ホテルテトラグループ、域内経済を循環させて地域を元気に
函館市に本拠を持つテトラグループは業績不振や後継者不足に悩む地方都市のホテル、旅館を次々に再生させ、創業から40年強で25軒、売上げ38億円にまで事業を成長させた。地域の従業員に誇りを持たせる経営と経済の域内循環にこだわり「地域の元気と笑顔に貢献する」というビジョンを体現する。
地方都市のホテルや
旅館を次々に再生
グループの歴史は、1980年、現社長である三浦裕太氏の祖父・末年氏が函館市梁川町に37室のビジネスホテルを始めたところから始まる。末年氏の急逝に伴い、跡を継ぐことになったのが長男の孝司氏(現会長)、新介氏の兄弟だ。若返った経営陣の考えについていけない従業員の大量離職などの苦労もあったが、近隣の企業にこまめに足を運び、待ちから攻めの営業に転じ、函館市内だけでなく札幌にも事業を広げていった。ただ、バブル経済崩壊の影響もあり、浮上のきっかけをつかめずにいた。
そこから時代と客のニーズを読んだ様々な工夫が始まる。2001年に借り上げた湯の川温泉(函館市)の旅館では日帰り入浴客を受け入れたところ、これが大人気に。02年に開業した函館パークホテルでは「癒し」をテーマに掲げて岩盤浴を併設し、ペットホテルも併設したとした。その後は、東京、神戸、北九州、大津などに拠点を広げ、それぞれの地で地域に根付いた戦略でホテル、地域の再生に貢献してきた。
現社長の三浦裕太氏は大学生時代の20歳に家業を継承することを決意。大学卒業後は、金融会社で6年間勤めた後、2017年にホテルテトラに入社。フロント、清掃業務など現場を経験した後、父・孝司氏について経営を学び、2022年8月に3代目社長に就任した。
地域での雇用が
生み出す波及効果
三浦氏は社長就任にあたって、これまで祖父、父が大切にしてきた経営理念「心のこもったおもてなしでビジネスや観光の役に立つ」に基づく経営姿勢、地域や従業員とのかかわりを紐解き、整理し直した。それは「心のこもったおもてなしでお客様満足を得て、地域への出張や観光の役に立つことを通して仕事満足(プライド)を得る。リピーターを得ることにより、収益性を高め、経済的にも社員さんを幸せにする。会社が成長することは社員さん個人が成長することと同一であり、個人の成長のために援助を惜しまない」という理念に紐づく経営目的に集約されている。
これまで各地のホテルをグループ化するなかで、こだわってきたことがある。それは地域の従業員を雇用し、運営を任せることだ。経営母体が変わると、スタッフがそっくり本部人材に置き換わるような事例もあるが、ホテルテトラではそれを是としない。
「なぜなら地元の方々はその地域のことを愛しているからです。彼らは土地柄や文化、人の特性などを深く知っているからこそ、どんな工夫をすればお客さまが喜ぶかもわかっています。努力によって、お客さまが増えて収益が向上し、自らの給与にも反映されれば、また地域のために頑張ろうと思える。そんな循環を作ってきたつもりです」(三浦氏)
その言葉に呼応するように、取材時に同席していたホテルテトラリゾート十勝川(北海道河東郡音更町)で主任を務める佐々木恵美氏が言葉をつないだ。同ホテルはかつてかんぽの宿だった施設をテトラグループが買い取って改修し2017年12月にリニューアルオープンした物件だ。
「札幌でアルバイトしていた私が、たまたま実家のある十勝のホテルで従業員を募集していることを知り応募したところ運良く採用してもらいました。居酒屋ではバイトリーダー止まりだった私が、こうして主任として仕事をしている。居心地の良い生まれ育った場所で輝ける場所を見つけることができたことをうれしく思っています」(佐々木氏)
佐々木氏をはじめ地元のスタッフはリニューアルオープン後、トウモロコシの炊き込みご飯など地元産の旬の野菜を使ったメニューを提供し食事で使った自家栽培野菜を土産物売り場で販売する、余剰牛乳があふれて困っていた酪農家の実状を知ってもらおうと牛乳を買い取って「ウェルカム牛乳」としてふるまう、ガイドブックには載っていないおすすめの観光コースを描いた手書きのマップを作成する、などのアイデアを次々に取り入れ、稼働率をどんどん上げていった。
こうした地域特性を生かした施策は他の拠点でも実施している。ホテルテトラ北九州(福岡県北九州市)で採用され、その後、各地で経験を積みながら現在はホテルテトラリゾート仙台岩沼(宮城県岩沼市)を担当する平野理江氏は「地方都市の魅力、グループで働く人の思いをお客様に伝えていくと、グループの他のホテルに行ってみたいという人も増えました。地域で誇りを持って働くことが地方の貢献に役立つということを実感しています」と語る。
「地方から東京を目指す人は多いですが、それはたまたまそのタイミングで上京の機会があったからで、機会に恵まれず出られなかった人もいるわけです。私は、階段さえあれば人はどこまででも登れる、という言葉が好きです。自分はこんなものだろうと思っていた人でも、環境、機会が与えられれば自分の価値に気づくことができる。それを与えられるのが地方の会社の役割だと思っています。そこでやりがいを感じる人が地域の家族、友人、知人にも良い影響をもたらしその波動が広がっていけば地域は元気になっていくのではと信じています」(三浦氏)
地元への貢献意欲を
備えた人材が活躍
創業の地である函館の活性化についてはどうか。ブランド研究所が行った「地域ブランド調査2022」で、函館市は市区町村魅力度の3位にランクインした一方で、日本総合研究所がまとめた2022年版「中核市幸福度ランキング」では全48市で45位だったことに表されるように、「内外での印象や実態にギャップがあるのが函館」と三浦氏は分析する。
「基幹産業である水産業で言えば、さきいかや松前漬けなど代表的な海産加工物はあっても、昨今は水揚げが減り、輸入魚に頼らざるを得ない状況です。つまり1次産業と2次、3次産業が地域で完結していないので地元からお金が逃げていくようになってしまったのです」(三浦氏)
とはいえ、函館空港から市街地へのアクセスは15分と速く、飛行機が飛べない時でも新幹線で代替でき、青函フェリーなどの船便も充実している。加えて「車で2時間圏に大きな都市がないことで、商圏人口には恵まれていないものの、その分宿泊需要は高い」という。基幹産業の水産業の衰退で地域経済が疲弊しながらも、都市のブランドイメージは高く観光需要は伸びている。そうした状況が、函館市外の資本によるホテルの進出が増え、地元資本のホテルはテトラグループを含むわずかが残されているのみという現状を生んでいる。
地元資本として気を吐くテトラグループは現在、市内で6軒のホテル・旅館を運営している。例えば、2014年に創業100年を超える老舗旅館「大黒屋旅館」の事業を承継するにあたっては、その歴史的な資産を最大限に生かすことにした。温泉の魅力を前面に打ち出すとともに、地元の食材をふんだんに使った懐石料理をアピールする一方で徹底的に固定費を見直し、黒字化に成功。併せてSNSなどデジタルマーケティングを積極的に活用し、認知度を高めていった。何より日本らしさを感じることのできる純和風の空間時が醸し出すぬくもりがインバウドに好評で、大正レトロを感じられる建具やインテリアがアニメファンや歴史ファンをつかんだ。
また、創業ホテルのホテルテトラでは毎年1月に「夢を語って焼きそば食べよう!」のイベントを開催し、老若男女を問わず1分間スピーチで夢や目標をスピーチした方に、あんかけ焼きそばを無料でふるまっている。これは、どんなに大きな夢や目標を抱えていても言葉にしなければ誰にも分からない、言葉を発した瞬間に世の中に存在するという考えに基づいて開催される地域教育イベントだ。また、グループ主催の「テトラ杯争奪少年野球大会」は開催25回を数える高齢企画。「地元発祥のホテルチェーンとしての自信と函館への貢献意欲では負けない」と気概を語る。
高齢化率50%超の
利尻島で新たな挑戦
地域に根差し、事業を通して地域に貢献する、そのためのテトラグループとしての根本的な考え方は「域内で経済を循環させること」だ。売上げは人件費と経費と利益に分けられるが、「地域の人を雇用し、取引先をできるだけ地元企業に絞ることで、地域でお金が回りますし、利益についても地域の金融機関に預ければ、それが地域の融資に回りますから、お金を地域外に出さないことで地域を潤していくことが当社のビジネスモデル」だと、三浦氏は言い切る。
23年4月には、利尻島で最大規模のホテル「北国グランドホテル」をグループ化した。利尻島は65歳以上の人口がすでに50%を超えている。
「国内で最も高齢化が進んでいる秋田県では2045年に高齢化率が50%を超えると言われていて、利尻島はそれを20年先取りしていることになります。つまり20年後の日本の縮図が利尻島にあるわけです。そのなかでいかに人手を確保しサービスを維持できるか新たな挑戦であり、ここでノウハウを獲得できれば世界のどこでも勝負できる自信が付くと思っています」
日本の地域課題解決の先に、三浦氏は世界を見据えている。
施設ごとの特色ある企画やイベントが好評
ホテルテトラグループでは地元で雇用したスタッフが、地域の特色を踏まえた企画等を考え、地域の人々とともに実行に移していく。宿泊客はほかではできない体験や思い出を持ち帰り、スタッフや地域の人々は宿泊客の喜ぶ姿に仕事のやりがいを感じると共に、自分たちの地元に誇りを持つことができる。関係者全員にとって幸せな施策だと言える。
- 三浦 裕太(みうら・ゆうた)
- ホテルテトラ 代表取締役
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