プラットヨネザワの活動と地域の高付加価値化 地域の人々を巻き込み、魅力を発信

山形県米沢市の米沢観光推進機構の中核組織、プラットヨネザワ㈱は、観光庁の「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業」に地域の事業者らと共に取り組み、2023年末に採択された。プラットヨネザワ㈱代表取締役の宮嶌浩聡氏に、その取り組みについて聞いた。

宮嶌 浩聡 プラットヨネザワCEO

今ある文化的価値の見せ方を
変えつつ、経済的価値に

── プラットヨネザワの活動や、今回の事業を始めた背景について教えてください。

宮嶌 プラットヨネザワは観光地域づくり法人(DMO)のカテゴリに属し、特にデータマネージメントを中心とした活動を行っています。目に見えるところだけでなく、データに基づく戦略を策定し、それを地域の事業者の皆様と共に実行します。結果の評価もそれらの方々と共に行いながら、次はどうするかを決めていきます。

プラットヨネザワは米沢市を中心に活動する観光DMO

 

君も戦国武将になろう!は人気のプログラム

米沢市には温泉が多く、8つの温泉地から成る「温泉米沢八湯会」があります。このうち、白布温泉と小野川温泉の2つはいわゆる温泉街で複数の温泉旅館が密集し、まちを成しています。また、米沢には上杉謙信公、鷹山公などをハイライトにした戦国から江戸への歴史があり、城下町として整備され、文化を醸成してきたという特徴があります。

このため、歴史や文化、おいしい食べ物、温泉、お酒といった沢山の魅力がある一方で、統一感がなく特徴が掴みづらいところもありました。また、従来は「上杉の城下町」というテーマを中心に据えていましたが、城下町は他にも多くあるほか、この文脈がグローバル、あるいは若い世代にも魅力となり続けるかという課題がありました。このような中、今ある文化的価値の見せ方を変えつつ経済的価値に結びつけるという新たなチャレンジが、今回の事業だったと思います。

「学び、食べ、磨かれる
まち、米沢」がテーマに

── 今回、観光庁の事業として採択された際、特にどのような点が評価されたとお考えですか。

宮嶌 観光庁の「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業」は、観光地経営のマスタープランとなる地域計画の構築や磨き上げ、宿泊施設・観光施設の改修、廃屋の撤去、面的DX(デジタルトランスフォーメーション)など、地域・産業の「稼ぐ力」を回復・強化する取り組みを支援するものです。

本市は2022年度、小野川温泉エリアで事業の計画を立てて申請しましたが、不採択になりました。そこで今回はエリアを市内全域へと拡げ、宿泊事業者や観光事業者15社と連携し、事業に取り組むことにしました。この点に加え、それらの事業者と連携しデータに基づく戦略策定を行っている点が評価されたと思います。地域の事業者と共に策定した事業計画は、総事業規模6.9億円、補助規模額2.8億円という大規模なものになっています。

今回の事業では、「明日誰かに話したくなる隠し扉を探しに行く旅をしてみませんか?『学び、 食べ、磨かれるまち、米沢』」がテーマです。米沢には沢山の歴史的、文化的背景があり、一歩踏み込むと色々な発見ができます。

例えば、上杉鷹山公については、米国大統領だったジョン・F・ケネディが、「尊敬する日本人の政治家」として挙げていました。鷹山公が活躍した時代は、フランスでまだ絶対君主制が敷かれていた1800年代でした。しかし、鷹山公は当時、領土が縮小され、経済危機の中、米沢で民主的改革を行いました。その一つが、女性に産業を担ってもらい米沢織を広めることです。

また、米沢市では毎年5月、約800人が甲冑を着て合戦する「米沢上杉まつり 川中島合戦」が開かれ、全国から沢山の方が見に来られますが、その数が減少しているという課題がありました。そこで私たちは祭りの時期に合わせ、2泊3日の探究学習プログラム「君も戦国武将になろう ! リアル戦国探究in米沢上杉まつり~川中島合戦~」を企画しました。

プログラムは小中学生を対象にしており、参加者は初日に祭りで合戦をします。そして2、3日目には、戦国はどういう時代だったかを学んだ上で、自分たちで陣形や戦略を考え、合戦を行います。このプログラムでは旅館など地域の事業者との連携も大切にし、まち全体で参加者が戦国の文脈を体験できるような仕掛けを作っています。

他には米沢が世界に誇る様々なものづくりの現場を公開し、米沢のものづくりの世界観を体験していただける地域一体型のイベント「360°よねざわオープンファクトリー」もあります。初年度の2023年は米沢織に焦点を当て、2300人以上の来場者に工場見学とものづくり体験をしていただきました。

滞在時間や消費金額、満足度
を追うべきポイントに

── 観光客の誘致では、特にファミリー層に焦点を当てていらっしゃいます。

宮嶌 現在、この地域を訪れ、支えていただいている主なお客様はシニア層です。地域に魅力を感じ、支えていただいてありがたいという思いの一方で、将来に向けて若い世代にも来ていただく必要があると感じていました。

ファミリー層では近年、「子どもに多くのことを体験させたい」と考える方々が増えていると感じます。それらの方々に提供できる魅力は、米沢に間違いなくあります。また、川中島合戦の探求プログラムでは1家族が2泊3日で使う金額が平均約40万円で、経済力のある方々が参加し、他ではできない体験をして喜んでくださっています。そういった新しい層の、今後も長くお付き合いできる方々に米沢を知っていただくことは重要です。また、未来展望として探究学習を英語化すれば、インバウンドの方々にも来ていただけるはずです。

── 今後、特に力を入れたい取り組みについて教えてください。

宮嶌 1つは、KPI(重要業績評価指標)を変えていくこと。観光に関して注目されがちなのは、訪れた人の数ですが、それより消費額や属性を見るべきだと思います。遠くから来られた方ほど、お金を使ってくださる傾向があり、滞在時間や消費金額、満足度といった点を追うべきポイントにしていきたいです。

滞在時間に関しては今後、長く滞在していただくための様々な仕掛けを作っていきたいです。これには2つあると思い、1つはナイトアクティビィやモーニングアクティビティを充実させることです。それによって、宿泊しないとできない体験を増やします。もう1つは拠点としての機能で、米沢に宿泊し、ここを起点に周辺の色々な地域に行っていただくことです。このためには広域連携の強化も重要で、そのような取り組みも進めていきたいです。