アクアステージ 持続可能な陸上養殖モデルで地域を活性化

海のない滋賀県で、人工海水を用いた魚の養殖に挑むアクアステージ。魚が排出する有害物質の分解・除去により、自然環境に負荷をかけずに水質を保つ「完全閉鎖循環式陸上養殖システム」を独自開発した。多くの自治体や企業と連携しながら、地域の環境保全と事業創出の両立を目指している。

大谷 洋士(株式会社アクアステージ 代表取締役社長、立命館大学 総合科学技術研究機構 教授)

厳しい排水制限から生まれた
完全閉鎖循環式陸上養殖システム

水産生産者の減少・高齢化、海水温の大幅上昇や大規模自然災害の頻発といった環境の変化によって水産資源の減少が進む中、「陸上養殖」が注目されている。新鮮な魚を安定的に供給できるとあって、全国で取り組む事業者が増えているが、飼育する水産魚種から発生する糞尿や生態代謝物、餌の食べ残し、斃死などを、適切な処理なく排水すると、環境に負荷をかけるという問題があった。

「滋賀県は、全国でも有数の厳しい排水対策が設けられている自治体なので、新しい養殖施設を設置するのは実質的に無理だと言われていました。だからこそ、当社の『完全閉鎖循環式陸上養殖システム』が誕生したと言えるでしょう。マニアックにやってきて、よかったです」と語るのは、アクアステージ代表の大谷洋士氏だ。

立命館大学卒業後、信託銀行に就職した大谷氏は、都市開発の業務に従事した。そして入社10年目に独立し、仕事仲間とともに株式会社ウイルステージを設立。商業施設や住宅の開発などまちづくりを手がけるうち、ビオトープの設置に関わることになり、水質浄化システムの開発に乗り出した。1970年代に幼少期を過ごし、「日本の海や川がどんどん汚くなっていくのを見て、いつかそれを解決できる仕事をしたい」と思い描いていたという。

「2014年からは、水がほぼ入れ替わることのない平等院(京都府宇治市)の阿字池の水質浄化に取り組み、鳳凰堂の鏡写しが鮮明に見えるような水質に変えることができました。その後、環境省の環境技術実証事業に採択され、円覚寺(神奈川県鎌倉市)の妙香池や、皇居外苑日比谷濠での水質浄化に携わることができました」

2018年に、同社のアクアソリューション事業を分社化する形でアクアステージを創業。翌2019年1月には、株式会社農林漁業成長産業化支援機構(農林漁業者の6次産業化事業を支援するために設立された官民ファンド)による「しが6次産業化ファンド」を引受先に1億7500万円の資金調達を行った。同社は滋賀県内に、1000坪規模の自社養殖場を2カ所、立命館大学の研究室に実験水槽2基を持つほか、甲賀市の廃校舎を活用した養殖施設も運営し、トラフグ、ヒラメ、マサバ、クルマエビ、ウナギなどの安定飼育に成功している。難しいとされてきた、琵琶湖固有種のビワマスの養殖にも挑戦中だ。

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