鈴茂器工 創業理念を現代に適応させた食文化創造企業への進化
1981年に寿司ロボット1号機を開発し、日本の食文化を世界に広げてきた鈴茂器工株式会社。創業者の「お寿司を日常的に食べられる社会を作りたい」という理念から44年、同社は機械メーカーから付加価値創造型企業への転換を図る。谷口徹社長は「単なる機械の製造・販売ではなく、顧客の事業を強化し、食を豊かにする社会の実現を目指す」と語る。

米飯機械への転換で食の民主化を実現
「創業者の鈴木喜作氏は、決してこの機械を作ってたくさん売ろうとしたわけではありません。米の消費を増やし、お寿司が日常的に食べられる社会を描いていました」谷口氏は創業者の理念をこう振り返る。
鈴茂器工は1961年に鈴木喜作氏により創業され、当初はアイスクリーム充填機や菓子機械を手掛けていた。1970年代後半、減反政策により米の消費が減少する中、鈴木氏は社会課題の解決を見据えて1981年に寿司ロボット1号機を開発。これは同社にとって大きな事業転換だった。
「当時お寿司は本当に高嶺の花でした。それを日常的に食べられるようにするため、機械だけでなく、炊飯から管理方法まで他メーカーとも連携した総合的なソリューションを提案していました」。
創業者は単なる機械メーカーではなく、食文化全体の発展を目指していたのだ。
この理念は現実となった。回転寿司の普及により100円寿司が実現し、スーパーマーケットやコンビニエンスストアでも寿司が日常的に購入できる社会が到来。「私たちの機械が売れ続けているのは、寿司市場が広がった結果です。これはまさに創業者が目指した社会です」と谷口氏は分析する。
付加価値創造型企業への転換でトータルソリューションを提供
2015年に入社。経営企画等の管掌を経て、2019年に専務取締役として経営に参画し、2025年4月に社長就任した谷口氏は、金融業界での経験を活かし、同社の本質的価値を再定義した。「機械を売るのではなく、お客様の事業を強くすることが私たちの使命です」と語る。

現在の中期経営計画「Next2028」では、従来の機械メーカーから付加価値創造型企業への転換を掲げる。「省人化」「省技術化」「省費化」を核とした同社の機械は、顧客の事業強化に直結する。省人化により人手不足を解決し、省技術化により熟練職人なしでも安定した品質で提供可能に。省費化により原価低減を実現する。
「厨房だけでなく、ホール運営も含めたトータルソリューションを提供していきたい。お客様から『ありがとう』を増やし、パートナーシップを結び新たな価値が生まれる。『ファーストコールカンパニー』を目指します」。
同社は自社製品に加え、他社製品も組み合わせた包括的な提案を展開。AI技術を活用した自動配席AIシステム「ARESEA(アレシア)」も2024年10月にリリースし、飲食店の受付・配席業務の効率化を目指す。
海外事業も好調で、特に北米市場が急成長している。日本食文化の世界的普及に伴い、現地での寿司需要が拡大。
「ローカライズを通じて、各国の食文化に適応した日本食を提供できるよう支援しています」。

組織変革と食を豊かにする未来社会の実現
最大の挑戦は組織の意識改革だ。「売れている機械があるからこそ、変革の必要性を感じにくい。平時での変革は非常に困難です」と谷口社長は率直に語る。
同社は3段階の中期計画を設定。第1段階で価値の再確認と意識改革、第2段階で新事業の基盤構築、第3段階で本格的な変革を実現する計画だ。
「否定ではなく進化と深化を。既存事業の価値を活かしながら、新しい価値を創造していきます」。
プロパー社員と中途社員の融合により、徐々に変化の兆しも見えている。
「お客様の困りごとを解決する提案が営業現場から上がってくるようになりました。これは大きな変化です」。
世界90カ国への展開と新工場建設による成長基盤
同社の海外展開は既に世界90カ国以上に及び、中期経営計画「Next2028」では海外売上高を現在の49億円から100億円へと倍増させる目標を掲げる。特に北米市場では、大手スーパーマーケットで日本と同様の店舗内調理オペレーションが採用されるなど、急速な成長を見せている。
この成長を支えるため、2026年3月には埼玉県鶴ヶ島市に新工場が稼働予定だ。投資額約27億円をかけた新工場は、現工場の2倍以上の生産能力を目指し、セル生産方式からライン生産方式への転換により生産性向上を図る。「グローバル需要の拡大に対応するため、生産体制の抜本的な改革が必要です」と谷口社長は説明する。
同社の2028年3月期連結業績目標は売上高220億円、営業利益30億円、ROE12%。時価総額も2019年の103億円から2025年には309億円へと約3倍に成長している。
食文化創造企業として描く理想の未来
創業70年を見据えた同社の目指す未来は明確だ。
「機械の技術革新は必ず起こります。だからこそ、技術は手段であり、目的は食を豊かにする社会の実現です」。
谷口社長は、創業者の理念を現代に適応させながら、食文化創造企業として新たな歩みを続けている。
「いつでもどこでも誰でも、安くて美味しい食事ができる社会。これが私たちの目指す大衆化であり、社会的使命です」。
同社の挑戦は、日本発の食文化を世界に広げる新たな章を刻み続けている。

- 谷口 徹(たにぐち・とおる)氏
- 鈴茂器工株式会社 代表取締役社長