滋賀県・三日月大造知事 琵琶湖との共生が高める滋賀県の価値

琵琶湖や周囲の山々をはじめとする自然の恵みの中で、自然と共生しながら発展し、そのブランド価値を高めてきた滋賀県。三日月大造知事は、琵琶湖を切り口にして世界へ地球環境問題の警鐘を鳴らし、持続可能な社会に向けて人々の意識を変えるきっかけにしたいと考えている。

三日月 大造(滋賀県知事)

琵琶湖を切り口に目指す
持続可能な社会の実現

――滋賀県として、2024年度に特に注力されている施策についてお聞かせください。

滋賀県では、「人の健康」「社会の健康」「自然の健康」の3つを柱とする「健康しが」の取組を進めています。特に2024年度は「ともにいきる~未来につなぐ みんなでつくる 『健康しが2.0』」ということで、心の健康をより高く保てるような取組に注力して、人と人との交わり合いである社会や経済が、皆さんにとってより豊かになるようにしていきたいと思っています。

そうした生活の土台となるのが自然の恵みで、私たちは自然の恵みをいただきながら暮らしています。自然の恵みというものを大切にして、次世代へと引き継いでいかねばならない。それをモットーにしています。

――滋賀県の自然と言えば琵琶湖ですが、琵琶湖の水資源を守るためにどのような取組をされていますか。

400万年の歴史を持つ日本最古の湖で、日本最大の淡水湖である琵琶湖。1700種以上の水生動植物が生息し、そのうち60種以上が固有種となっている Photo by ゆるくま/Adobe Stock

滋賀県は、昔から琵琶湖や周囲の山々から豊かな水の恵みをいただいてきました。この恵みを次世代に継いでいくために、琵琶湖を窓口として、地球環境の変化が社会や経済に与える影響の警鐘を鳴らし、私たちが生活を変えていくきっかけにしていきたいと思っています。

その取組の1つとして、「30by30(サーティ・バイ・サーティ)目標(※1)」への貢献を含む、ネイチャーポジティブ(※2)の実現に向けた取組をさらに強化して進めようと考えています。また、琵琶湖版SDGs「マザーレイクゴールズ」にも取り組んでいます。これは「琵琶湖」を切り口に、2030年の持続可能な社会へ向けたゴールを定めたものです。県民・NPO・事業者・専門家・行政などの多様な主体で構成された運営委員会が約10年がかりで議論を重ね、13のゴールを定めました。琵琶湖は滋賀県民約140万人が暮らす地域にありながら、豊富な水資源を清純に保つことができています。これは世界でも稀有なことだと言えるでしょう。

※1 2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全する世界目標。生物多様性条約締約国会議(COP15)において2022年12月に合意。
※2 生物多様性の損失を止め、回復軌道にのせること。

我々は琵琶湖のこのような価値を守るための技術をきちんと知り、それを高める努力をせねばならないと思っています。本県には、水質をきれいに保つ技術や、循環させて活用する技術を持つ企業が多くあります。そういう企業と水に関連するフォーラムをつくり、シーズとニーズをマッチングする機会を創出しています。

琵琶湖の素晴らしさを世界の方々に知っていただくための取組にも注力しています。この5月には、インドネシアで開催された「第10回世界水フォーラム」に参加し、「世界湖沼デー」の制定に向けて賛同を呼びかけました。また2022年には、琵琶湖と共生する滋賀の農林水産業が「琵琶湖システム」として世界農業遺産に認定されました。このブランド価値をさらに高めて、農林水産事業者の所得向上にもつなげたいです。

2024年5月の「世界水フォーラム」の様子

とりわけ来年は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに大阪・関西万国博覧会が開催されます。命を保つ基盤は水です。来場者の方々に水への慈しみの念を感じていただけるような取組をしていきたいと考えています。

脱炭素の課題分野は
改善の余地がある「伸びしろ」

――滋賀県のカーボンニュートラルへの取組についてお聞かせください。

地球温暖化対策として、2050年の達成を目標に本県のCO2排出量を実質ゼロにする「CO2ネットゼロ」にも率先して取り組みます。エネルギー使用量を減らす取組と、再生可能エネルギーの活用を増やす取組を両輪として進めていければと思います。

「CO2ネットゼロ」を進めるには、まず現状を知ることが重要です。CO2をどれくらい排出しているのか、あるいはどれくらい削減できているのか。それらを測定し、削減につなげていきます。この取組は行政だけでなく、県民や事業者みんなで進めていかねばなりません。そのために事業者や団体等の多様な主体に参画いただくプラットフォーム「ネットゼロフォーラムしが」を立ち上げ、情報交換等を進めています。

こうした取組を進めるなかでわかってきたのは、中小企業の方々が悩んでいるということです。カーボンニュートラルに向けた技術やシステムを導入するには投資が必要になるため、取組を思うように進められずにいる中小企業は少なくありません。一方、家庭でやれることもまだたくさんあります。農業分野でのカーボンニュートラルにも大きな可能性があると考えています。いま課題となっている中小企業、家庭、農業は、裏を返せば目標達成に大きく貢献する可能性があるということだと思っています。

先進的な取組を行っている企業と県民や地域をつなぐことも重要です。滋賀県には先進的な取組により、琵琶湖や自然環境を大切にしながらそれぞれの事業を営む企業がたくさんあります。我々はそうした取組を行っている事業者を認証する「しが生物多様性取組認証制度」を実施し、さまざまな主体とつなぐような役割を果たしたいと思っています。

DXで実現目指す
「手のひら県庁」とは

――行政や産業のDX推進では、どのような取組に注力されていますか。

滋賀県のDXは推進途上です。それはこれから変えて高めていくことができるということでもあります。つまり、滋賀県のDXは、投資を生み人材を育成する可能性がある、のびしろのある領域だと言えます。本県では2022年に「滋賀県DX推進戦略」を立ち上げ、DX推進のための基盤づくりや人材育成を行うなど、暮らし・産業・行政の面でさまざまな取組を行っています。

特に産業面ではまだいろいろとできることがあるはずです。例えば農業では、少人数による大規模な面積の農業を実現するのはスマート化がカギになります。そういう基盤整備をしていきたいと思っています。

この5月には、滋賀県工業技術総合センターに開設した「デジタル高速無線通信・EMC評価ラボ」の供用を開始しました。公設試験研究機関として国内初となるEMCとWi-Fi無線通信の同時評価ができるオープンラボで、工場のスマート化に対応した無線通信機能を持つ各種機器の開発の加速化や、最新の国際規格に対応した電気製品・情報機器の効率的な開発などを行うことができます。

滋賀県工業技術総合センターに開設した「デジタル高速無線通信・EMC評価ラボ」

行政のDXでは「手のひら県庁」を進めています。「手のひら県庁」とは、わざわざ県庁まで出向くことなく、スマホ一つで24時間行政手続きができるペーパーレス・キャッシュレス化された県庁のことです。会計管理局を中心に財務会計システムを見直すなど、現在「手のひら県庁」の実現に向け、精力的に進めているところです。

みんなで支える地域の公共交通
「交通税」導入の可能性

――知事は新しい地域交通の制度設計にも注力されていますが、具体的にどのような取組なのでしょうか。

地域の交通は企業や住民いずれの方々にとっても死活問題です。人口減少で利用者が減少するだけでなく、運転士の確保も課題です。この問題は、国に補助をお願いするだけ、事業者に頑張ってもらおうとするだけでは埒が明きません。この3月、地域交通への希望をまとめた「滋賀地域交通ビジョン」を作成しました。今年度はこのビジョンを実現するための計画づくりを始めています。

ビジョンを実現するための施策には財源が必要です。公共交通では、そこから利益を得る地域の構成員が広く負担し、支えることが重要です。そこで、地域交通を支えるための税制として、全国でも珍しい「交通税」導入の可能性について、一線級の税の専門家の方々を含む税制審議会で議論を重ねています。ビジョンの実現を目指して、計画・財源をセットにして、誰もが行きたいときに行きたいところへ移動できる持続可能な地域交通を成就させたいと思います。

公有民営の新しい仕組みにより、この4月に再スタートを切った鉄道もあります。それは120年を超える歴史を持つ近江鉄道です。県と、沿線の10市町で構成する法人が線路や車両などを保有して、列車の運行は近江鉄道が担います。この取組により、鉄道や駅があることで実現できる町づくりや暮らしを、皆さんに感じていただきたいと思っています。すでに近江鉄道沿線では、行政が関わることで活発な投資が行われ、ポジティブなスパイラルが回り始めています。

非日常と日常を体験できる
滋賀ならではの観光「シガリズム」

――観光産業活性化の施策や戦略についてお聞かせください。

「光を観る」と書く観光は、心の目で光を見ることが大事だと思っています。私たちは長く辛いコロナ禍の中で光を見ました。その光とは、琵琶湖をはじめとする自然の豊かさ、人の優しさです。今年度は、こうした光をより多くの人々に感じていただきたい。そういう思いで「シガリズム」による観光キャンペーンを本格的に展開していきます。

「シガリズム」のポイントは「非日常」と「日常」です。雄大な自然の中で四季折々の景色や食べ物を楽しんでいただき、非日常を体験していただく。同時に滋賀県の日常の中にも見るべき光はあります。琵琶湖に代表される自然と歩みをそろえ、ゆっくりとていねいに暮らしてきた滋賀の時間の流れや暮らしを体感していただく。そういう観光を育てていきたいと思っています。

琵琶湖を自転車で一周する「ビワイチ」が人気で、昨年は過去最高となる約13万人に来訪いただきました。このような、滋賀ならではの観光を楽しんでもらえるようにしたいと思います。

――来年には、大阪・関西万国博覧会も開催されます。

万国博覧会には2800万人を超える来場者が見込まれています。万博会場をゲートウェイトとして、滋賀をはじめとする周辺各地を巡っていただけるような取組を計画しています。

例えば、日本仏教の母山である比叡山と琵琶湖をめぐる旅や、優秀な技術を持つ企業を案内するツアーなどを考えています。琵琶湖と共生している産業や企業が集積する滋賀県に、海外からの注目が集まり始めています。

左/大津市に位置する比叡山・延暦寺 Photo by Mtaira/Adobe Stock 右/「シガリズム」のロゴ

「TECH PLANTER」で産学を
つなぎ、スタートアップを支援

――新産業創出やスタートアップ支援の取組についてはいかがでしょうか。

水の利や地の利に恵まれた本県では、古からその時代の最先端の事業が営まれてきました。そうしたなかで、次の時代をつくるキーになるのがスタートアップです。私は知事就任後、科学技術分野における研究や、創業に関する企画コンサルティング業務などを行う企業・リバネスと一緒に「TECH PLANTER(テックプランター)」を立ち上げました。ここでは、県内に拠点を置く14の大学・短期大学や第二創業を目指す企業等から“モノづくり”や “水・環境”等の分野に関連したビジネスシーズを発掘します。さらに、そうしたシーズを求める企業とのマッチングや、事業のブラッシュアップを行い、スタートアップを伴走型で支援して育てる取組を行っています。

2023年7月に、立命館大学がびわこ・くさつキャンパスに宇宙開発研究拠点「宇宙地球探査研究センター」を設置しました。また、滋賀大学は2017年4月に、全国に先駆けて「データサイエンス学部」を開設しています。こうしたところから出てくるスタートアップにも伴走していきたいです。

さらに、私が知事選で公約に掲げてきた高等専門学校を、2028年の開校を目指して準備を進めています。ここでは情報通信を基盤とした高度ものづくりに資する人材を育成していきたいです。それも単なる技術者の養成ではなく、社会課題を技術力で解決していくような人材です。当然そういう人材による起業も視野に入れています。在学中からのチャレンジも含めて、後押ししていけるような環境をつくりたいと思います。

こうした様々な取組を通じて、ともに生きる「健康しが」を進め、滋賀県の価値を高めていきたいと考えています。

 

三日月 大造(みかづき・たいぞう)
滋賀県知事