平井卓也議員 「デジタル・ニッポン2023」から未来を予見

2023年5月に公表された「デジタル・ニッポン2023」。事業構想DXサミットの基調講演には、提言のとりまとめを主導した自民党デジタル社会推進本部長の平井卓也衆議院議員が登壇し、デジタル化政策の取り組みや日本の目指す姿について語った。

平井 卓也(衆議院議員、自民党デジタル社会推進本部長)

2010年から始まった
デジタル・ニッポン構想

2023年5月、自民党デジタル社会推進本部は、デジタル技術を活用した行政改革に関する提言「デジタル・ニッポン2023」を公表し、政府にガバメント・トランスフォーメーションの実現を強く促した。野党時代に政府への申し入れとして提起した2010年の「新ICT戦略」を皮切りに、自民党はデジタル・ニッポン構想を検討し始めた。以来、毎年、⺠間から幅広く知見を集めながら脈々と受け継ぎ、具体的な提言をまとめてきた。

「2024年秋から紙の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一本化されますが、この方針はマイナンバー制度が導入された2015年当初から提示してきたものです」と、自民党内で一貫してIT政策を主導してきたデジタル社会推進本部長の平井卓也氏は話す。2014年のサイバーセキュリティ基本法、2016年の官民データ活用推進基本法は、同本部の提言を基に、平井氏がIT担当大臣を務めていた時に議員立法として成立させたものだ。

「2021年のデジタル改革関連法成立やデジタル庁創設、デジタル田園都市国家構想の重要政策化の実現など、デジタル社会推進本部は自民党内の一つの組織でありながら、日本のデジタル化政策を牽引してきました」

デジタルテクノロジーで
日本の閉塞感を打ち破る

コロナ禍を契機として、社会全体にDXを浸透させる必要性が明らかになった今、平井氏は「デジタル化への対応が遅れれば、日本はますます競争力を失うことになります」と警鐘を鳴らす。日本はGDPでは世界第3位の経済大国だが、競争力の面では危機的状況にある。IMD(国際経営開発研究所)の「世界競争力ランキング」によれば、1989年からバブル期終焉後の1992年まで日本は世界1位だったが、最新の2023年は過去最低の35位に転落。今やタイやマレーシアよりも下位に位置する。

「私が人口減少や高齢化よりも危惧しているのが、我が国に漂う閉塞感です。この閉塞感を打ち破り、日本がかつての競争力を取り戻すための道具となるのがデジタルテクノロジーです。そして、クラウド技術を活用し、国と自治体の共通のシステム基盤である『ガバメントクラウド』に移行することが必須です」

政府は情報システムの構築を行う際には、クラウドの活用を第一に考える『クラウド・バイ・デフォルト』原則を掲げている。平井氏は、ウクライナ侵攻が始まる1週間前に、ウクライナ議会が政府の重要なデータをクラウドへ移行することを認める法案を可決し、Amazonの支援を得てデータを保護したことを取り上げた上で、「ウクライナがクラウド移行を実施していなければ、政府機能の継続が困難になっていたはずです」と主張。日本もこれに倣い、国も地方自治体も維持管理コストが高く有事に対応できないオンプレミス環境から、変化に対応できるクラウドベースに変わるべきだと語った。

さらに、デジタル公共調達の仕組みである「デジタルマーケットプレイス(DMP)」を整備し、行政の迅速・公平な公共調達を促すとともに、多様な事業者の参入を促進し、IT産業振興につなげることが重要だと示唆した。

DXされた行政の姿。1つのデジタルガバメントを前提に、個人が自分に合ったサービスをどこでも迅速に受けられるよう、国と地方が組織横断のデジタル基盤で情報連携するモデルを実現する
出典:デジタル・ニッポン2023

マイナンバーカードを巡る
2つの「誤解」

世界的に加速するデジタル化において、日本の存在感が低下している最大の要因は、官民ともに「変わることへの恐怖心」にあると平井氏は指摘する。その典型的な例がマイナンバーカードだ。個人情報の誤入力がしきりに報道されたことで、国民の情報漏えいに対する不安が煽られてしまったと吐露する。

平井氏によれば、マイナンバーカードを巡っては多くの誤解が生じているという。そもそも現行の保険証は誤入力などを理由に、年間約500万件の差し戻しが起きている。マイナ保険証に変わるからトラブルが起こるのではなく、むしろ紙の保険証のほうがヒューマンエラーによる過誤が多いと指摘する。

「顔写真が付いていないため、紙の健康保険証だけでは携帯電話の契約も、銀行口座の開設も、パスポートの申請もできず、なりすまし犯罪を止めることもできません。特に不正利用の観点から『健康保険証を本人確認ができる身分証明書に変えるべきだ』という声は以前から上がっていたため、マイナンバーカード制度の導入にあたり健康保険証と一本化する方針を当初から打ち出していたのです」

もう一つは、マイナンバーカードに貼付されるICチップの中にすべての個人情報が入っており、そこから個人情報が漏えいするのではないかという誤解だ。

「ICチップに入っているのは、マイナンバーと基本4情報(氏名、性別、住所、生年月日)、顔写真データ、そして電子鍵だけで、年金や医療、税といった個人情報は記録されていません。また、アメリカの社会保障番号のように、国が国民の個人情報を一元管理するものでもありません。必要な情報にアクセスする際は、医療や年金、税などを管轄する機関がそれぞれ管理するデータベースに、その鍵を使って都度アクセスする分離管理のため、カード内には一切の情報が残りません。誤入力が不安であれば、専用サイト『マイナポータル』にログインすれば、すぐにご自身の登録状況を確認することができます」

これらの誤解について説明した上で、デジタル基盤の整備とマイナンバーカードの普及は、デジタル社会のインフラとして不可欠だと平井氏は語る。それゆえ、今回のマイナンバー騒動は日本の未来を占う試金石であり、日本が「変わることへの恐怖心」を乗り越える上で、大きなターニングポイントになるという。これを機に、登録情報を総点検して過誤が限りなくゼロに近づけば、デジタル社会のメリットが明らかになり、国民の意識も変わるはずだと力説した。

最後に、平井氏は「自治体にとってはこれまでの業務システムを、国費で使い勝手の良いクラウドベースに移行していだだくチャンスです。ぜひとも変わることへの恐怖心を乗り越えて、再び日本の競争力を取り戻しましょう」と呼び掛けた。

 

平井 卓也(ひらい・たくや)
衆議院議員、自民党デジタル社会推進本部長