よーじやグループ 脱観光依存を掲げ、経営の多角化を目指す

あぶらとり紙で有名な京都の「よーじや」。1904年の創業から2022年で119年目を迎える老舗が、コロナ禍での厳しい状況を経て、今大きな変革期を迎えている。2020年に30歳の若さで家業を継いだ5代目社長の國枝昂氏は、「脱観光依存」を目指し、よーじやの新たなブランドづくりに取り組んでいる。

國枝 昂(よーじやグループ 代表取締役社長)

危機を乗り越える覚悟で社長に

1904年、芸舞妓や歌舞伎役者向けの舞台化粧道具の行商からスタートした「よーじや」。当時、楊枝(ようじ)と呼ばれた歯ブラシをはじめ、化粧品を扱う店として地元の人々に愛されたが、1920年に生まれた「あぶらとり紙」が、90年代にテレビドラマのワンシーンに登場して大ヒット。一気にブームとなり、「よーじやと言えばあぶらとり紙」と想起されるようになった。

よーじやを代表する商品の「あぶらとり紙」

「意図的にターゲティングを変更してブランドイメージを構築したというよりは、ブームに乗ってお客さまの層や需要が変化したことにつられる形で、現在のブランドができあがったというのが正直なところ」と5代目社長の國枝昂氏は語る。

一人っ子だった國枝氏は、子どもの頃から「いつかは家業を継ぐ」と想定し、人生設計を立ててきたという。

「経営的な視点で物事を考えられる仕事をしたいと、公認会計士試験を受け、合格。よーじやには2019年8月に代表取締役副社長として入社しました。入社当時から財政の健全化を主軸に、人にしっかりとお金が流れる経営を目指してきましたが、半年後にコロナ禍へ突入。当社史上、過去に経験したことのないレベルで売上が減少していきました。自分自身、この危機を乗り越える覚悟を決める意味で、父に『会社を任せてほしい』と話し、2020年に社長に就任しました」

よーじや自体のファンを増やす

コロナ禍で浮き彫りとなった課題を目の当たりにし、危機を脱却するために國枝氏が掲げたのが、「脱観光依存」だ。これまでの同社のターゲットは観光客が主で、店舗も京都に集中していた。ところが、新型コロナの感染拡大のため、2020年の4月から 5月と、2021年1月から2月にかけて、全店休業を余儀なくされた。コロナの影響が全くなかった2019年7月期に比べ、2021年7月期の売上は、ECを含めても30%に満たなかった。

「多くの顧客は、商品自体ではなく、“京都の想い出”として当社の商品を購入しているという現実を突きつけられました。観光業としての売上ではなく、商品自体のファンを増やすこと、よーじやのブランド自体を好きになってもらう努力が必要だと感じました。コロナ禍を、そうした現実と向き合い、ブランドをしっかりと作り変えるチャンスと捉え、この2年半取り組んできました」

脱観光依存とは「脱観光」ではなく、京都の観光業としてのブランドは引き続きしっかりと意識した上で、さらによーじやのファンを増やしていくということだ。

「京都のブランドを借りるだけでなく、企業自身のブランド価値を高めていくことで、観光客はもちろん、観光客以外の方や地元客にも愛される企業を目指していきます」

人材育成と新商品開発に注力

ブランドの再構築のために同社が力を入れているのが、人材育成と新商品の開発だ。「ヒト・モノ・カネ、全てない状況ですが、まずはヒトが最重要課題」と語る國枝氏。特に若い社員が活躍できる場をしっかり作ることで、人の育つ企業を目指していくという。現在の同社のほぼ全ての社員は、90年代のあぶらとり紙ブームの後、ブランドがすでにできあがった状態で入社している。

「そのため、安定志向で指示通りに動く人間が多いのですが、成熟期からさらに2次成長を起こすには、指示待ちではなく、自ら考え動ける集団になっていく必要があります。私は、私が指示をして、社員がその指示に従って動くという姿は一切目指していません。私以下の人間が、経営方針を理解しつつ同じ方向を目指し、自ら主体的に動く。その結果出た失敗に対しては私が責任を取る。そんな会社を作っていきたいです」

新商品開発では、これまで年に1つ出るか出ないかだった新商品を、2~3カ月に1個のスピード感で出させるように変革を進めている。あぶらとり紙のイメージが強い同社だが、ハンドクリームやリップクリーム、紙石鹸なども売れ筋商品だ。そこで、スキンケア中心に新商品を開発しており、直近では「はんどくりーむ ギンモクセイ」、リラックスアイテムの「あろまおいる ゆず」などの柚子商品を販売した。この9月に数量限定で販売した「ギンモクセイ」は、1カ月でほぼ完売している。

左/2022年3月に発売された新シリーズ「はなほのかシリーズ」。優しく華やかなフルーティフローラルの香りが特徴 右/上品で甘みのある銀木犀の香りが好評の「はんどくりーむ ギンモクセイ」

「同時に商品の改廃も進めています。商品の種類が多いことが当社の特徴の1つですが、長い歴史の中で、原価効率を考えず残し続けてきた商品も多いのです。商品を廃版にするには、判断と責任が伴います。これまで廃版の選択をする人間がいなかったというだけで残り続けてきた商品も多く、コロナ禍を機に売れていない商品は廃版とし、一方で新商品を作るという選択と集中をしっかりとやっています」

ベンチャー精神で事業を多角化

さらに、リスクヘッジのための多角化も進めている。同社は京都市内で「よーじやカフェ」を展開し、飲食業にもすでに進出していたが、2022年6月にはよーじやブランドではない新業態店舗として、国産そば粉を使用した十割そばを提供する「十割蕎麦専門店 10そば」(京都市御幸町御池)をオープンした。

「よーじやカフェ」で人気のパフェ

新業態店舗の「十割蕎麦専門店 10そば」

「私としては、『よーじやだから、これはしてはダメ』というのはないと考えています。企業が生き抜く、従業員を守るためのリスクヘッジとして、多角化はあるべき姿だと思っています。よーじやを伝統企業と思わず、ベンチャー企業だと思って、積極的に新しいことにも挑戦していきたいです」

今後の経営方針としては、「脱観光依存を短期的ではなく、中長期の長い目線でブレずに進めていくことが重要」と語る國枝氏。「観光業としてのよーじや」、「京都のよーじや」としての価値は守りながらも、京都以外でも新たな価値を創出する未来を構想している。

「その未来は、『よーじや』というブランドで京都以外にもリピーターを獲得できる店舗を複数構えるというものかもしれませんし、蕎麦屋のように『よーじや』以外のブランドで実現していくものかもしれません。いずれにせよ、当社のファンを増やすことに注力し、脱観光依存に本気で取り組んでいきます」

 

國枝 昂(くにえだ・こう)
よーじやグループ 代表取締役社長