技研製作所 あらゆる条件に対応する圧入技術で課題解決

技研製作所は、高度成長期、騒音や振動で社会問題化していた杭打工事において、「圧入原理」を用いて静荷重で杭を地中に押し込むことができる世界初の技術と機械を開発した企業だ。日本ではすでに広く活用されているが、様々な地盤や制約条件に対応するこの技術は今、世界各地に広がっている。

大平 厚(株式会社技研製作所 代表取締役社長 CEO)

創業者と高知のエジソン
2人の出会いが生んだ技術

技研製作所は現在名誉会長を務める北村精男氏が1967年に創業した高知技研コンサルタントが始まりだ。北村氏はもともと建設機械レンタル会社のオペレーター兼技術担当で、26歳の時に独立し、基礎工事をメインとする土木事業をスタートさせた。当時の日本は高度成長期にあり建設・土木工事が盛んだったが、基礎工事における杭打は騒音や、周囲の建物にも影響を与える振動が社会問題となっていた。

そこで北村氏は騒音や振動が少ない杭打機を世界各地で探してみたものの見つからない。それなら自分で作ろうと考えたのが、現在に至る出発点だった。2023年から代表取締役社長CEOを務める大平厚氏によれば「北村には現場経験から『こうすればいいのでは』という課題解決のアイデアがあり、そこに、『高知のエジソン』と語り継がれる技術者で故人の垣内保夫さんとの出会いが重なった」という。

垣内氏は北村氏のアイデアをおもしろいと評価し、2人は全く新しい杭打機機械の開発に取り組む。約2年間の試行錯誤を経て、1975年に誕生したのが世界初の無公害杭圧入引抜機「サイレントパイラーTM」の第1号機だ。北村氏が現場でそれを使い始めたところ、次第に「高知県で騒音や振動が少ない杭打機が使われている」と評判を呼ぶ。

1978年1月に技研製作所を設立し、6月から「サイレントパイラーTMKGK-100H」の発売を開始。Kは北村氏、Gは技研、Kは垣内氏の頭文字で、100トンの重さをかけられるという意味だ。今までにない杭打機に対して全国から問い合わせが寄せられ、メーカーとしての基盤が形作られた。

先に打ち込んだ杭の引抜抵抗力を利用する「サイレントパイラーTM

海外でも高評価を獲得
世界遺産の改修工事にも採用

それまでの杭打機は杭を叩いたり振るわせたりして硬い地盤に押し込むため、騒音や振動の発生を避けられなかった。しかも、杭を押し込むために100トンの力が必要ならば、使用する重機はそれ以上の重さがなければ反力で浮き上がってしまう。

北村氏が垣内氏と共に開発した「サイレントパイラーTM」は、すでに打ち込まれている杭を数本つかみ、その杭が地中から抜かれまいとする「引抜抵抗力」を利用する。言い換えれば、地中の杭が下に引っ張るような力を発揮するため、重機が安定し、新たな杭を静荷重で地中に押し込むことができるのだ。この「圧入原理」が、軽量かつコンパクトにもかかわらず100トン以上の力を出して杭を打つことを可能にしている。当初は杭を打ち込める地盤が限られていたが、技術革新の成果で砂、粘土、砂利、礫、玉石、そして岩盤まで、様々な地盤に使える高い技術力を備えた機械の開発に成功している。

騒音や振動を抑え、多様な地盤に対応する技研製作所の技術は日本では広く取り入れられており、近年は世界展開にも力を注ぎ、すでに多くの実績がある。グループ企業の技研ヨーロッパと、オランダの2つの建設会社の3社で構成される合弁会社G-Kracht B.V.で進められているのが、オランダの世界遺産「アムステルダムの環状運河地域」の護岸改修工事。2032年までに計3.3kmの受注が予定されている。そこでの施工法が評価され、オランダではまた別の治水プロジェクトでの採用へと波及している。そのほか、北米、アジア各国、アフリカ諸国やオーストラリア、中東など40超の国と地域で施工実績を持つ。

オランダの世界遺産「アムステルダムの環状運河地域」の護岸改修工事

この4月にはドイツ・ミュンヘンで開催された世界最大の建設機械見本市にも出展。技研製作所が持つ自動運転や遠隔操作の技術を披露し、大きな話題となった。2024年9月から始まっている3カ年中期経営計画では海外展開において、これまでの機械販売から、技術支援等で顧客をバックアップするトータルサポート体制へ、方針を転換することも発表された。

防災先進県である高知の
社会貢献企業として

技研製作所の頭脳と心臓といえる開発部と製造部はどちらも高知県にあり、様々な地盤のテストフィールドも県内に有する。大平氏は「私たちは現場から生まれたメーカーであり、開発した機械をお客様に使ってもらう前に自分たちがテストフィールドで性能や安全性を試し、グループ企業の技研施工が実際の現場で稼働させて完成度を高めることができる。これは昔も今も変わらない構図であり、私たちの一番の強みだと考えています」と語る。

「サイレントパイラーTM」が誕生して50周年を迎えた今年、初荷で累計生産台数が4000台を突破した。「そのお礼もかねてお客様のところを回っています」と大平氏。その中で発信しているのが、高知県にある技研製作所の情報発信基地「RED HILL1967」だ。2023年5月のオープン以来、1万人を超える見学客が訪れた。行政関係者や施工業者だけでなく、損害保険会社の姿もあるのは、技研製作所が東日本大震災や能登半島地震の復興でも技術力を発揮してきたからだ。2024年1月の能登半島地震では、まず支援車の通行を可能とするため、土留め工事が必要で、その際に「サイレントパイラーTM」をはじめとした技研製作所の技術が導入された。

圧入技術の情報発信基地「RED HILL 1967」。一般の見学も受け入れている

 

能登半島地震で崩落した道路の修復工事に「サイレントパイラーTM」が採用された

また、技研製作所の「インプラント工法TM」という技術にも関心が寄せられている。連続する杭で壁を構築することにより地震や津波の被害から街を守る「地球と一体化した粘り強い構造物」を築き上げる工法だ。

「堤防にインプラント工法TMを導入すれば、洪水や津波により強く耐えられると提唱しており、すでに導入実績もあります。これをもっと広めていくことも、今後の展望として大事だと考えています。高知県は南海トラフ地震に備える防災先進県で、『RED HILL 1967』は防災にかかわる見学施設でもあります。こういった社会貢献にも積極的な企業が高知にあることを、実際に来て、食をはじめとした地域の魅力と一緒に知っていただけたらうれしいですね」

 

大平 厚(おおひら・あつし)
株式会社技研製作所 代表取締役社長 CEO

 

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