水素社会への現実解 水素混焼小型貫流ボイラが実現する安定運転と都市インフラの脱炭素

(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2026年7月7日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

第10回ものづくり日本大賞 特集

ものづくり日本大賞とは-

ものづくり日本大賞」は、我が国の産業・文化の発展を支えてきたものづくりを次代へ継承し、さらに発展させていくことを目的に、ものづくりの第一線で活躍する優れた人材やグループを顕彰する内閣総理大臣表彰です。製造・生産現場の中核を担う人材、伝統的・文化的な技を支える熟練人材、今後を担う若年人材など、ものづくりに携わる各世代の中から、特に優秀と認められる取組が表彰されます。

本特集では、第10回ものづくり日本大賞で近畿経済産業局長賞を受賞したメンバーにお話を伺いながら、取組の背景や開発の歩み、ものづくり日本大賞受賞後の展開について紹介します。

本日は、第10回ものづくり日本大賞において、水素混焼小型貫流ボイラの開発により近畿経済産業局長賞を受賞したメンバーを代表して、株式会社ヒラカワ 技術本部 技術部 計画設計グループ 担当課長 鈴木卓哉さん、品質保証部部長 島倉聖さんにお話を伺いました。

受賞概要

案件名:水素社会の実現を後押しする水素混焼小型ボイラの開発
受賞者:
株式会社ヒラカワ 鈴木卓哉さん、島倉聖さん、野村浩之さん、
芦田裕俊さん、上梨厚見さん
関西大学 松本亮介さん、小田豊さん

小型貫流ボイラで水素を使おう!

同社が水素を燃料とするボイラ開発に着手したのは、2016年頃。過去に大型の水素燃焼ボイラを納入した実績を背景に、小型貫流ボイラでも水素を活用できないか検討が始まりました。

島倉さんは当時の様子を以下のようにお話になりました。

「水素は、当社としても比較的取り組みやすいエネルギーとして捉えていました。以前に大型の水素燃焼ボイラを納入した実績もあり、当時普及し始めていた小型貫流ボイラでも水素を使えるのではないか、というところから開発が始まりました。」

株式会社ヒラカワ 島倉さん
株式会社ヒラカワ 島倉さん

開発過程では滋賀県支援プラザの勧めもあり、「戦略的基盤技術高度化支援事業(通称:サポイン)」を活用し、かねてからの関わりの深い関西大学の研究室とも連携して取り組むこととなりました。

水素社会への過渡期を見つめる

ただ、現在でもなお、水素社会への過渡期といえる状況。その状況を受けて、鈴木さんは次のようにお話になります。

「水素だけで動く設備は理想的ですが、供給が不安定な段階では、導入する側にとって不安もあります。水素がない時でも都市ガスで運転できることが、実際の現場で使っていただくためには重要でした。」

供給が不安定な水素。今日ボイラを動かす分はあっても、明日はどうなるか分からない――そうした状況では、「水素専焼」には不安要素が残ります。そこで生まれた現実的な解が、「水素」と「都市ガス」の混焼を可能にした水素混焼小型貫流ボイラでした。

産学官連携で積み上げた開発力

では、その『解』を形にした開発力は、どのように培われたのでしょうか。先に挙げたように、同社では、サポインを活用するなどして、産学官連携を通じてボイラの開発に取り組んできました。本製品開発においても、その蓄積を基盤とし、関西大学や、滋賀県工業技術センターなどとこれまでの関係性を活かしながら、燃焼の安定性や安全性、材料への影響に加え、水素利用時の低NOx燃焼の実現といった新たな課題にも対応していきました。

特に関西大学は、今回の第10回ものづくり日本大賞の受賞メンバーの一員として、理論面や解析面から開発を支援しています。それぞれの役割について、島倉さんは次のようにお話になりました。

「実際に燃やして確認する試験や理論面では松本先生(関西大学)に、数値シミュレーションや解析の面では小田先生(関西大学)に支えていただきました。金属への影響評価などでは、滋賀県工業技術センターにも協力いただいています。」

このように、企業の現場知と大学の専門知の融合、さらには、公設試験研究機関による材料評価支援を受け、技術検証の場が大きく広がりました。企業単独では対応が難しい課題にも取り組み、製品化に至る道筋を確立させたのです。

実証から社会実装へ

さて、同ボイラは、地域冷暖房設備で活用が進められています。

都市の多数の建物に熱を供給する地域冷暖房に導入されることは、この技術が研究開発の段階を越え、実際の都市インフラの中で使われ始めていることを示しています。その様子を、鈴木さんは次のようにお話になりました。

「お話をいただくのは、まず地方自治体さんや地域冷暖房の関係者が多いです。CO2を減らすために何かできないか、というところから、水素をどう使っていくかという実証が進められています。東京都の関連施設では、水素が十分にない中で、いかに水素を使えるのかを含めて実証が進められています。水素がある時は都市ガスに水素を足して燃やし、水素がない時は都市ガスだけで動かせるという形です。」

水素社会の実現に向けては、燃料供給の安定性やコスト、保管・運搬方法、利用設備の整備など、なお多くの課題が残されています。だからこそ、供給インフラの整備を待つだけでなく、導入先の状況に応じて無理なく使い始められる選択肢を示せることが、水素混焼小型貫流ボイラの大きな強みといえます。同ボイラがユーザーからどのような評価を受けているのかについて、鈴木さんは次のようにお話しになりました。

「評価いただいている一番の理由は、水素がなくても使えるところだと思います。水素を貯めておく場所や運搬にも課題がある中で、都市ガスでも動かせることは、現場にとって大きいのだと思います。また、低NOxであることも大きな特徴です。都市部にも導入しやすいという点は、評価いただいているポイントの一つだと考えています。」

株式会社ヒラカワ 鈴木さん
株式会社ヒラカワ 鈴木さん

「水素が十分に供給される環境では水素を活用し、供給が限られる場面では都市ガスで安定運転を続けられる」。この柔軟性は、導入先にとって大きな安心材料となります。加えて、低NOx性能を備えていることは、都市部の地域冷暖房設備など、環境面への配慮が求められる場所での導入可能性を広げています。

ものづくり日本大賞の応募に至った経緯、受賞の喜び

ものづくり日本大賞への応募のきっかけは滋賀県産業支援プラザからの案内や社長からの後押し。それらを受けて、これまでの開発成果を応募することとなりました。

受賞後は、会長・社長を含め社内でも大きな喜びとして受け止められました。長年培ってきた燃焼技術と、新たなエネルギー利用への挑戦が社外からも認められたことは、同社にとって大きな励みとなっています。

「会長も社長も大変喜んでいました。全国から多くの応募がある中で選ばれたことは、会社として非常に名誉なことだと話していました。」

第10回「ものづくり日本大賞」近畿ブロック表彰式の様子
第10回「ものづくり日本大賞」近畿ブロック表彰式の様子

ヒラカワのこれから

実際に製品を見せていただくと、内部には多くの管が巡らされ、それぞれが燃料や水、蒸気の流れを担いながら、ボイラ全体の機能を支えていることが分かりました。一見すると複雑に見える構造の中にも、一つひとつの部品に役割があり、それらが精密に連動することで、水素混焼ボイラとしての安定した運転が実現されているのだと感じました。

水素混焼小型貫流ボイラと鈴木さん
水素混焼小型貫流ボイラと鈴木さん

ヒラカワは、これまで培ってきた燃焼制御や熱利用の知見を生かし、産業分野や都市インフラで求められる熱供給のあり方に向き合っています。現場ごとの条件に応じた技術提案を重ねることで、水素利用を特別な実証にとどめず、日常の設備として社会に根付かせていくことが期待されます。

同社は、熱を通じて100年以上にわたり産業と暮らしを支えてきました。

その歩みを支えてきた鈴木さん、島倉さん、受賞メンバーの皆さん、そして同社の挑戦は、次の時代の熱供給を見据えたものです。

今後も現場に寄り添うものづくりの姿勢を大切にしながら、水素利用の可能性を広げ、次の時代の熱供給を支える技術として発展していくことが期待されます。

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近畿経済産業局 公式note
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