人力車による観光案内 高付加価値化で働く人の待遇もアップ
2019年12月創業のライズアップ(東京力車)は、東京・浅草を中心に人力車による観光案内などの事業を展開。創業後まもなく始まったコロナ禍をSNSによる発信強化で乗り越え、事業を拡大させている。今後は浅草の伝統を活かしつつ、「映える場所」を増やすことも目指している。

西尾竜太 ライズアップ 代表取締役社長
移動の足から観光案内へ
現代の人力車のビジネスモデル
ライズアップは、人力車による観光案内や婚礼・イベントの演出、広告宣伝などの事業を展開している企業だ。また、人力車を引く俥夫(しゃふ)らによる音楽ユニット「東京力車」は、浅草花やしきの応援ソング「握手をしよう~世界の国からこんにちは~」などの音楽活動を通じ、浅草の魅力を発信している。
「私たちの事業は観光で浅草に来られたお客様を楽しませることで、観光に特化したコンシェルジュのような感じです。浅草には浅草寺だけでなく、色々な楽しみ方やお店があることを、一人ひとりのお客様に合った形でご紹介しています」。
ライズアップ代表取締役の西尾竜太氏は事業について、こう語る。観光用の人力車は、京都や奈良をはじめ、昔ながらの街並みが残る地域では定着しているサービスだ。浅草は関東大震災や東京大空襲で火災に見舞われた歴史から、本当に古い建築物はほとんど残っていない地域だ。それでも、再建された浅草寺や昭和レトロな雰囲気の商店街があり、人力車にマッチしたまちとなっている。浅草では現在、約150台の人力車が走っており、このうち30台がライズアップのものだ。
ライズアップには現在、俥夫80人を含む約100人の従業員が在籍している。現代の人力車は女性も引きやすいものになっており、2020年頃からは女性俥夫が増加して、「東京力車女子部」も立ち上げた。現在は、20人の女性俥夫が活躍している。
人力車の利用は、事前予約やオンライン予約もあるが、約9割は現場での声がけによるものだ。雷門前などの人通りの多い場所で観光客向けに営業をするスタッフと俥夫が役割分担し、顧客を獲得している。コースには「社寺拝観コース」や「下町コース」、「歴史巡りコース」などがあり、顧客の予算や時間に合わせて提案する。料金は1人4000円(2人で5000円)の「おためし」から、数万円のものまで選べる。
「浅草には、地方や海外から来られるお客様のほか、都内からフラッと来られる方々もいらっしゃいます。乗車は30分から1時間程度が多く、お客様の要望により、東京駅や東京タワー、六本木、新宿、渋谷、東京ディズニーランドなどへ行くこともあります」。
浅草寺を中心とした一帯では、観光案内をする人力車が日常的な風景になっている
人材育成や働きやすい
職場づくりに注力
西尾氏自身は大学卒業後、フリーターになり、2007年から人力車の会社でアルバイトとして俥夫になった。その際、この仕事に魅力を感じ、当時の社長に誘われて社員になった。最後に勤務した会社では主に人材(人財)育成を担当したが、2019年に倒産したため、自らライズアップを設立した。
以前の会社で人材育成に関わった経験も活かし、ライズアップでは、特に人材育成や職場環境の改善に力を入れている。「社内には、お客様を楽しませることにフォーカスした研修もあります。また、まずは従業員らが率先して、楽しみながら仕事ができるよう心がけています。従業員が、『ここにいて良かった』と思えるような職場環境にしていきたいです」。
ライズアップで働く人にはまずアルバイトとして仕事を覚えてもらい、正社員として雇用するのはその後になる。これは研修期間中に多い、離職を防止するためでもあるという。
「観光コンシェルジュとしての俥夫の仕事は想像以上に覚えることが多く、すぐに辞めてしまう人も多いのが実状です。人力車の運転は訓練すればできますが、ガイドとしてお客様に様々な提案をしていくためには、自ら情報収集し、能動的に学ぶ姿勢が重要になります。研修ではそのような姿勢を身に着けてもらおうとしています」。
従業員の離職を防止するためには、待遇の良さ、給与が高いことも大切だ。アルバイトの給与は時給がベースだが、勤務日ごと月間の実績に基づく出来高制も取り入れ、頑張った人には高い給与が支払われる仕組みになっている。
「時給は1800円から4000円程度と高めに設定しています。2023年春の桜の時期には1か月で130万円を稼いだアルバイトの学生もいました。高待遇の原資は、積極的な営業活動で確保しています。他にもシフトは一人ひとりの希望に沿って入れるなど、働きやすい職場づくりに努めています」。
SNSの発信強化で13万人を
超える総フォロワー数に
2019年12月の創業後からまもない時期には、コロナ禍が始まって観光客が激減し、事業は困難に直面した。「当時は観光客がゼロになり、頭の中が真っ白になりました。しかし、SNSでの発信を強化することで、活路を見出すことができました」。
発信強化によって、その後はInstagramやTikTokなどSNSの総フォロワー数が13万人を突破した。さらに、2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類に移行したことで、国内外から浅草を訪れる観光客数は回復し、ライズアップの売上はコロナ前を超えることになった。
「SNSを通じて『一緒に働きたい』という若者も沢山、来てくれるようになりました。俥夫はSNSで発信すれば指名予約が入りやすくなるなど、様々なメリットがあります。社内では毎週日曜日にSNSミーティングを開き、参加者には手当を出しています。SNSによる発信は、今後も強化していきます」。
2023年からはGoogle Reviewの活用も強化しており、その口コミ数は約3000件に増加した。将来的には浅草寺の口コミ数(2024年1月時点で約7万件)を超えることも目指しているという。コロナ禍で一度は消えた観光客は現在、戻っているが、「それで安心し切ってしまったら、次に同様のことが起きた時に耐えらないでしょう」と西尾氏は指摘する。
今後の事業拡大に向けては、他の地域に向けた横展開と、浅草の中で異業種に進出する縦展開の双方を検討している。まずは後者での挑戦を始めており、今年上半期に浅草で、着物を着た女性が集まり「映えるビル」を造る計画を進めている。
「着物を着た女性は人力車に乗ってくれるので、私たちが色々な映える場所を案内できます。また、着物の女性が集まる場所には外国人も集まりやすく、海外のインフルエンサーたちも発信してくれるでしょう。将来的には、昔の人たちが守ってきた良さを受け継ぎながら、浅草が1つのテーマパークのように発展していければ良いと思います」。