対する愛を理念としています。これはまさにジブリ作品の中に脈々と流れているものでもあり、愛知万博とジブリ作品は非常に親和性が高い、共鳴し合うものであると考えています。
そういう意味で、ジブリパークは観光拠点ではありますが、それ以上に愛知万博のレガシーそのものだと思っています。愛・地球博記念公園やジブリパークに世界中の方々に来ていただき、ジブリ作品の魅力や愛知万博のレガシーを体感していただきたいです。

愛知万博20周年記念事業「愛・地球博20祭」は2025年9月25日まで開催
日本最大スタートアップ支援拠点
STATION Aiで世界とつながる
――世界とつながる愛知のもう1つの柱であるSTATION Aiについてもお聞かせください。
2024年10月にオープンしたSTATION Aiも、ジブリパーク同様、世界とつながるためのプロジェクトです。世界のスタートアップ支援拠点とネットワークを構築して、愛知の製造業を盛り上げる力にしていきたいと考えています。
日本最大のスタートアップ支援拠点「STATION Ai」(名古屋市)
現在の会員数はスタートアップが約500社、パートナー企業が約340社となっています。STATION Aiの魅力の1つは、ソフトバンクの100%子会社であるSTATION Ai株式会社が設計・建設・運営を一貫して行っていることです。また、同社がファンドを運営し、メンターを担っています。
パートナー企業の中心的存在はトヨタグループです。STATION Aiには、トヨタ自動車とそのグループ企業が多く会員となっています。イベントには、トヨタとつながりたいスタートアップが、東京などの県外や海外からたくさん集まります。
スタートアップのみならず、パートナー企業も活発にイベントを開催しており、グランドオープン後の11月から今年7月までの9カ月間で、ピッチイベント、リバースピッチ、セミナー、フォーラム、オフィスアワーといったイベントが500本以上実施されました。今年2月に初開催したグローバルイベント「TechGALA Japan 2025」には、国内外のスタートアップや事業会社、投資家など5,000名を超える参加者が集まり、大いに盛り上がりました。
約500社のスタートアップ会員のうち、愛知発のスタートアップは約31%で、東京発が約41%、海外発が約6%となっています。これを多いとみるか少ないとみるかですが、我々がモデルと位置付けているフランスの「STATION F」は、フランス以外の国のスタートアップが約30%で、創業メンバーに女性がいるスタートアップの割合も約40%を占めています。これはまさにダイバーシティを体現したSTATIONであると言えます。
我々もグローバルなSTATIONを目指しており、9カ国22のスタートアップ支援機関や大学などと連携し、スタートアップ支援プログラムなど様々な取組を進めています。「世界とつながる」をキーワードに、STA TION Aiを核に国内外から広くスタートアップやパートナー企業を集積し、その融合から次々とイノベーションを創出する愛知独自のスタートアップ・エコシステムの形成を推進していきます。
次世代成長分野の競争力強化
――愛知県は「国際イノベーション都市」となることを目指す姿に掲げられています。その実現に向けた取組や、基幹産業の国際競争力強化への取組についてお聞かせください。
デジタル化の急速な進展や産業部門への脱炭素化の要請など、社会経済環境の大きな変化によって、愛知県の基幹産業である自動車産業を中心に、産業構造は大きな転換期を迎えています。そうした中、自動車産業の次世代のモビリティ産業への進化を後押しするとともに、今後成長が期待される航空宇宙産業やロボット産業などを戦略的に振興して国際競争力を強化していく必要があると考えています。
脱炭素化では、脱炭素と産業競争力の両立を目指す水素社会の実装に向け、技術開発や最先端の研究開発・実証実験への支援や、それを支える人材の育成などに積極的に取り組んでいく必要があります。
最先端の技術が集結する航空宇宙産業は、幅広い産業に波及・蓄積し、地域の技術力や競争力の強化に大きく寄与する重要な産業です。こうした産業を担う人材の育成や生産性の向上などの支援を進めるとともに、新規販路開拓や経営基盤の強化を推進します。
今後の成長が期待される次世代空モビリティ産業では、物流ドローンの早期社会実装に向けた取組や、空飛ぶクルマの事業化に向けた調査を行うほか、次世代空モビリティの基幹産業化に向け、自動車や航空機等の既存産業からの新規参入を促進する取組を進めています。
ロボット産業については、愛知県は非常にポテンシャルの高い地域だと言えます。本県のロボット製造業の製造品出荷額等は全国5位(2022年:1,830億円)で、事業者数は日本一(73事業所)です。ロボットを「作り」「使う」世界的先進地域となることを目指し、ロボット導入支援、次世代ロボット産業人材の創出に取り組んでいきます。
リニア開通を機に、魅力的な
中京大都市圏の形成目指す
――リニアを生かした中京大都市圏形成の構想について、現在の進捗状況はいかがでしょうか。
リニア中央新幹線は、我が国の在り方を大きく変え、日本経済がさらなる成長を遂げていく原動力となる、極めて重要な事業です。リニア中央新幹線の全線開通により、首都圏、中京圏、関西圏の三大都市圏が約1時間で結ばれ、人口7千万人という世界最大の経済規模を持つ「リニア大交流圏」の誕生が期待されます。
本県はその中心として、首都圏の持つ社会経済的な機能を代替しうる、世界から選ばれる魅力的な中京大都市圏の形成を目指しています。名古屋駅のスーパーターミナル化、中部国際空港に2本の滑走路を配置する将来構想の実現、港湾物流機能の強化、広域道路ネットワークなどのインフラ整備により、愛知と国内外とのアクセスの向上に努めています。
量を求める観光から
質を重視する観光へ転換
――愛知県の観光産業の振興については、どのような施策に注力されていますか。
ジブリパークのオープン以来、愛知県が国内外から観光の目的地として認知されるようになり、地域経済にも大きなインパクトが生まれています。
また、本県は織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の三英傑をはじめ、多くの戦国武将を輩出しており、「武将のふるさと」として、愛知の歴史の魅力を国内外に向け発信しています。そうしたなか、2023年の『どうする家康』に続き、2026年放送予定の大河ドラマ『豊臣兄弟!』で、愛知が再びドラマの舞台となります。この好機をとらえ、大河ドラマを活用した誘客促進に向け、市町村や観光関係団体と連携した豊臣兄弟ゆかりの地の情報発信や、ドラマの主な舞台となる滋賀県や奈良県と連携した周遊キャンペーンなどに取り組んでいきます。
愛知県では、第4次観光振興基本計画「あいち観光戦略2024-2026」に沿って、さまざまな取組を実施しています。この戦略では、従来の量を求める観光から、質を重視する観光への転換を図り、愛知県ならではの地域資源を活かした高付加価値の観光コンテンツの造成や、旅行者目線に立った魅力発信などに取り組んでいます。地域の観光で稼ぐ力を高め、愛知の観光産業を盛り上げていきます。
「武将観光」を盛り上げるために結成された「徳川家康と服部半蔵忍者隊」 ©aichi-ninja
「IGアリーナ」がオープン
世界と大交流する愛知へ
――愛知県では現在、様々な大型プロジェクトが進行しています。知事が描く愛知や中京エリアの未来ビジョンについてお聞かせください。
まず、大相撲名古屋場所をこけら落としとして、世界トップレベルのグローバルアリーナ「IGアリーナ」が2025年7月13日にグランドオープンを迎えました。IGアリーナは、国内最大級の8面体センタービジョン、全長220mのリボンビジョン、最先端のICT技術などを備え、来場者の皆さまに世界トップレベルの臨場感をお届けできる施設です。
2025年7月にグランドオープンを迎えた「IGアリーナ」
この5月と6月には、オープニングイベント「IGアリーナ オープニングDAYs」を開催しました。初日の開業式典では、エンタメ界をリードする音楽プロデューサー・演出家の滝沢秀明氏に演出していただいたオープニングアクトを披露し、大いに盛り上がりました。
今後、8月にNBAロサンゼルス・レイカーズの八村塁選手によるバスケットボールクリニック、9月にはモンスター井上尚弥選手のボクシングビッグタイトルマッチ、12月にはフィギュアスケートグランプリファイナルといった世界水準のスポーツイベントのほか、海外ビッグアーティスト「STING」のコンサートや「東京ガールズコレクション」と連携したファッションショーなど、さまざまなイベントの開催を予定しています。
このIGアリーナと、ジブリパーク、STATION Aiという3つの世界水準の施設をかけ合わせていき、世界中から多くの人や最先端の技術やサービスを呼び込み、愛知をさらなる成長に導く、ダイバーシティに富んだ「世界と大交流する愛知」を作り上げていきます。
これらを着実に進めていき、本県が引き続き日本経済の成長エンジンとして、我が国の発展を強力にリードする役割を担っていきたいと思います。

- 大村 秀章(おおむら・ひであき)
- 愛知県知事