北海道札幌市の調味料メーカーが脱OEM 食のDX拠点で飲食店支援と自社ブランド拡大

(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年6月5日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

自社ブランドの商品を前に抱負を語る牧野克彦社長(アイビック食品本社で)
自社ブランドの商品を前に抱負を語る牧野克彦社長(アイビック食品本社で)

北海道産の素材原料を生かしたタレやだし、スープを中心に製造・販売する「アイビック食品」(札幌市東区)は、OEM(相手先ブランドによる生産)供給で急成長を果たした。根昆布だし、いくら醤油、かにつゆなどのヒットを追い風に、生産設備の拡張を伴う増産を重ねて、2026年5月期は売上高30億円到達を目指している。牧野克彦社長は新型コロナウイルス禍が始まった2020年に経営トップに就任した。製造委託された商品の多くは業務用だったり、観光施設向けだったり、コロナ禍によって北海道の観光・外食産業は一気に苦境に陥った。そこで、経営に打撃を受けた飲食店などの商品開発を支援する拠点として、デジタル技術を駆使した「GOKAN~北海道みらいキッチン~」を開設し、顧客に無償開放した。近年は、OEM商品と競合しない、総菜や菓子類、アイスクリームなど自社ブランド製品の開発・販売に本格的に乗り出している。自社のECサイトや直営店舗の開設にも積極的に取り組み、道内各地の地方創生事業のプロジェクトへの参画も目白押しだ。

OEMメーカーとして業容を拡大してきたアイビック食品の札幌工場
OEMメーカーとして業容を拡大してきたアイビック食品の札幌工場

「ゴッドタンチーム」と顧客が一緒に味づくり

アイビック食品は、1922年(大正11年)創業のアイビック(釣具・アウトドア総合卸売業)から2002年に独立する形で設立された。アイビックの牧野利春・グループ代表は2008年、「東芝E&S北海道」(現・東芝コンシューママーケティング)に就職して大手家電量販店を担当していた次男・克彦氏をアイビック食品に呼び戻し、営業職の肩書きで各部署を経験させた。先代にあたるグループ代表は、本業のアイビックを長男に託し、念願だった衣食住に関わる食品事業を次男に引き継いだ。実質上、兄弟でアイビックグループを牽引している。

「和・洋・中華どんなタレでも作ります」と、顧客の要望に応えるOEM商品の調味料メーカーとして、アイビック食品は順調に売り上げを伸ばした。牧野社長が副社長時代に手がけた「アイビックフーズラボ」(2018年1月開設)は、これまで閉鎖的だった商品開発の現場をオープンにする思い切った改革となった。牧野社長は「当時の商品開発室は閉鎖的で、ノウハウは外に漏らさない。使っている原料も知られたくない。外部の人は一切入れないというのが業界的にも一般常識だった」と振り返る。フーズラボの開設には社内の反対もあったが、「後発メーカーで失うものはない。垣根を取り払い、お客様と一緒に味を作りたい」と押し切ったという。オープンキッチン、厨房設備を備え、社内で「ゴッドタンチーム」と呼ばれる開発スタッフたちが常駐する。開発スタッフたちは、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味を少量混ぜた水を使った味覚トレーニングを毎月繰り返すなど、自己研鑽を欠かさない。アイビックフーズラボの稼働を機に、それまで営業担当者を介していた商談から試作、サンプル提出までの流れが一変した。担当開発員は試食や厨房オペレーションの検討などの各場面に同席するようになった。その結果、文字では表現しにくい細かいニュアンスも、顧客との直接対話で伝わるようになり、さっそく試作回数や成約までの期間短縮に効果が表れた。何よりも開発スタッフの能力が顧客にストレートに伝わる効用があったという。

オープンキッチン、厨房設備、会議スペースを備えた本社内の「アイビックフーズラボ」
オープンキッチン、厨房設備、会議スペースを備えた本社内の「アイビックフーズラボ」

食のDX拠点「GOKAN」開設、飲食店を応援

そうした中で、2020年に入り新型コロナウイルスの猛威に襲われた。2019年11月期に売上高20億円を超え、過去最高を更新した直後だった。月ごとの売り上げが減少の一途をたどり、就任まもない牧野社長は経営戦略の練り直しを突き付けられた。売り上げの落ち込みをどうカバーするか。新たな販路を開拓する対策も考えられたが、社内からは「徹底的に飲食店を応援しよう」という声が上がったという。多くの飲食店が途絶えた客足をテイクアウトやデリバリーでカバーしようとしていた。そこで、タレやだしの製造で培ったノウハウを生かし、店の味を再現するなどしたオリジナル商品の開発を支援しようという結論に至り、食に特化したDX拠点「GOKAN~北海道みらいキッチン~」を2021年9月、本社内に開設した。商品デザインや売り方についての後方支援も併せて目指した。

GOKAN(五感)は味覚、視覚、聴覚、臭覚、触覚の五感を刺激するデジタル技術を活用し、様々な仕掛けを用意した体験型施設。五角形のセントラルキッチンは360度どの方向からも見え、撮影した動画をモニターに映し出せる。撮影スタジオには照明機材、一眼レフカメラやビデオカメラなどを揃え、商品や料理のスチール撮影やSNSなどのライブ配信にも対応できる。照明調色システム、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)、香り発生装置によって臨場感ある体験ができる。大型デジタルサイネージに小売店の商品棚を再現し、試作品を置いた場合の見栄えを確認することもできるようにした。

Gの形を模したキッチンなどを備えた食のDX拠点「GOKAN~北海道みらいキッチン~」
Gの形を模したキッチンなどを備えた食のDX拠点「GOKAN~北海道みらいキッチン~」

設備使用料ゼロ 会社イメージ上がり協業続々

コロナ禍で打撃を受けた飲食事業者などの食の情報発信や商品開発を支援する一方で、GOKANを無償で使ってもらっている。フーズラボを含め、味をつくる試作品の作製費用、デザイン料、動画撮影料といったものは一切取らない。顧客は複数の事業者とやりとりする手間が省け、商品開発から市場投入、販売促進までをワンストップで、かかる費用を抑えて効率化できるメリットがある。牧野社長は「我々のお金の稼ぎは製造のみ。付加価値を生み出すものは製造コストにのせている。DXはコスト削減のためでなく、製品の付加価値を高めるために活用している」と話す。また、製造して終了ではなく、顧客に新たな販売方法についても提案したいと、GOKANの活用を呼びかけている。

GOKANによって、アイビック食品の会社イメージも大きく変わったという。牧野社長は「インパクトという部分で、あの会社は少し変わったことをやっていて、ふつうの調味料メーカーとはちょっと違う。一緒に組みませんか、と言ってもらえるようになった」と話す。1事業者と1商品をつくる商談にとどまらず、例えば千歳の鮭を使った複数商品の品揃えや、長万部のホタテのブランディングなど、素材全般の商談に拡大している。さらに、企業対企業の包括的な商談につながるケースも増え、自治体からの協力要請も増加している。

撮影スタジオ(右奥)のほか、五感に訴える各種仕掛けについて説明する牧野社長
撮影スタジオ(右奥)のほか、五感に訴える各種仕掛けについて説明する牧野社長

食を通じた地域施設運営へ 独自ブランドも

地域貢献のため、地方創生事業にも積極的に取り組んでいる。アイビックグループの一員として、「釣り・アウトドア・食」の連携ビジネスにも数多く参入している。スノーピーク(新潟県三条市)、ティムコ(東京都墨田区)、アイビック、アイビック食品の4社で設立した合弁会社「キャンパーズアンドアングラーズ」は2023年9月、北広島市にキャンプと釣りを中心にした物販と体験型の複合施設をオープンさせた。敷地内にジェラートやピザ、コーヒーを楽しめる「アルトラーチェ」も翌24年4月に開業。アイビック食品が運営しており、石屋製菓、丸美珈琲、イタリア料理orizzonte、シハチ鮮魚店、スープカレーの奥芝商店とのコラボが実現した。また、百合が原公園(札幌市北区)を設置・管理する民間事業者を札幌市が公募した「公園PFI」で、アイビック食品を含む6社が参画するコンソーシアムが選定され、2025年10月に新たな交流拠点「LiLiLi」がオープンした。また、江差町の「釣り文化振興モデル港」に指定された江差港で、道の駅「かもめ島」整備事業をアイビックグループで受託、飲食や物販をグループで担い、2027年度の開業に向けて準備を進めている。

アイビック食品はOEMメーカーにとどまらず、全額出資する総菜開発株式会社による生産を通じて、北海道の郷土料理いももちや、レトルトカレーなど具入りの総菜づくりにも参入している。道内の食材にこだわったアウトドア飯ブランド「DELBE」も展開中だ。「北海道の青空メシをちょっと贅沢に」とうたい、つぶ貝入りアヒージョや炊き込みご飯など自社ブランド商品を数多く揃えている。

牧野社長は、取り巻く経営環境について「たたかう競争ではなく、共につくる共創の時代」と位置づけながら、経営理念である「我が社に関わるすべての人々の豊かさを実現し、社会に貢献します」と決意を語る。「人々のおいしいを、もっと豊かに」を使命に、「新しい食文化を創るリーディングカンパニー」を目指している。

アイビック食品「表彰歴」
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【企業情報】
▽公式サイト=https://ibic.info/▽代表者=牧野克彦社長▽従業員数=75名(2026年4月現在、パート含む)▽資本金=5000万円▽設立=2002年12月

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