福島県福島市発 形骸化したカイゼン活動をDXで劇的改善 いいねボタンが社内を変えた

(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年8月10日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

現場が主体となって効率化に向けて知恵を出し合う「カイゼン」は、日本のモノ作りの強みで、日常業務の小さなカイゼンの積み重ねがわが国の製造業を強くしてきた。一方、それが形骸化している現場も多い。福島市を拠点とするプラスチック製品メーカー「ムネカタ株式会社」は、そんなカイゼン活動をDXにより変革し、高い評価を得ている。主導した宗形俊代表取締役はこの変革を「DXというより、ヒューマン・トランスフォーメーション」と話し、実際に生産性の向上にとどまらず、社員の自主性をも育てるという成果をあげている。DXがどうやって社員の意識改革につながるのか。秘密は理論に裏打ちされた工夫だ。

カイゼン改革で受賞した経済産業省東北経済産業局TOUHOKU DX大賞の賞状とトロフィーを手にする宗形俊代表取締役(福島市の本社で)
カイゼン改革で受賞した経済産業省東北経済産業局TOUHOKU DX大賞の賞状とトロフィーを手にする宗形俊代表取締役(福島市の本社で)

カイゼンの「やらされ感」、大量事例の死蔵化…

ムネカタ株式会社は、四つの会社からなるムネカタグループの中核企業で、自動車用の樹脂部品を中心にプラスチック部品製造を手がける。強みは「総合力」。金型設計・製造、プラスチック成形・加工、組み立てまで一貫体制で展開し、それぞれのプロセスで一流技術を誇る。とりわけ研究・開発はムネカタの特徴で、金属のような導電性を持つプラスチックの開発を手がけるほか、接着剤を使わずプラスチックを溶着する技術は、国内外の多くの自動車や浴室のリモコンなどに使われている。ほかにも、社の理念「プラスチックを、科学する。」を体現した新技術は数多く、建設現場や我々の身近なところで実用化されている。

1959年、宗形代表の祖父が宗形電器工業有限会社として大阪府守口市で創業した。松下電器産業株式会社(当時)の土地を借りて、ラジオの組み立てを受注していたのが始まりだ。1967年に創業者の古里でもある福島に拠点を移し、プラスチック製品の川上から川下までを手掛けられる体制を整えていった。現在グループは4本社体制。プラスチック溶着技術に特化した設備メーカーなどを傘下に抱え、海外ではタイに販売拠点を持つ。工場は福島市のほか、岐阜、大阪にあり、グループ全体の売上高は89億円。宗形代表は最高経営責任者としてグループを束ねる。東京でIT系の会社に勤めた後、2018年に福島に戻り、この会社に入った。ムネカタの代表取締役となったのは2026年6月だ。

入社当初は取締役として経営企画に携わっていたが、その頃から職場のカイゼンのやり方に疑問を持っていた。会社は毎月、各部署からカイゼン事例を募集していたが、「やらされ感」で続けられており、社員に提出を促すためにノルマを設定する部署もあった。カイゼン事例はエクセルファイルに書き込まれて職場の代表者からなる「カイゼン部会」にメールで送られていたのだが、部会の仕事の実態は大量のファイルとの格闘だった。「本来なら、良い事例をここから全社に共有すべきなのに、忙殺され、せっかくの素晴らしい事例も、『死蔵化』していた」と振り返る。

従来のカイゼン活動に見られた課題(ムネカタの資料より)
従来のカイゼン活動に見られた課題(ムネカタの資料より)

一連の流れをデジタル化 事例の閲覧を誰でも

変革は2021年度、コロナ禍を契機に始まった。「生産が減り、生産工数が浮いたのもあったが、この先を考え、変化への対応力が必要だとも考えた」と宗形代表。雇用調整助成金を利用してコンサルタント会社から講師を招き、社内で研修会を開いた。また、自ら先進企業を回って視察し、どこもカイゼンで苦労している実情を知った。

模索の末の結論がGoogle Workspace(GWS)の利用だ。ムネカタに以前から導入されていた業務用ツールで、その機能を利用して、アナログだったカイゼンの流れのデジタル化を図った。2023年度に本格運用となった新システムでは、現場のカイゼン事例はGWSのフォームに入力され、上司が承認すれば自動でデータベース化されるので、いつでも誰でも閲覧できる。投稿内容はAIで要約されて社員に通知され、必要な情報だけ選択参照が可能だ。「今までカイゼン活動はその人と身近な人しか知らない試みだった。社内全体で見られるようになった影響は大きい」と宗形代表。福島工場のカイゼン事例を大阪工場の職場が取り入れたり、近い仕事をしている別職場の社員同士が連絡を取り合ったりと、前向きな動きが各所で見られるようになった。

これまでカイゼン部会が行ってきた集計や従業員への報奨を決める作業は、RPA(Robotic Process Automation)ツールを連携させ、すべて自動化した。報奨手続きの自動化は、内容に応じた等級付けをやめることで可能にした。「情報提供料として一律500円といったやり方にした。特にすぐれた内容であれば、年間表彰という形で表彰している。省力化によりカイゼン部会は継続的に仕組みを進化させることに目を向けられるようになった」という。

ムネカタ株式会社のカイゼン部会。右端が宗形代表(福島市の本社で)
ムネカタ株式会社のカイゼン部会。右端が宗形代表(福島市の本社で)

職場内外から「いいね!」 意欲も関係性もアップ

この改革で、ムネカタが特に自信を持って強調するのが「称賛の仕組み」、つまり、社員の投稿に対して、他の社員が「いいね!」ボタンでフィードバックする仕組みだ。単純そうに見えて、これが実に重要な役割を果たしている。自分のカイゼン事例が、同僚や上司、さらには知らない他の職場の多くの社員から称賛されたら、例えば、他部署の部長が別部門のカイゼン事例にポチっと「いいね!」ボタンを押そうものなら、投稿した社員のモチベーションは上がる。この仕組みは、内発的動機を刺激するという米国の心理学者が提唱した「自己決定理論」に基づいているという。

プラスチック製品を作るための金型を削り出す工程(ムネカタ株式会社の工場で)
プラスチック製品を作るための金型を削り出す工程(ムネカタ株式会社の工場で)

「いいね!」の数は年間表彰のポイントに加算され、そのことも社員のやる気につながっているが、宗形代表はより大きな効果を感じる。カイゼン事例をテーマに無縁の社員同士の会話が生まれ、社内の空気が変わってきたことだ。「金型製造現場の提案などは専門的すぎて私にもピンと来ないが、現場の人が『いいね!』を付けていると、いい提案だとわかる。社員の特長や能力把握にもつながっている」と手応えを語る。

コスト減以上に、主体性と「暗黙知」継承を評価

新システムを始めたばかりの2024年度と比べると、2025年度のカイゼンによる時間削減効果は倍近くに高まった。コスト削減幅も4割ほど増えた。だが、重点はあくまで人だ。

好循環を維持するため、気をつけていることがある。一つは、結果だけを求めないということだ。部下の提案を審査する上司に対しては、アイデアと課題感、挑戦へのプロセスを評価して褒めるよう求めている。結果ばかりを見ていると、上司の顔色をうかがって部下が提案しにくくなる。「主体的に変化を起こすことへの心理的安全性を確保してあげることが重要」と宗形代表。もう一つは、中小メーカーの命とも言える職人の経験や勘を社内の知恵として蓄積する試みだ。「暗黙知」を皆が共有できる「形式知」に変換するという経営学の手法で、実際は簡単ではない。宗形代表は「大事なのは着眼点や着想。職人がどういう視点でものを見て、どういう考えからそこに至ったのかを、文字に起こしてもらうようにしている。若い人が学ぶきっかけになれば」と話す。

「プラスチックで世の中を盛り上げ、社会の課題を解決していきたい」と話す宗形代表
「プラスチックで世の中を盛り上げ、社会の課題を解決していきたい」と話す宗形代表

プラスチック業界は、2026年2月からの中東情勢悪化の影響をもろに受けている。原材料の値上がりはもちろん、中東向けの自動車の輸出が減ったことも、部品の生産低下に直結する。しかし、社内に暗い雰囲気はない。今、会社として注目しているのはAIだ。その技能を身につけ、現場に取り入れたいと自発的に考える社員が現れてきた。雑事から解放されたカイゼン部会では、まさに今、各部署にAIリーダーを作り、その人を中心にAI活用を広げていけないかと、可能性を検討している。「カイゼンを改革したのも、コロナ禍のつらいタイミングだった。今こそ、何をやるべきかを考える時」と宗形代表。苦境をただやり過ごすのではなく、むしろ未来への議論をする好機とポジティブにとらえている。

【企業情報】
▽公式サイト=https://www.munekata.co.jp/ ▽代表取締役=宗形俊(グループ最高経営責任者) ▽従業員数=445名(グループ全体 2026年3月時点) ▽資本金=1億円 ▽事業内容=プラスチック用精密金型、超精密金型、プラスチックの成形加工品、超精密成形品、塗装、機能性複合樹脂開発及び市場供給 ▽創業=1959年(昭和34年)

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