食品分野の計量技術を医療へ 排尿計測記録システムが看護の負担軽減と患者安全を実現
(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2026年7月6日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

ものづくり日本大賞とは──
「ものづくり日本大賞」は、我が国の産業・文化の発展を支えてきたものづくりを次代へ継承し、さらに発展させていくことを目的に、ものづくりの第一線で活躍する優れた人材やグループを顕彰する内閣総理大臣表彰です。製造・生産現場の中核を担う人材、伝統的・文化的な技を支える熟練人材、今後を担う若年人材など、ものづくりに携わる各世代の中から、特に優秀と認められる取組が表彰されます。
本特集では、第10回ものづくり日本大賞で優秀賞を受賞したメンバーにお話を伺いながら、取組の背景や開発の歩み、ものづくり日本大賞を受賞してからの今後の展開について紹介します。
今回は、第10回ものづくり日本大賞において、食品分野で培った計量技術を活用し、医療現場の人手不足に寄与する「排尿計測記録システム」の開発により優秀賞を受賞したメンバー、イシダメディカル株式会社 代表取締役 國﨑嘉人さん、同社 取締役 最高責任執行者 中谷 誠さんにお話を伺いました。
受賞概要
案件名:食品分野で培った計量技術を活用し、医療現場の人手不足に寄与する 「排尿計測記録システム」の開発
受賞者:イシダメディカル株式会社 中谷 誠さん、國﨑 嘉人さん・ISHIDA MEDICAL LLC 平井 健二さん
イシダメディカル株式会社は、計量・包装技術を強みとするイシダグループを母体に、医療・介護・調剤向け機器や関連ソリューションを手がける企業です。「正確に測る」技術を生かし、医療現場の省力化や業務改善に取り組んでいます。
「ハカリのイシダ」が「イシダメディカル」として医療分野に踏み出したきっかけ
今回の受賞案件である「排尿計測記録システム」は、ウロバッグ(尿バッグ)内の排尿量を自動計測し、記録・共有する仕組みです。看護師が目視で確認し、転記してきた業務を、より正確かつ効率的に支えます。
では、なぜ、「ハカリのイシダ」が関連会社となる「イシダメディカル」を創設し医療分野に踏み出したのか、そのきっかけと同製品開発までの道のりについて、お聞きしました。
医療分野への進出・そして同製品開発の根底には、イシダの石田社長、そして、國﨑社長ご自身の、「イシダグループの技術を食品分野にとどめず、医療現場にも役立てたい」という強い思いがありました。
「イシダ本社社長は、医療従事者へのリスペクトの気持ちが強く、その気持ちに私自身も共感しました。メディカル分野に進出することは、イシダグループの技術を食品分野にとどめず、医療現場にも役立てたい、という強い思いに起因していました。」
看護の手で支えてきた、見えづらい業務負担
同製品の開発までに、同社は診察環境を整えるアプリなど医療業務を改善するソリューション提供をしてきました。そのような取組の一方で、國﨑社長は、イシダメディカル立ち上げ当初、知り合いの医師から勧めで見学した医療現場の様子が強く印象に残ったと次のようにお話になりました。」
「手術中、看護師さんが15分に1回、30分に1回、尿バッグを見て、何時何分、何ミリリットルと記録していることを確認しました。また、出血量も手作業で計測しておられる。ものすごく大切でありながらもアナログな作業が、今も医療現場に残っているんです。」
イシダメディカルの開発は、こうした医療現場で「当たり前」とされてきた作業を見つめ直すところから始まりました。國﨑社長の経験が、同社が医療分野で果たす役割を具体化し、今回の受賞案件に取り組むきっかけになったのです。
食品分野の計量技術を、医療現場へ
イシダグループは、食品分野で重さや量を正確に測り、記録・管理する技術を培ってきました。高速計量や組み合わせ算出の技術は、食品の袋詰め工程などで省力化を支えています。
そして、今回の受賞案件「排尿計測記録システム」にはその技術が応用されています。國﨑社長は、食品分野で磨いた技術を医療現場に展開する意義を次のように話されました。
「イシダは、産業それぞれを圧倒的に省力化してきた会社です。食品分野で培ってきた、正確に測り、組み合わせ、安定して記録する技術を、医療事業でも活かしたいと思いました。」
食品分野で積み重ねてきた技術を、単に別分野へ転用するのではなく、医療現場の動きに合わせて組み替えています。先に挙げた「当たり前」を見つめ直す姿勢がここにも窺えます。
「排尿計測記録システム」の強み
今回の受賞案件「排尿計測記録システム」について、更に、その強みについて掘り下げてみます。
この製品の特長のひとつは「尿バッグに溜まったまま尿量を計測できること」です。尿を捨てたり移し替えたりする作業を減らし、必要なデータを正確かつ効率的に取得できます。
具体的には、血尿測定機能や一定量を超えた場合の通知なども備え、得られた情報を時系列で記録できます。医師や看護師の判断材料となり、観察の質の向上にもつながります。
さらに、排尿量をリアルタイムで把握し、記録・共有できることで、確認・記録・申し送りの一連の流れがスムーズにつながり、看護業務の抜け漏れ防止や情報共有の迅速化に役立ちます。
國﨑社長は次のようにお話しになりました。
「本来は、人の手で得られるデータよりもっと細やかなデータが望まれる場面があります。自動で時系列のデータが残ることには、現場で大きな意味があります。」
さらに、医療従事者だけでなく患者にも尿路感染リスクの低減のメリットがあります。
「尿量を測るためにバッグを開けると、液体が出る代わりに空気が入ります。そこから菌が入って尿路感染につながるリスクもある。看護師さんの負担だけでなく、患者さんにとってのリスクも減らしたいという思いがありました。」
医療現場にいる、医療従事者、患者、双方にとってメリットあるソリューションを提供しています。
早期から米国市場を見据えた事業展開
同社の技術は、すでに海を越えて米国で導入をされています。
同社は設立初期から米国市場を見据えてきました。米国では看護師人件費が高く、省力化への投資が受け入れられやすい環境があること、また外科手術件数が多いことなどが背景にあります。こうした海外展開を進めるうえで、米国における事業拠点として位置づけているのがISHIDA MEDICAL LLCです。受賞者の一人である平井健二さんも同社に所属しており、開発した技術を米国市場で展開していく体制づくりが進められています。
「普通は日本である程度事業を確立してから海外へ、という流れだと思います。でも私たちは、会社を設立して間もない段階で米国市場を見据えました。一番ニーズがあるところで事業化した方がよいと考えたからです。」
製造面では、台湾企業との連携により、試作・改良を重ねやすい体制を構築しました。製造・改良・販売・品質対応を一体で進める点も特徴です。
「こういう事業では、どことパートナーを組んで一緒に進めるかという座組がとても大事です。製造する側、販売する側、品質に責任を持つ側の利害が一致しているからこそ、改良や品質対応にも一体で取り組めます。」
國﨑社長の言葉からは、製品そのものの開発に加え、販売から品質対応までを見据えた事業づくりの重要性が伝わります。技術を現場に届け続けるための体制づくりも、同社の挑戦の一部だったのです。
受賞が示す、医療現場に根ざした技術の可能性
第10回ものづくり日本大賞での優秀賞受賞は、同社にとって、医療現場に根ざした技術をさらに事業として育てていく決意を新たにする機会となりました。
國﨑社長は、受賞を受けて次のように決意を新たにされていました。
「受賞した以上、これをきちんと事業化し、もっと大きくしていかなければならないというプレッシャーがあります。医療現場のDX、省力化、海外展開、そしてイシダの既存技術とのつながりが一つのストーリーとして評価されたことは、本当にありがたいことです。」
その言葉には、受賞を一つの到達点ではなく、医療現場に根ざした技術をさらに広げていくための通過点として受け止める思いがにじみます。看護師が担ってきた見えづらい業務を、技術によって支えます。イシダメディカルの挑戦は、医療現場の省力化に加え、患者の安全や医療DXの推進に向けた、ものづくりの新たな可能性を示しています。
元記事へのリンクはこちら。
- 近畿経済産業局 公式note