神戸の日本再生医療学会総会で共催シンポジウムを開催
再生医療で描く日本の未来研究会・日本再生医療学会共催シンポジウムが3月20日、第25回日本再生医療学会総会のプログラムとして神戸国際展示場で開催された。2025年度の研究会の議論をさらに深め、再生医療のイノベーションの加速と社会実装に向けた課題、方策を話し合った。

(前列左から)田中里沙 事業構想大学院大学 学長、西田幸二 日本再生医療学会 理事長、古川俊治 参議院議員、野村由美子 厚生労働省 医薬局 医療機器審査管理課 課長、(後列左から)後藤励 慶應義塾大学院 教授、畠賢一郎 再生医療イノベーションフォーラム 代表理事会長、西田幸二 日本再生医療学会 理事長、藤原康弘 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 理事長、志鷹義嗣 RealizeEdge Partners 代表取締役社長、佐藤陽治 国立医薬品食品衛生研究所 副所長
事業構想大学院大学の「再生医療で描く日本の未来研究会」は、国内で再生医療の産業化が進み、世界市場で競争力を持つ輸出産業へと発展した未来の姿を構想する。2040年頃には、再生医療が一般的な治療となり患者の多様なニーズに対応できる社会が実現していると想定。そこからバックキャストし、再生医療を患者に届けるためのボトルネックをいかに解消し、成長産業とするかを、2023年度から3年間にわたって政産官学のメンバーで議論してきた。
2026年3月の第25回日本再生医療学会総会に合わせて実施した今回のシンポジウムでは、2025年度の議論を踏まえ、再生医療を取り巻く課題と方向性に関する講演とパネルディスカッションを行った。
これまで3年にわたり研究会を実施
2025年度も提言をまとめる
研究会を主催する事業構想大学院大学学長の田中里沙氏は、シンポジウム冒頭でこれまでの研究会の活動を紹介した。
「再生医療をはじめとする最先端医療分野は、新しい領域であるがゆえに、安全性や有効性の検証に長い時間と多額の費用がかかります。それだけでなく、制度面でもさまざまな課題が指摘をされています。この問題に対し、再生医療の未来を構想し、実現に向けた具体的な議論を行う場が不可欠であると考えました」。
2025年度はそれまでの2年度分の議論をさらに深化させ、次の10年に向けての議論として「イノベーションの加速」「再生医療等製品の臨床評価」「医療保険財政と国民の理解」の3つをテーマとした。そして2026年3月、議論をふまえ「2025年度版提言書」を取りまとめた。提言書では、「研究・産業化の支援」「製造と品質担保」「エビデンス、医療アクセス向上、世界展開」「保険制度、価格制度、価格評価」「人材育成、情報発信」の5つのテーマに沿ってあるべき姿をまとめている。
再生医療の課題があらわに
ハードルを越えるため必要なこと
続いて参議院議員の古川俊治氏が「日本の再生医療〜見えてきた課題と可能性」の演題で講演。これまで国内で進められてきた再生医療を取り巻く環境整備を紹介した。京都大学教授の山中伸弥氏がiPS細胞の作製技術の確立でノーベル賞を受賞して以降、iPS細胞関連研究への資金投入、再生医療等安全確保法などの法整備、事業化に向けた再生医療等製品の条件及び期限付承認の制度化などが実現した。加えて、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による、創薬ベンチャーエコシステム構築に向けた事業化支援など、産業化に向けた取り組みも推進してきた。
古川俊治 参議院議員
一方で、開発途上にある再生医療が抱える課題も古川氏は指摘。細胞移植による人体の機能再建は、がんの細胞遺伝子治療などと比べると、臨床での効果が分かりにくい。臨床効果を測定するためには、少ない被験者数でも効果のエビデンスを取得できる統計学的アプローチが必須とした。そして、「改正個人情報保護法では、公衆衛生目的であれば病院データを患者の同意なしに利用できる見通し。データ収集が容易になるはずです」と見通しを示した。
また、患者由来ではない細胞を治療のため移植する場合は、「日本の戦略として、ゲノム編集をもっと活用することで免疫抑制剤を必要としない方法を模索してもよいのでは」と述べた。さらに、再生医療の事業化に向けた資金を出す主体が不足している課題にも触れた。再生医療の実用化を目指すスタートアップ企業の上場前後を通して資金を提供でき、上場した企業から第三者割当を引き受けられる政府系ファンドの創設を目指すことに対する意欲を見せた。
なお、古川氏はそれぞれの個人が自身の細胞から作製する「myiPS」は自由診療がなじむとする一方、近年美容医療における自由診療で医療事故が相次いでいることに懸念を示した。自由診療の前提として、安全性・有効性のエビデンスを公開することが重要になる。
イノベーションの加速を議論
作用機序の解明がカギに
今回のシンポジウムでは、国立医薬品食品衛生研究所副所長の佐藤陽治氏をファシリテーターに、研究会メンバーによるパネルディスカッションを実施した。討議のテーマは3つ。
まず「イノベーションの加速」が議論の俎上にあがった。慶應義塾大学教授で国際幹細胞学会 理事長の岡野栄之氏は、基礎研究領域で担うMOA(Mode of Action:作用機序)の解明がカギとなると分析する。
岡野栄之 国際幹細胞学会 理事
「移植した細胞がどのように分化し、臨床での効果を発揮しているのかを解明する。そうすれば、病態に合わせてどういう細胞を移植すればよいかが分かり、その結果をふまえてさらに改善につなげられます」と、基礎研究、臨床研究、リバーストランスレーショナルリサーチのサイクルを回していく重要性を強調した。
日本再生医療学会理事長で大阪大学教授の西田幸二氏は「素晴らしい発見であるインベンションが、イノベーションを加速させる前提として必須です。発見を革新につなぐためにも、日本再生医療学会に幹細胞の基礎研究者を取り込んでいきたい」と希望する。
西田幸二 日本再生医療学会 理事長
また、MOAを知的財産と産業化に結び付ける方法として、RealizeEdge Partners 代表取締役社長の志鷹義嗣氏は「効く細胞がどこで出てくるかプロセスがわかれば知財につなげられる。同時に、MOAに紐づくバイオアッセイなどの周辺技術も合わせて特許を固めていく戦略が求められる」と指摘した。さらに、イノベーションを加速させるためのAI、ロボティクスの活用については、「効く細胞には独特の表情がある。オペレーションを自動化し、それをデータ化してセンサで見極めるようにする。これと、MOAに紐づいたアッセイを制御できれば勝ち筋につながっていくのではないか」とデジタル化の重要性を説いた。
志鷹義嗣 RealizeEdge Partners 代表取締役社長、FIRM前代表理事会長
FIRM代表理事会長の畠賢一郎氏は「再生医療のサイエンスというと、細胞を中心としたモダリティベースのサイエンスを思い浮かべがち。だがこれからは、製造、品質管理、輸送・保存安定性といった横串のサイエンスの重要性がより増してくるでしょう」と語った
畠賢一郎 再生医療イノベーションフォーラム(FIRM) 代表理事会長
条件及び期限付承認でまず患者に届ける
開発で際立つレジストリの重要性
2番目のテーマは「再生医療等/再生医療等製品の臨床評価」。規制サイドからは、厚生労働省医薬局医療機器審査管理課課長の野村由美子氏より、討論の前提になる条件及び期限付承認制度の説明があった。
野村由美子 厚生労働省 医薬局 医療機器審査管理課 課長
「多くの細胞集団や細胞遺伝子治療薬の体内での効果は不均一性が高い。この制度は、通常の医薬品のような試験のやり方では開発に時間を要する再生医療等製品のために2014年の法律改正で設けられた制度です」。
制度は2段階になっている。最初の承認時は、安全性は確認するものの有効性は推定の段階。期限、条件を付けてデータの提出を求め、そのデータをもとに再度審査をする体制だ。
収集したデータをもとに有効性を評価する解析手法でも、新しい展開が求められている。規制当局である独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長の藤原康弘氏は「症例数が少ない場合の、有効性の評価に対する我々の考え方を近く示したい。そのうえで、ベイズ流などの生物統計の手法を活用するためにも、比較試験を行う時に使う、治療介入を行わなかった場合の変化(ナチュラルヒストリー)を押さえることが重要になる」と述べた。
藤原康弘 PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構) 理事長
ナチュラルヒストリーを活用するためには、前提としてレジストリ(特定の疾患や健康状態に関するデータベース)が必要になる。そのあるべき姿として、岡野氏は次のように要望した。「日本では米国のように多くの患者でランダム化比較試験を行うのは難しいため、使えるデータを選べるように多数のレジストリデータが必要になる。ナショナルセンターが集めている疾患のレジストリデータをぜひまとめていただきたい」。
慶應義塾大学院教授の後藤励氏は「医療経済の観点からすると、既存の治療に対する追加的な効果と同時に費用も比べる、いわゆる費用対効果の評価を行うため、費用面でもナチュラルヒストリーのデータがあると非常にありがたい」と指摘した。さらに効果そのものについては、より一般的な「生活の質(QOL)」の評価を加えることも必要だという。QOLを評価できるようにするために、心理学、経済学など医学分野以外の専門家も構築に加わった、重厚なデータベースの必要性を語った。
後藤励 慶應義塾大学院 教
さらに、藤原氏は「データベース構築のためにも、大規模疫学研究を継続的に行うことが欠かせない」と強調した。「医療DXに関して、公的データベースの連結解析や二次利用に向けて検討が進められていることは朗報であるが、それだけでは充分でない。医師・看護師による電子カルテへの記載がきちんとデータベースに入るよう、システムに投資してほしい」と注文を付けた。これを受けて古川氏は「2030年をめどに電子カルテ共通化に取り組んでいるが、評価に使えるようにするためにはデータの標準化が必要。医師、看護師の皆さんにはぜひ業務をシステムに合わせるようにお願いしたい」と応じた。
再生医療等製品の価格に関する議論もあった。「どれだけイノベーションを評価できるかがカギを握る。ただ国の保険財政は厳しいので、薬事承認を前提とした自由診療についても考えなければ」と古川氏は話した。畠氏は「再生医療の多様性をふまえ、それに特化した価格制度の設定を産業界としてもお願いしている」と述べた。また、野村氏は個人の意見として、「最終的には、どれだけ患者の状態が改善したかというアウトカム評価が大事ではないか」と述べた。
そして後藤氏は「多様性のある再生医療は、一物一価にはなじみにくい。アウトカムベースで報酬を作るか、アウトカムが測りにくい場合は予算の枠を決め、それ以上は償還できないようにするなど、現在とは異なるタイプの診療報酬制度を作るのが解決策ではないか」と提案した。
患者が研究に参加できる環境が理想
次世代に再生医療研究をつなぐ
3つ目のテーマは「医療保険財政と国民の理解」。西田氏は、日本再生医療学会では市民公開講座やSNSを活用した発信を行っているものの、一方的な情報提供にとどまる現状を明らかにした。「今後は、研究の段階から患者と共創して良い医療を作り上げていくPPI(ペイシェント・アンド・パブリック・インボルブメント)が重要になります」。
これに対し藤原氏は、乳がんの専門医として患者会と深く交流した経験を振り返り、PPIに取り組むことになった原点の出来事に言及。ショックを受けたのは、米国の患者会の人から「米国人患者が体を張って参加した臨床試験のデータを日本は何もせずに持っていくのか」と批判されたことだという。それは日本の患者がドラッグラグで薬が入手できず苦しんでいた時だった。
「再生医療を世界に誇る医療にするには、我々日本人がちゃんとエビデンスを作って、日本の診療・治療を主体的に組み立てていくマインドを持たなければ」と藤原氏は話した。
ディスカッションの最後に、それぞれが考える再生医療の未来を構想し思いを語った。西田氏は「日本再生医療学会では、世界の医療を変えていくビジョンを持った若者を日本から輩出しようと10年前から中学生・高校生のセッションを設けた。若い人を育て未来を託したい」、岡野氏は「3年前から武部貴則さんと、とがった人を集めた新技術に関するセッションを日本再生医療学会で行っているが、その内容を見て、日本から世界に通用する技術を送り出すことができると確信している。小学生が山中伸弥氏を見て、憧れて再生医療に携わる世界を作りたい」とまとめた。
後藤氏は「医療制度はアクセスと質と費用のバランスを取るのがとても難しい世界だが、再生医療がそれを考えていく非常に良い機会になる」と期待する。畠氏は「我が国はイノベーションを起こせる要素をたくさん持っている。基礎研究をもとに、産業界が実用的な発明につなげ社会実装できるエコシステムを作っていきたい」と力を込めた。志鷹氏は「今の再生医療が1周目だとしたら2周目、3周目の勝負がある。そこにつながるよう、学習サイクルを今のうちに築いていきたい」という。
野村氏は「先般、小児心臓移植をテーマにした映画を観た。心臓を受け取る側だけでなく提供する側も葛藤していた。再生医療はそのような患者の医療を担う一端になるし、日本の素晴らしい技術で解決策をどんどん提示していきたい」と話した。藤原氏は「年末のウォールストリートジャーナルで、米ボストンのベンチャーキャピタルの景気が悪化しており、投資が減っているという記事を読んだ。今こそ日本から、日本の再生医療に投資をするチャンスだと思う。ぜひ頑張っていただきたい」と呼びかけた。
古川氏は最後に、「今の日本はデジタル赤字で外貨を吸い取られ、インバウンドで外貨を稼いでいる。つまり先端技術を輸入して労働力を提供する後進国のパターンだ」と現状を指摘。そのうえで「私たちが日本で始まったiPS細胞を使った再生医療を世界に打ち出し、それによって日本から革新を起こしたい。もう一度、成長を遂げる国に生まれ変わっていきたい」と強い思いを語り、シンポジウムを終えた。