フジクリーン 業務支援アプリ「MINTO」で美しい水を守る
浄化槽メーカーのフジクリーンが開発した業務支援アプリ「MINTO(ミント)」のテスト運用が始まった。新興企業の台頭や国内市場の縮小といった環境変化への対応が迫られる一方で、業界内ではデジタル化の遅れや人材難など課題が山積。アプリを通してフジクリーンが実現したい未来図とは──。

写真左から、矢口里菜/事業開発部、松本直樹/事業開発部 課長、市川琢海/営業部 次長、濵裕次郎/事業開発部 主幹、関口貴大/事業開発部 主幹(FC事業開発プロジェクト研究 修了生)
事業環境の変化に対応すべく
社員自ら研究員となることを選択
1961年に富士コンクリート工業として創業し、現在は浄化槽や産業廃水処理ユニットで国内トップクラスのシェアを誇る浄化槽メーカーのパイオニア企業、フジクリーン。個別分散排水処理装置の製造・販売という水インフラ事業の性格上、外部環境の変化は比較的緩やかだったが、事業開発部の主幹である関口貴大氏は「デジタル技術の進歩、将来の競合となり得るスタートアップの台頭、国内の人口減少による市場縮小、海外展開先での新たな競合他社との対峙など、明らかに環境変化が激しくなってきた」と話す。
組織面でも、「当社は決められたことを着実にやり遂げることに長けている一方で、従来のやり方を思い切って変えることは得意ではないという結果が、組織サーベイで示されていた。今後の環境変化に柔軟に対応するために、よりチャレンジする組織風土に変わる必要がある」という課題感もあり、2023年7月に事業構想大学院大学(MPD)との連携プロジェクトを始動。新規事業を専門とするコンサルタントに相談する選択肢もあったが、フジクリーンでは社員10名が研究員となって、2024年3月まで全24回のセッションを重ねながら挑戦する道を選んだ。
FC事業開発プロジェクト研究のメンバー
「コンサルタントに頼めば新規事業案を提案してくれると思いますが、それでは当社にノウハウが蓄積されないと考えました。社員が自律的に考えるための場を提供し、事業構想づくりに伴走してくれるパートナーとして、MPDは最適な選択肢でした」(関口氏)
多様な社会課題を起点に
3チームで事業構想に挑戦
MPDのプロジェクト研究では実務経験豊富な教員が講師となる。今回は主担当に井手隆司教授が、副担当に柳田佳彦特任教授が着任。フジクリーン社員10名が「維持管理」「創水」「産廃」という3つのチームに分かれ、それぞれのテーマに沿って具体的な構想を練る形式とした。
維持管理チームのリーダーを務めた松本直樹氏は「浄化槽が持つ優れた特長や社会的な価値を、より多くの方に正しく知っていただきたいと考えました。また、維持管理の現場では、人材不足や技術継承などさまざまな課題があります。そこで、業界の関係者がそれぞれの知見や技術を持ち寄り、現場の負担軽減や維持管理の品質向上につながる仕組みについて議論しました」。
創水チームでは「浄化槽は重要な水インフラの一翼を担っているにもかかわらず、国内では水が貴重という認識があまりない」という課題に着目。リーダーの濵裕次郎氏は「創水を再定義する」という発想の転換で議論を前進させた。そして、産廃チームでは、食品加工工場や医療関連施設など、産業系の廃水処理分野で磨いた技術を他分野でも活用できないかと検討を重ねました。
8カ月間に及んだプロジェクト研究を振り返り、市川琢海氏は「実は当初、外部の手を借りず、社内で頑張れば良いのにと思っていた」と打ち明ける。
「講義に参加してその考えが一変しました。井手教授は『プロダクトアウトではなく、社会課題や業界全体の課題を解決するという発想を持たなければならない』とおっしゃいました。私の中では、これまでのやり方や前提の中で解決策を考える意識が強かったのですが、『課題の背景にある声に耳を傾け、既存の枠組みにとらわれず、本当に必要な解決策を考えることが大切だ』と、教授が実体験に基づいて話してくださったことが印象に残っています」
社内で議論を重ね事業化へ
課題解決に資するアプリとは
各チームが練り上げた新規事業構想について役員会でプレゼンテーションを行った結果、維持管理チームの構想が多くの賛同を得た。ただし、事業化を検討する前に実現性や推進体制などをさらに具体化する必要があるとの指摘を受け、構想の意義や解決を目指す業界課題、事業化に向けた進め方を改めて整理。社内で議論を重ねた結果、事業化に向けたプロジェクトの発足が正式に承認された。関口氏は「役員会での意見を踏まえて課題等を整理するとともに、社内関係者と議論を重ねる中で、事業としての方向性を共有できました」と語る。
こうして生まれたのが、浄化槽の保守点検・清掃などのメンテナンスを担う業者向けに開発した業務支援アプリ「MINTO(ミント)」だ。
業務支援アプリ「MINTO」のロゴ
「全国に約700万基ある浄化槽は、単独処理浄化槽から、生活排水全体を処理できる合併処理浄化槽への転換が進んでいますが、単独処理浄化槽よりも構造が複雑で維持管理に時間がかかる上に、人手は年々減少。将来的に1人当たりの作業負担が1.3倍、1.4倍になるとの予測もあり、それを業界全体の課題として捉えたことが構想の起点となりました」(濵氏)
構想を具現化する手段としてアプリを選んだのは、現場の点検記録がいまだ紙で管理されているためだ。センサーで読み取った数値も紙に転記されるため、蓄積データの分析は不可能に近い。人材難を含む諸課題の解決に取り組むために、まずは紙の点検記録をスマートフォンやタブレットでデジタル化することが必要だったのだ。将来機能としては、契約者への通知機能、点検中に破損部品をその場で注文できるオンラインストア連携、新人向けの教育ツールなどを想定している。
現在はMVP(最小限の機能を持つ製品)の段階で、浄化槽の維持管理業者等に試験的に提供し、実際に運用してもらいながらブラッシュアップを図る方針だ。UX改善に取り組んでいる矢口里菜氏は「これまでは営業職で、業界全体の課題について考える機会があまりありませんでした。初めてのアプリ開発に難しさを感じつつ、スケールの大きい仕事に携われて手ごたえを感じている」という。
使いやすさにこだわった操作画面
「進化したMINTOが普及することで、全国の浄化槽の管理が行き届き、きれいな水を保つことができるでしょう。逆に言えば、MINTOがなれければ、当社が掲げる『浄化槽で美しい水を守る』ことを達成できないという危機感さえ抱いています。いつまでも美しい水を守れるように、本事業に取り組んでまいります」(濵氏)