MGNET ものづくりにとって、より良い環境をデザインする

燕市の武田金型製作所から、広報部署が独立して誕生した企業・MGNET (マグネット)。同社はものづくりにとってより良い環境をデザインし、もの・こと・まちの価値や魅力を最大化するための事業を展開している。同社の設立経緯や今後の事業構想を、社長の武田修美氏に聞いた。

武田 修美(株式会社MGNET 代表取締役)

父が経営する金型の会社から
独立し、2011年に会社を設立

MGNET はものづくりに関わる企業や行政に対するブランディング、新商品開発などの企業コーディネートを行うソーシャルデザイン企業だ。自社ブランドとして、燕三条の技術を活かしたファッション製品事業「FOR」や、ものづくりの背景と兆しにフォーカスするセレクトショップ「FACTORY FRONT」なども展開している。

同社代表の武田修美氏は専門学校卒業後、20歳でトヨタ自動車に就職。しかし、入社5年目に大病を患い、退社して実家の武田金型製作所(燕市)を手伝うことになったという。

「元々、家業を継ぎたくなかった訳ではありませんが、周囲から将来は自分が家業を継ぐものと思われている中、『決められた道に進むのは嫌だ』という気持ちもありました。そのため、商業高校と会計の専門学校に進学し、その後、営業職にも興味を持ったことと自動車好きも功を奏しトヨタに入社したのです。しかし、大病で一時は体を起こすこともできなくなり、まずは伝票整理やパソコン作業のような、横になっていてもできる仕事で家業の手伝いを始めました」

武田金型製作所に入社した武田氏は、マルチメディア事業部を新たに立ち上げた。そこでは、自社のホームページを使った広報活動のほか、ネット通販で自社製品の名刺入れを販売する仕事などを任されていたという。

「最初、名刺入れはほとんど売れませんでしたが、デジタルマーケティングを独学し、3年程経つとかなり売れるようになりました。そうこうするうちに、徐々に体調も回復してきました。最も名刺入れが売れた時期には、同部署の月の売上は約1100万円に達していました」

ものづくりから派生し、
こと・まちのブランディングへ

武田氏は事業が拡大してきた2011年、同部署を独立させる形で、武田金型製作所の子会社としてMGNETを設立。同社は「ものづくりにとってより良い環境をデザインする」ことを掲げ、もの・こと・まちの価値や魅力を最大化・最適化するための事業を展開している。

「燕三条以外にも、ものづくりのまちは全国各地にあり、それらが日本を支えています。しかし一方で、より多くの人たちがものづくりに関れるようにしていかなければ、市場が衰退してしまうのではという危機感もありました。元々ものづくりのノウハウや過程を学んでいなかった私が、家業に入って最も苦労したのは、『言葉が通じないこと』でした。ロットやアールなどの現場で頻繁に使われる言葉もわからず、取引先との会話で苦労しました。相手に『話にならないから、図面を持って来い』と言われても、図面も描けなかったのです」

特に金型をはじめとする金属加工のような業界では、ものづくりは「知っている人同士」で行われるのが普通で、業界の外から来た「知らない人」が関わるのは難しい。しかし、このような状態では、ものづくりに魅力を感じて外から入りたいと思った人もなかなか業界に入ることはできない。

「そこで、まずは元々行っていた『ものづくり事業』の素晴らしさや面白さを広く伝えることが必要だと思いました。そのような背景で生まれたのが、当社の『ことづくり事業』です。また、ことづくりを続けるための環境を整えるためには、『まちづくり事業』も必要です。私たちは、『ものを作りたい』という人の純粋な気持ちに応えられる環境づくりを支えるためのビジネスを展開しています」

同社は「ことづくり事業」において、例えば地元企業の周年イベントや、地域の伝統産業の図録・書籍などを監修。また、企業や商品のブランディングにより、企業がより良く成長するための基盤づくりをサポートしている。

2022年6月開催の「インテリア ライフスタイル 2022」で、ブランディング支援企業中野科学の展示ブースのクリエイティブディレクションを担当

「まちづくり事業」では、店舗の運営や拠点づくりなど、ソフトとハードを組み合わせた事業を展開。例えば燕市では、中高生と燕市地域の間に共に情報発信を続ける関係性をつくり、その過程と成果を受け継いでいく「つばめいく」プロジェクトをプロデュース。三条市では、MGNETの若手社員(現TREE代表)などの活動によって一ノ木戸商店街に誕生した中心市街地拠点施設「TREE」が、街の若者たちが集う拠点になっている。また、MGNETが監修し2020年にオープンした三条市のインターンシップ拠点施設「三条未来づくり舎 日吉舎」では、学生と企業をつなぐインターンシップのコーディネートを行っている。

中高生と燕市の間に共に情報発信を続ける関係性をつくり、その過程と成果を受け継いでいく「つばめいく」プロジェクト。2017年度グッドデザイン賞受賞

県内初の民間シンクタンク
「BEECL」を2021年に設立

2021年、同社は新潟県初の民間シンクタンク「事業環境創造研究所(BEECL、ビークル)」を立ち上げた。BEECLでは、燕三条のものづくりのDNAから育まれた「デザイン思考」により、新たなビジネスを生む仕組みづくりへの貢献を目指している。

「例えば、新潟県は米や酒が美味しいことで知られ、また、長岡市の『長岡まつり大花火大会』は日本三大花火の1つに数えられています。さらに、豊かな自然や伝統文化で知られる佐渡島や、十日町の『大地の芸術祭』など、新潟には魅力的なコンテンツがたくさんあります。しかし、1つ1つのコンテンツは魅力的でも、今はそれらの協力や連携ができていません。これからの時代は協働や共創が大切なので、私たちはその仕組みづくりの部分でお役に立てればと思っています。デザイン会社は通常、自社でものを作ったり自ら販売したりしませんが、私たちはものづくり事業やことづくり事業で売上も上げており、その強みも活かしていきたいです」

MGNETが今後目指すべき方向性の1つとして、武田氏は「教育現場との連携」を挙げる。

「新潟県には今、『新潟が好き』という子どもたちがたくさんいます。しかし、進学や就職で県外へ出ることも多く、外に出るまでの義務教育期間に、どれだけ彼らの気持ちに沿った新潟県を残してあげられるかが大事だと思っています。地域学習や探究の時間もありますが、大人の押し付けではなく、彼らの興味に沿った知識を与えることが大切です。これからの新潟県を作ってくれる子どもたちへの最適な教育は何かというのを考えていきたいし、可能なら事業にしていきたい。企業と教育現場が一緒に取り組めるような仕組みを何か作り出して、新潟県に貢献していければと考えています」

 

武田 修美(たけだ・おさみ)
株式会社MGNET 代表取締役

 

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