新潟県の家電メーカー「ツインバード」が挑む 冷凍技術で世界に持続可能な価値創出

(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2025年6月27日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

金属加工を中心とした「ものづくり」のまち・新潟県燕三条地域 の燕市に本社を構えるツインバード。コーヒーメーカーや炊飯器、掃除機など身近な生活家電の製造・販売で知られるが、マイナス100℃レベルの極低温を精密に制御できる小型軽量の冷凍機「FPSC(フリー・ピストン・スターリング・クーラー)」の量産に世界に先駆けて成功したメーカーでもある。FPSCを搭載した冷凍庫は、新型コロナウイルスのワクチン運搬庫に採用されるなど、主に医療分野でのコールドチェーン構築にも貢献している。「感動と快適さを提供する商品の開発」を経営理念に掲げる同社は、野水重明社長(59)のもと、「燕三条発のイノベーションで、世界中の人々に持続可能な幸せを提供するブランド」を目指す。

ツインバード社外観

メッキ処理で創業後に家電参入

ツインバードは、野水社長の祖父・重太郎氏が1951年にメッキ表面処理業で創業したのが始まりだ。当初は、新潟県内でトップレベルのメッキ工場を目指し、また、金属製のトレーや三段盆といったテーブルウェアを主に冠婚葬祭のギフト用に製造・販売していた。その後、からくり時計など乾電池で動く商品を販売したところ好評で、プラスチック製のクーラーボックスなども展開するようになったことから、84年に家電製品に本格参入した。2025年2月期の売上高100億5600万円のうち、家電製品事業は約96%を占める。

「匠の技」再現 コーヒーメーカーが大ヒット

主力の家電製品事業におけるヒット商品の一つに、2018年に発売した「全自動コーヒーメーカー」がある。「コーヒー界のレジェンド」とされる田口護氏の監修によるもので、ミルに採用した燕三条地域のステンレス刃にコーヒー豆の風味を損なわないよう摩擦熱を抑える工夫を施したほか、6方向からのシャワードリップなどを取り入れたことで、プロがハンドドリップで淹れた味を再現するという。3杯用で税込み3万8500円(公式ストア)の価格設定だが、コーヒーメーカー14機種を比較した2023年のテレビ番組でも総合1位に輝くなど、その機能は今も高く評価されている。

プロのハンドドリップを再現するという「全自動コーヒーメーカー」
プロのハンドドリップを再現するという「全自動コーヒーメーカー」

社長の思いに社員がこたえる

開発のきっかけは、野水社長がある時、「世界一のコーヒーメーカーを作りたい」と発言したこと。この思いに商品企画担当の社員がこたえた。田口氏が経営する東京都内のコーヒー店に社員が1年間弟子入りするなどして得たノウハウが、開発に生かされた。

野水社長は、「発売にあたり4万円近い価格に尻込みをする営業マンもいましたし、実際、最初は売れませんでした。ところが、しばらくすると、この機種で淹れたコーヒーのおいしさが口コミで広がり、指名買いされる商品に成長したのです」と顔をほころばせる。

「全自動コーヒーメーカー」を説明する野水社長
「全自動コーヒーメーカー」を説明する野水社長

要求精度0.01mmのFPSCを実用化

一方、家電製品事業と並んで期待されているのが、独自の技術を誇るFPSC冷凍機だ。

熱効率が高いスターリングエンジンを応用したFPSC冷凍機は、「極低温でも1℃単位の精密な制御が可能」「小型で可搬性に優れる」「冷媒がヘリウムガスで環境にやさしい」といった特徴がある。その一方で、核となる金属製のシリンダーとピストンの隙間はわずか0.01mmと、「自動車用エンジンの10倍も厳しい」という加工精度が求められ、実用化は困難とされていた。

燕三条の加工技術があってこそ

しかし、ツインバードは「これからのメーカーはオンリーワン、ナンバーワンの技術を持たなくてはいけない」と、1998年に専門の部署を立ち上げ、2002年に量産化技術の開発に成功した。その背景には、高い金属加工技術を誇る燕三条地域の部品メーカーとの協業もあったという。

ツインバード本社で展示されているFPSC冷凍機の主要部分。作動から数分で温度計はマイナス105℃を示した
ツインバード本社で展示されているFPSC冷凍機の主要部分。作動から数分で温度計はマイナス105℃を示した

新型コロナのワクチン運搬庫に

FPSC冷凍機は2013年に国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の実験用設備に採用され、近年は医療用途でも注目されている。新型コロナウイルスが猛威をふるった2020年には、厚生労働省から極低温での管理が求められるワクチンの運搬庫開発を依頼された。人命に関わる製品を手掛けるのは初めてだったといい、野水社長は「非常に大きなプレッシャーを感じましたが、なかなか日の目を浴びることがなかったFPSCが全国の皆さまのお役に立つのであれば」と引き受けた心境を振り返る。納期もわずか4か月と厳しかったが、工場の倉庫部分を急きょ製造ラインに改修するなどして対応。最終的に1万2000台の運搬庫を納品した。

同様のワクチン運搬庫は、外務省と国際協力機構(JICA)が、モザンビークなど途上国でのワクチン運搬を支援する「ラスト・ワン・マイル」活動でも活用されている。悪路が多い途上国では、「車のシガーソケットで電源を確保できる」「揺れに強い」といった長所も際立つという。

ツインバードのワクチン運搬庫は、東ティモールでも活用された(写真提供:JICA)
ツインバードのワクチン運搬庫は、東ティモールでも活用された(写真提供:JICA)

国内外でのこうした実績が評価され、同社のFPSC冷凍庫はワクチンを適切な温度で保管する冷凍庫としては日本で初めて、WHOが定める医療機材品質認証を2024年10月に取得した。

WHOの医療機材品質認証を取得した冷凍庫
WHOの医療機材品質認証を取得した冷凍庫

従業員300人「 バリューチェーンを強固に」

ツインバードの従業員数は約300人。規模が大きい他メーカーと同じ土俵に立つために、野水社長は「企画・開発からアフターサービスまで、付加価値を創造するバリューチェーンを強固にすることを心がけています」と話す。全社員のおよそ4分の1を企画・開発部門に配置。生産ラインは機動的な体制をとっており、例えば少人数の作業者が組み立て工程を担当する「セル生産方式」を一部で導入するなど、生産数の変動への対応力を高めている。また、燕三条地域の企業に生産の一部委託もしている。地元との協業は、品質向上や製造の国内移管で為替変動リスクを回避する点でも有効だ。かつて10%に満たなかった国内製造比率は、2026年2月期で50%程度まで引き上げる計画だという。

セル生産方式を採用したツインバードの生産ライン
セル生産方式を採用したツインバードの生産ライン

創業70周年を機にリブランディング宣言

創業70周年を迎えた2021年、ツインバードはリブランディングを宣言した。ロゴマークを刷新し顧客との新たな約束「心にささるものだけを。」を策定したほか、主力の家電製品事業で二つのブランドライン「匠プレミアム」「感動シンプル」を立ち上げた。前者は匠の技を再現し家庭でも堪能できるようにする家電、後者は日々の生活の「不」を解消してジャストフィットするベーシックな家電という位置づけだ。

野水社長は2011年の社長就任以来、デジタル化や人口減少による市場の縮小などを危惧し「過去の延長線上に未来はない」と考えていた。消費者の購買理由がモノの所有から体験重視にシフトする中、自社製品を指名買いしてくれるファンを増やすには、ブランド力を高めると同時に、本質的な豊かさを提供する「ライフスタイルメーカー」に変革する必要があったという。

リブランディングについて語る野水社長
リブランディングについて語る野水社長

FPSC事業では今後、ワクチン運搬庫の国内外での実績をもとに、医薬・バイオ分野におけるグローバルコールドチェーンへの事業展開を加速させる構えだ。SDGsで掲げられている17の目標のうちの一つ「すべての人に健康と福祉を」の達成にも貢献するという。

ツインバードは「一対の鳥」。この社名には、顧客とともに歩み続ける姿勢が込められている。野水社長はこう語る。「燕三条地域が誇るものづくりの技術や経営資源を生かしながら、共創の精神を忘れずに、優れた製品を世界にお届けしていくのがツインバードの使命です」

【企業情報】
▽公式サイト=https://www.twinbird.jp/ ▽代表者=野水重明社長 ▽社員数=287人(2025年2月現在) ▽資本金=1億円 ▽創業=1951年

元記事へのリンクはこちら

METI Journal オンライン
METI Journal オンライン