Web3.0がもたらす社会変容 無形資産の流動化のインパクト

Web3.0のビジネス活用が始まっている。ブロックチェーン技術が実現する分散型インターネットは、企業のエンゲージメントやマーケティングのあり方を大きく変える可能性がある。最新事情に通じる3人のキーパーソンが日本のWeb3.0ビジネスの現状と展望、地方創生における可能性を語り合った。

Web3.0がもたらす 無形資産の流動化

新たな経済活動のフロンティアとして、Web3.0への注目が高まっている。そもそもWeb3.0とは、2014年にイーサリアムの共同設立者であるギャビン・ウッドが提唱した概念であり、ブロックチェーン技術を活用した次世代インターネットのことだ。ブロックチェーンによる相互認証、データの唯一性・真正性、改ざんに対する堅牢性に支えられ、プラットフォームを介さず、個人が直接データやコンテンツを所有・管理し、自由につながり交流・取引できる世界だと言われている。

Web3.0の世界的リーディングカンパニー、Animoca Brandsの日本における戦略的子会社アニモカブランズのファウンダーであり、STOK代表取締役社長の岡澤恭弥氏は、Web3.0がもたらす変化の一つは「無形資産を流動化できるようになったこと」だと述べた上でこう説明する。

岡澤恭弥 STOK代表取締役社長

「これまで知的財産やデータなどの無形資産は、証券化によって流動化できる不動産などの有形資産と異なり、唯一無二(非代替性)であることの証明ができなかったため、資産価値を可視化することがかないませんでした。それがWeb3.0を代表する技術であるブロックチェーンの台頭により、デジタルな無形資産にも資産価値を付与できるようになったのです」

コミュニティへのアプローチで
ブランド価値の向上につなげる

トークンを介してあらゆる価値の共創・保有・交換を実現するWeb3.0は、金融以外の幅広い産業でも活用が広がっている。自治体や企業においてはNFT(非代替性トークン)やDAO(分散型自律組織)が新たな資金調達やコミュニティマネジメント、関係人口創出の手法としても注目されつつあり、社会課題の解決への寄与が期待されている。

そうした中、Web3.0時代の新たなつながりとして、世界中に散らばる多種多様なコミュニティの存在に着目するのが、コミュニティテック企業のScalablyだ。同社はWeb3.0を活用したグローバルコミュニティプラットフォームを開発し、同プラットフォームを通じて世界約30社のコミュニティの構築・運営を支援してきた。Scalably代表取締役の山本純矢氏は、コミュニティを「同じ興味関心を持った人たちが集まっている状態」と定義づけた上で、次のように語る。

山本純矢 Scalably 代表取締役

「FacebookやInstagram、X(旧Twitter)などのSNSを通じて、今、世界で100万のコミュニティがアクティブに活動していると言われています。しかも、これらのコミュニティを運営しているのは会社ではなく個人であり、共通の興味関心を軸としたコミュニティが形成され、国や人種を超えたコミュニケーションが促進されています。これにより企業のマーケティング活動は国や地域、性別、年齢に縛られることなく、興味関心を軸とした世界のコミュニティに向けて展開できるようになりました」

一方、中国向けマーケティングや越境EC支援事業などを手掛けるクロスシー代表取締役社長の田中祐介氏は、Web1.0からWeb3.0までの変遷を次のように整理する。まずインターネットがもたらしたWeb1.0では誰もが情報を閲覧できる“知る権利”を得た。そして、Web2.0ではブログやSNSによって誰もが情報を“発信する権利”を得たが、ブロックチェーンを基盤としたWeb3.0によって単に情報を発信するだけにとどまらず、誰もがブランドへの “参画する権利”を得たという。

田中祐介 クロスシー 代表取締役社長・CEO

「従来、企業のマーケティング活動は、企業がメディアに広告料を払って、消費者に一方的に発信するものでした。しかし、Web3.0の台頭により、個人が企業の商品やサービス、体験などに共感し、その魅力を生活者ならではの視点からSNSなどで発信することで、ブランド価値の向上に寄与できるようになりました。一方、企業側はブランドに共感してくれるファンをパートナーとして扱い、ブランドに関係する利用権や会員権を付与することで、ファンのエンゲージメントが高まりブランド価値が向上するという好循環が生み出せるようになったのです」(田中氏)

商品やサービスのコモディティ化が進み、消費意識もモノからコトへと変化する中、「エシカル消費」といった言葉に代表されるように、個人の間で消費を通じた社会への参画意識が高まっている。こうした背景を踏まえ、田中氏は「選ばれ続けるブランドであるためには、いかに消費者を巻き込んでいくのかというファンマーケティングがますます重要になります」と語った。

個人が直接データやコンテンツを所有・管理し、自由に取引できるWeb3.0では、コミュニティへのアプローチが重要だ(写真はイメージ)

Web3.0を地方創生に活用し
インバウンドと関係人口を獲得

これまで多くの企業はファンとつながる手段を体系化できていなかったため、マスメディアへの露出やインフルエンサーの活用といった一方通行の情報発信に頼らざるを得なかった。しかし、今や世界には100万もの既存コミュニティが存在する。自社の商品やサービスを求めているコミュニティと直接つながれば、闇雲に広告を出すよりも、効果的かつ効率的に潜在顧客にアプローチすることができる。山本氏は「コミュニティを一つの国家と捉え、それらの国々とブランドの付加価値をうまく取引することができれば、日本企業は必ずや世界と対等に戦えるはずです」と力説した。

他方、Web3.0の潮流は自治体や地場産業にとっても大きなチャンスになる。

「Web3.0と聞くと、自分たちには関係のないことだと捉える自治体関係者も少なくありませんが、地理的成約を受けないWeb3.0を活用すれば、世界中のファンから瞬時に資金を集めることも可能です。それぞれの自治体が誇る魅力ある地域資源を軸に、世界中のコミュニティに直接アプローチすることで、インバウンド需要を喚起しながらグローバルな関係人口の創出に役立てていただきたいと思います」と岡澤氏は総括した。

Web3.0時代には、自治体が世界中のコミュニティに直接アプローチし、グローバルな関係人口を創出できる(写真はイメージ)