佐賀県・山口祥義知事 SSP構想を起点に官民一体のまちづくりを

「SAGA2024国スポ・全障スポ」を控えた佐賀県。5月には世界基準の設備を備えたSAGAアリーナが開業し、山口知事が取り組む「SAGAスポーツピラミッド構想(SSP構想)」が大きく前進した。一方では半導体サプライチェーンの集積地を目指し、企業誘致を進めている。知事が描く佐賀の未来像に迫った。

山口 祥義(佐賀県知事)

――この5月にオープンした「SAGAサンライズパーク」の中核施設である、新時代のエンターテインメントアリーナ「SAGAアリーナ」について、建設の狙いと今後の展望をお聞かせください。

佐賀県では、2024年に国民スポーツ大会と全国障害者スポーツ大会(国スポ・全障スポ)が開かれます。これは1946年から続いてきた「国民体育大会」の名称が、「体育」から「スポーツ」へ変わる第1回目の大会です。

世界では、スポーツをビジネスにマッチングさせ、その収益をアスリートに還元する仕掛けができています。一方、日本では、スポーツビジネスやスポーツホスピタリティの分野はなかなか成長してきませんでした。私は知事就任前からスポーツで頑張る人たち全員を応援する「スポーツピラミッド構想」を提唱してきました。それを実現する器として、世界基準の設備を備えた「SAGAアリーナ」(図表1)と、「SAGAアクア」(SAGAサンライズパーク内の水泳場)に重点投資をしています。国スポ・全障スポはたしかに大きな大会ですが、あくまでも通過点と考え、その先を見据えた事業構想をしていくことが重要だと考えています。

図表1 新時代のエンターテインメントアリーナ「SAGAアリーナ」

出典:佐賀県

 

SAGAアリーナでは、佐賀に拠点を置くV1リーグバレーボールチームの久光スプリングスや、この5月にバスケットボールB1リーグへの昇格を決めた佐賀バルーナーズなどのプロスポーツの試合や、各種スポーツの国際大会も行われます。現在国内でNBA級の演出ができるのは、沖縄アリーナと太田アリーナ(群馬県)、SAGAアリーナの3つだけです。

SAGAアリーナは、国内で初めて3つの大型ビジョン(センター・リボン・壁面)を標準装備して、圧倒的な音響と迫力ある映像や光の演出で、ライブハウスのような一体感をつくります。全席ドリンクホルダーを装備し、3階のプレミアムフロアでは、ゆったりとした個性的な空間の中で、試合中はもちろん、その前後の時間も食事を楽しんだり、商談もできます。

この5カ月の間に、B'zやNiziU、松任谷由実さんのコンサートのほか、ディズニー・オン・アイスやプリンスアイスワールド、医学系学会の大会や商工系の見本市などが開催され、多い時には週末に県内外から約4万5000人の方々がSAGAアリーナを訪れました。その結果、宿泊、飲食、お土産の購入などの県内消費や、運営スタッフの雇用、会場設営の発注などによる経済波及効果が新たに生まれています。

SAGAアリーナは2024年度末まで、土日を中心に予約が埋まっています。来年1月には羽生結弦さん初めての単独ツアーも開催されます。これからさらに「稼げるアリーナ」として成長させていきたいです。

アスリート育成の循環をつくる
SAGAスポーツピラミッド構想

――佐賀県が取り組まれている「SAGAスポーツピラミッド構想(SSP構想)」の狙いと、これまでの成果についてお聞かせください。

「スポーツピラミッド構想」は私が知事に就任する前に提唱したものですが、佐賀県知事としてその実現を目指すことになり、「SSP構想」(図表2)として取り組んでいます。この構想では、佐賀ゆかりのトップアスリートの育成とともに、アスリートの雇用や引退後の就職支援などにも力を入れています。コーチングや指導、実況解説など、引退後も新たなステージで活躍できる世界をつくり、アスリートの人生に寄り添います。昨年から、県医師会や県スポーツ協会などの関係機関と連携して、女性アスリートの健康支援にも取り組んでいます。今年は生理について学ぶ出前授業を高校で行いました。

図表2 SAGAスポーツピラミッド構想(SSP構想)

出典:佐賀県

 

一方で県民は、実際にアスリートのプレーを見ることで夢や感動を覚え、スポーツを楽しむようになります。そこからトップを目指す選手も新たに生まれるでしょう。こうした循環体系をつくることが、SSP構想の目標です。

中高生アスリートの育成にも注力しています。鳥栖工業高校レスリング部や佐賀商業高校女子柔道部が全国制覇するなど、この夏も多くの中高生が国内外で輝かしい活躍を見せてくれました。佐賀でスポーツを学びたいと、県外から来る生徒もいます。そうした生徒のためのアスリート寮を民間と連携して3カ所整備しましたが、まだまだ足りない状況です。

佐賀でキャンプをしたいという方々も増えました。ここ数カ月だけでも女子ボクシング、新体操、アーティスティックスイミング、フェンシングなどの日本代表が佐賀でキャンプを行っています。今年8月の世界水泳福岡大会では、オーストラリアの水泳代表チームがSAGAアクアで2週間の事前合宿を行いました。佐賀県はコンパクトでアクセスが良く、充実した練習環境が整っています。練習後にリラックスできる温泉があり、県産の高品質な素材を使った豊かな食事ができることなどが高く評価されているようです。

SSP構想は約200社の企業・団体の賛同を得て、アスリートの雇用やご寄附をしていただいています。また、SSP構想からは観光、飲食、交通、教育、医療・健康など、いろいろな分野にもビジネスチャンスが拡がっていきます。官民一体となり、スポーツを核としたまちづくりをしていきたいと思います。

日本の経済安全保障を担う、
半導体サプライチェーンの集積地に

――SUMCO、アサヒビール、久光製薬など、佐賀県には続々と世界的な企業が進出していますが、こうした現象をどのように見ておられますか。

企業から多くの引き合いをいただいている理由の1つは、BCP(事業継続計画)だと思います。佐賀県は歴史的に見ても、大きな地震の記録はほぼありません。南海トラフ地震による津波高も九州で唯一、想定されていません。加えて、佐賀は九州の東西南北を結ぶ交通の要衝でもあります。最近ではアジアがクローズアップされ、九州が発展する可能性が高まっています。佐賀県はアジア諸国と交流する上で、九州の中でも非常に良い場所に位置していると考えています。

また、佐賀県庁では積極的に中途採用を行っており、中途採用者が15%(全国1位)を占める多様性に富んだ組織になりました。企業などで豊富な経験を積んだ職員が、企業誘致の分野でも活躍しています。さらに、本県では「パーマネントスタッフ(誘致企業永続支援員)制度」を導入しており、部署が異動になっても同じ職員が、ずっとその企業の窓口として誘致企業の抱える問題や要望に柔軟に対応します。そういうところも、企業から高い評価をいただいているのだと思います。

――今後の企業誘致の展開について、どのようなことをお考えですか。

佐賀県は立地の良さから企業からの引き合いが多いのですが、中でも経済成長の両輪となっている「デジタル分野」や「グリーン分野」などの企業を誘致したいと考えています。特にSUMCOが製造する半導体製造に必要不可欠なシリコンウェハーは、我が国が世界シェアの5割を超えます。まさに世界に誇る日本の強みとして、我が国の経済安全保障上、重要な役割を果たすものであり、経済産業大臣をはじめ国に対してその重要性と支援の必要性を2年前から強く訴えてきました。国においてもその重要性等を認識され、SUMCOの生産設備の増強に対して、最大750億円の支援が決定しました。

引き続き半導体業界の核となる企業の集積を図り、半導体サプライチェーンの川上から川下まで関連企業が立地する佐賀県の強みを活かして、地域経済の発展につなげるとともに、我が国の経済安全保障上でも重要な役割を果たしていきたいと考えています。

――開港25周年を迎えた九州佐賀国際空港のさらなる飛躍に向けた展開について、お考えをお聞かせください。

九州佐賀国際空港は、4月に台北便が運航を再開し、これまでの搭乗率が約9割と多くのお客様にご利用いただいています。9月には上海便とソウル便が運航再開しました。九州の空港のなかで、東アジアの3つのハブ空港との路線が全て再開したのは、福岡空港に次いで2番目の早さです。また、コロナ禍前である平成30年度の国際線利用者数は、近隣の長崎、熊本、大分空港を上回っていました。今後は、上海便やソウル便についてもコロナ禍前の運航便数に完全復便させ、県内のインバウンド誘客を促進していきます。

また、九州佐賀国際空港の今後の需要増加に備えて、滑走路の延長に取り組んでいます。あわせて平行誘導路の設置や管制官の配置などの機能強化を図り、混雑空港である福岡空港とも連携しながら民間空港としてさらに発展させていきます。九州佐賀国際空港は、九州全体の未来を見据えて、機能強化を行っている空港です。この空港を中心として環有明海に広がる筑後佐賀エリアは、大きな経済圏となりうる高いポテンシャルがあります。加えて、熊本県北部や長崎県南東部も含めた地域を、多くの皆さんとともに官民連携で盛り上げていきたいと考えています。

九州は1つです。お互いに競い合うところもありますが、1つにまとまることも大事です。この空港が九州のゲートウェイ空港として発展することは、九州全体の利益につながると思います。

九州佐賀国際空港のリノベーションの取組は2023年度グッドデザイン賞を受賞。観光案内所(右)は4カ国語対応でJNTOのカテゴリー3(最高ランク)を取得 画像提供:佐賀県

構造的な課題に正面から向き合う
「これから輝く大学」を構想

――佐賀県では、県立大学の設置を考えていらっしゃるそうですね。

佐賀県では8割以上の方が大学進学時に県外に出ます。大きな理由は、佐賀県には4年制大学が2校しかないからです。この数は47都道府県で最低です。一方でこの25年間、15 歳未満の人口割合は全国3位以上です。つまり、子どもが多いのに、大学進学時にその多くが県外に流出しているのです。各方面で担い手が不足している今、これは深刻な構造的課題です。そこに正面から向き合うため、県立大学の設置を構想しています。

考えているのは、理文融合型で、IT(デジタル)と経営(マネジメント)をベースに学ぶ大学です。従来のような、高校を卒業したらここで学ぶというだけではなく、中高生や社会人など、多様な人々が混在し、融合しているような実践的な大学にしたいと考えています。社会に出たあとで、もっと学んでおけばよかったと思うこともあるでしょう。佐賀から新しい時代にチャレンジできる人材を育てていきたいです。

構想力は経験から生まれる
鳥瞰力をもって戦略を打て

――最後に、さまざまな挑戦をされている知事から読者へ、メッセージをお願いします。

私自身、これまでずっと、挑戦することを心がけ、やるかやらないか迷ったときはやるほうを選んできました。もちろん、失敗もありますが、トライ&エラー&トライ……と突き進み、経験を重ねていくことで、いろんなことが見えてきます。幅広い経験の積み重ねが、構想力につながり、知事という今の私の仕事にも活きています。

構想力、鳥瞰力をもつことは、変化し続ける今の時代にとても大切です。常に、先のその先を見据えながら戦略を打つこと、そして、自分が思い描く未来を、より多くの方と共有できるよう説明を尽くし、県民の皆さんとの信頼関係を築いていきたいと思っています。

未来から見て、今何が必要なのかを考えていくと、おもしろい発想が生まれてくるものです。

 

山口 祥義(やまぐち・よしのり)
佐賀県知事