花角英世・新潟県知事 再生可能エネルギー等創出で脱炭素を推進

2019年策定の「新潟県総合計画」に基づき、成長産業の創出や起業・創業の推進、県民の地域への誇りの醸成など、新潟県の賑わいと活力づくりに邁進してきた花角英世知事。コロナを経てどのような成果があがったのか。また、2022年4月の総合計画改定で追加した重点施策について話を聞いた。

花角 英世(新潟県知事)
取材は、新型コロナウイルス感染症対策をとり、ソーシャルディスタンスを十分に保ち行われた
(2022年11月30日)

脱炭素へ向けた
新潟県の4つの戦略

――「新潟県総合計画」の2022年4月の改訂で、新たに加えられた重点施策についてお聞かせください。

新しい重点施策は2つあります。1つ目は、脱炭素です。本県は2020年9月に「2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロ」を宣言し、その後1年をかけて脱炭素に向けた戦略を策定しました。戦略の柱は、①再生可能エネルギー等を創る、②創った再生可能エネルギー等を活用する、③CO2排出を減少させる、④CO2を吸収・貯留する、の4つです。

本県はもともと自然エネルギーが豊富です。その代表例が、日本海側の北部地域の風力、特に洋上風力発電です。この地域は風況が非常に良いということで、2022年9月に国から再エネ海域利用法に基づく促進区域に指定されました。来年度中には風力発電事業者が国により選定される見込みです。また、新潟東港では、約30万キロワットという世界最大級の発電量を誇るバイオマス発電所をつくる構想があります。そのほか、妙高地域では地熱発電のプロジェクトが動きだそうとしていますし、県内各地で小規模水力発電を多数つくる動きも出てきています。このように、「再生可能エネルギー等を創る」という部分では非常に活発な動きがあります。

また、INPEXという会社が2022年11月より、新潟県で産出される天然ガスから水素を製造し、さらにその水素の一部をアンモニア製造と水素発電に利用する実証試験を開始しました。水素を取り出す過程で副次的に発生するCO2は、「CO2の吸収・貯留」にも関わりますが、すでにガス生産が終了したガス田の貯留層へ圧入(CCUS)します。これは単にCO2を埋める、貯蔵するということではなく、高圧のCO2を注入すると、まだ地中に残っている天然ガスが押し出され、さらに採掘できるようになるのです。CO2を天然ガスを取り出す材料にするということですし、結果的にCO2を地中に埋めていくので、脱炭素につながります。このような活用の取り組みも始まっています。

「CO2排出を減少させる」については、現在、「新潟県版雪国型ZEH基準」を策定しているところです。高断熱で気密性の高い家をつくることで、冬をできるだけ少ないエネルギーで過ごせるようにしたいと考えています。

「CO2の吸収・貯留」については、CCUSと併せて、政府のJ-クレジットを活用して森林整備を行い、CO2の吸収を進めていきたいと考えています。

暮らしのデジタル化では
医療と教育を重視

2つ目の重点施策は、デジタル化社会への対応です。大きく、「産業分野」「行政」「暮らし」の3分野で進めています。

産業分野のデジタル化は、経営を効率化して高い付加価値や利益を生み出す上で不可欠なものになりつつあります。本県では2021年3月に「県内産業デジタル化構想」を策定し、業界団体、各地商工団体、金融機関などと意見交換を重ねており、デジタル技術を先進的に取り入れている企業も出てきました。しかしその一方で、デジタル人材の確保が難しい、ノウハウを持っていない、新規開発の資金不足などの課題もあります。そこを行政としてどのように支援していくのか。さらなる改革が必要です。

行政のDXでは、押印の廃止や行政手続のオンライン化を進めています。また、小型軽量のモバイルパソコンにしたことで、会議なども機動的にできるようになりました。今後はペーパーレス化を一層推進するとともに、Web会議などの実施環境を拡充させていきます。

暮らしのデジタル化で特に重要視しているのは、医療と教育です。医師少数県である本県では、県内のどこに住んでも医療を受けられる安心・安全な環境をつくらねばなりません。これまでのように小規模な病院を分散して配置するのでなく、1つの診療科目に少なくとも4人以上の医師を確保して、24時間365日対応できる医療体制をつくる必要があります。県内のどこに住んでいても、そこから遠隔で医療が受けられるような体制を、デジタルの最先端技術で実現できるようになることを期待しています。

教育では、人口減少による小規模校の問題があります。特に小規模な高等学校では、各科目の専門の教諭を置くことができません。こうした課題もオンラインを使うことで解決できると思っています。

1億円産地倍増計画で
園芸を農業の第2の柱に育成

――製造業など、新潟県の既存産業の活性化への取り組みについてお聞かせください。

五泉や見附ではニットなどの織物産業が盛んですし、燕三条では金属加工業が盛んです。中には世界に通用する独自の技術を持つニッチトップもありますが、多くはメーカーの下請けとして製品を受注し、製造する中小企業です。こうした企業が付加価値を創出し利益を上げられるように、例えば協働して独自ブランドを立ち上げたり、eコマースなどの販売チャネルを開設するなど、既存産業を高度化する支援を行っています。

――新潟県は米どころとして有名ですが、農業ではどのような施策に注力されていますか。

もちろん、米は新潟県最大の強みです。ただ、これまで新潟県の農業は米に頼りすぎていました。米のマーケットは残念ながら毎年縮小しており、単価も上がりません。農業者は米だけでは所得を上げにくくなりました。

そこで本県はこの3年あまり、農業の新しい柱として、果実や野菜、花など、園芸の振興に力を注いできました。当初、園芸戦略として3つの目標を立てました。

まず、大規模産地育成のため、販売額1億円以上の産地数を倍増する。目標設定当時は、カキ、洋ナシ、枝豆など、51産地ありました。それを101産地にするという目標です。2つ目の目標は、園芸の栽培面積を1,000ヘクタール増やすこと、3つ目は園芸に取り組む農業者を増やすことです。

園芸に対する意欲喚起のため、JAグループと連携した園芸振興大会や、園芸導入研修会を実施しました。さらに、共同出荷施設やハウス団地の整備など、大規模園芸産地の創出に努めるとともに、関西や東京で販促活動を行い、販路拡大と産地イメージの確立に努めました。

こうした活動の成果として、2021年は、販売額1億円アップの産地が8産地増えました。園芸栽培面積は317ヘクタール増加し、若い人を中心に947人の農業者が新たに園芸に取り組みました。園芸が成長産業になれば、若い農業者の増加につながる好循環が生まれるだろうと期待しています。

上/日本一の米どころである新潟県。米の産出額・収穫量・作付面積はいずれも全国1位
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左下/新潟県は高級洋ナシ「ル・レクチェ」の産地でもあり、国内生産量の約8割を同県が占めている
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右下/枝豆の作付面積も日本一。5月~10月までの間、様々な種類の品種が出荷される
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行政・経営者・大学が連携し
起業家予備軍をサポート

――新潟県の起業推進へのこれまでの取り組みや、その成果についてお聞かせください。

新潟県は東京に近いため、起業を志す人が首都圏に出てしまう傾向にあります。また、新潟県にはスタートアップの人々が集まれる場所や、彼らを盛り上げる拠点がありませんでした。それも、東京に人が出て行く要因の1つではないかと考えました。

そこで民間の力を借りながら、スタートアップを盛り上げる拠点の整備支援を行い、その結果、この3年間で民間のスタートアップ拠点が8カ所・9拠点できました。これらの拠点は、コワーキングスペースやレンタルオフィスなどのワークスペースとして活用され、起業家や創業者、それを支援する人々の交流の場となっています。

これらの拠点では、4つの連携で起業家予備軍をサポートしています。1つ目は、にいがた産業創造機構や地域金融機関、自治体など、公的機関との連携による資金面のサポート。2つ目は、県内の若手経営者の方々が2020年に設立した新潟ベンチャー協会や、新潟県最大級のイノベーション施設「NINNO(ニーノ)」の入居企業など、先輩起業家によるメンタリング。3つ目は、渋谷QWSやCIC東京など、県外産業支援施設との連携による地域課題解決プロジェクトなどの推進。そして4つ目は、新潟大学や長岡高専など、大学・高専との連携による起業家教育、インターンプログラム、ビジネスコンテストの実施です。

こうした取り組みによって、やる気を持った方々を後押しするイノベーション・エコシステムができ始めており、すでに120人あまりの起業家を輩出しました。特にIT関係の起業が多いのですが、起業は人が人を呼ぶようなところがあって、新潟県で起業した人の友人や知人が東京からやってきて、起業するようなことも起こり始めています。

2020年11月に開設した新潟県最大級のイノベーション施設「NINNO(ニーノ)」。スタートアップ企業や地域企業、行政、教育機関・研究機関が集まり、新潟ならではのイノベーション・エコシステム創出を目指している 画像提供:NINNO

観光資源の魅力に磨きをかけ、
交流人口を拡大させる

――アフターコロナに向けた観光戦略をどのように描かれていますか。

観光産業はコロナ禍でダメージを受けましたが、2022年2月に「佐渡島の金山」がユネスコ世界遺産に推薦されることが決まりました。これは、この3年間の中で大きな進展だと言えるでしょう。

左/20世紀末まで国内最大の金産出量を誇った佐渡島、相川金銀山のシンボル「道遊の割戸」。露頭掘り跡は江戸時代に人力で掘られたもの Photo by ziggy/Adobe Stock
右/相川の北沢地区にある産業遺跡「北沢浮遊選鉱場跡」 Photo by tenjou/Adobe Stock

また、2020年7月には、地方都市としては数少ないミシュランガイドの特別版「ミシュランガイド新潟」が発行されました。これは、食の魅力の開発に努めてきた成果のあらわれであり、新潟には魅力的なレストランやホテル・旅館があるという証であると受け止めています。

2021年3月には、2021年度から2024年度までの新潟県観光立県推進行動計画を策定しました。「黄金(こがね)と白銀(しろがね)で酔わせる新潟」というキャッチコピーのもと、世界中から人々が訪れる地域を目指しています。「黄金」や「白銀」は上質な色であると同時に、光の当たり方や見る人によって色彩を繊細に変化させます。佐渡島の金山はまさに黄金のイメージですし、白銀と言えば雪や白鳥を思い浮かべる人もいるでしょう。そうした黄金や白銀との出会いを探しに本県を訪れていただけるように、今ある魅力に磨きをかけ、さらに輝くことができるように支援したいと思います。

また、東京ではコロナ禍の中でも県の旬の情報を届ける「新潟プレミアサロン」の定期的な開催を続けてきました。新潟縁の方がここで入手した情報を、ご自身の勤める会社の社内報に載せてくださったり、雑誌に取り上げてくださったりと、新潟に関する情報収集・発信の場として定着してきました。

東京に近い新潟県は、リモートワーク先としても魅力的です。例えば、USENでは本社採用の社員が長岡市に住み、本社待遇のままリモートワークで仕事をしています。長岡市では、このような新しい働き方を「長岡ワークモデル」として推進しています。その実践者は「ナガオカワーカー」と呼ばれ、少しずつ増加しています。

こうした取り組みを積み重ねていくことで交流人口を拡大し、元気で活力のある新潟を実現したいと思います。

 

花角 英世(はなずみ・ひでよ)
新潟県知事