XRで拡張する新スポーツ「AIR RACE X」

10月15日、東京・渋谷で、エアレースをXR上で観戦するという世界初の競技イベント「AIR RACE X」が行われる。エアレースパイロットの室屋義秀氏、デジタルと建築の融合を図るデザイナー豊田啓介氏とともに、XRがもたらす新たな顧客体験について考える。

エアレースをXR上で観戦する世界初の競技イベント「AIR RACE X」

XRとエアレースが融合
渋谷の街でイベント開催

エアレースは、レース専用の小型プロペラ機を用いて、最高時速370km、最大負荷12Gという過酷な環境の中、空中に設定されたコースを決められたルールで通過して操縦の正確性とスピードを競う空のモータースポーツだ。

まさに「空のF1」と呼ぶにふさわしいエアレースイベントは世界各国で開催され、多くの観衆を集めてきたが、2019年以降、コロナ禍の拡大で中止になっていた。

そこに大きなニュースが飛び込んできた。今年3月、アジア初のエアレース世界チャンピオンである室屋義秀氏らが、XR技術を活用した新たなエアレースシリーズ「AIR RACE X」の立ち上げを発表したのだ。

室屋義秀 LEXUS PATHFINDER AIR RACING
エアレースパイロット

AIR RACE Xは、実際のフライトとXR技術の融合が生む、まったく新しいレースフォーマットだ。一連のレースはデジタルラウンドと呼ばれ、6日間の予選と1日で行われる決勝トーナメントから構成される。そして、この世界初のエアレースの決勝トーナメントが、10月15日、東京・渋谷で開催される。観客は、現実の渋谷の街を駆け抜けるレース機の勇姿を、XRデバイスやスマートフォン上で楽しむことができるのだ。

現実の渋谷の街を駆け抜けるレース機の勇姿を、XRデバイスやスマートフォン上で楽しめる

現実のフライトとXRの融合とは、具体的にはどういうことか。冒頭、ファシリテーターの渡邊信彦教授が解説した。

「世界各地に、渋谷の街を高精度に模したコースを作成して、パイロットたちは各国の自分の拠点でそれぞれ実際にフライトを行いリモート形式でタイムを競います。その計測データを一元集計して、XRコンテンツを作成し、それを現実の渋谷の街に寸分違わぬデジタルツインに重ねて再生します。これによって、あたかも渋谷の街をレース機が飛んでいるかような光景を体験することができるのです。レース形式としても観戦方式としても、これまでにない形であり、モータースポーツとXRを掛け合わせることで、新しい顧客体験を創造する、画期的な取り組みといえます」。この取り組みを支えるコアテクノロジーが、渡邊氏がCOOを務めるPsychic VR Labのリアルメタバースプラットフォーム「STYLY」だ。

パイロットは各国の自分の拠点でそれぞれ実際にフライトを行いリモート形式でタイムを競う

デジタルが生む「五次元スポーツ」

室屋氏は、この新次元エアレースの実現に至った経緯について、「豊田啓介さんの企画にヒントをもらった」と振り返る。本セッションに登壇した豊田氏が所属する建築デザイン事務所NOIZは、建築分野でデジタルとアナログの融合を図る取り組みにおいて数々の実績を残している。

豊田啓介 NOIZ デザインアドバイザー、
東京大学生産技術研究所特任教授

「豊田さんのアイデアを聞いた時、飛行機は正確なデータが取れることもあって、非常に再現しやすいと思いました。これまで絶対に考えられなかったことも、デジタルを使えば実現できると直感したのです。

我々は、もちろん街なかでのレースはできません。レースを見るには、現地に行かなければならない。ところが、デジタル上ならばその場にいなくても多くの人に見てもらえますし、コックピットからの視点に切り替えて見てもらうなど、これまでにない体験を提供することもできます。デジタルには無限の可能性があると思います」

室屋氏は、AIR RACE Xを「五次元スポーツ」と呼ぶ。三次元のエアレースをもとに、データ上で時間と空間を超えた様々な観戦方法が可能になるからだ。エアレースを知らなかった層も取り込める可能性がある。

時空を超える新次元のイベント

一方、豊田氏は、「特にコロナ禍を経て、誰もがリアルに飢えていた」と語る。

「やはり、みんなで集まって、立体音響や振動を一緒に感じて、隣の人とハイタッチするとか、そういった盛りあがりを共有できることが重要で、都市の面白さもそこにあります。ですから、AIR RACE Xはパブリックビューイングに近いですし、あえて言えばパブリックdoingだと思うんです。

都市には様々な目的で人が集まる、多様性の分厚さがあり、その分、様々なチャンネルがあります。AIR RACE Xは、集まって、盛り上がって、同時に楽しむための新しい仕掛けとして、これまでとは桁違いの参加型の世界をつくれる可能性があると思っています。

例えば厳島神社や山の中のダムでのレース、ドバイのタワーを回るレース、あるいはどこかの村役場の周りを飛ぶレースなど、違うトーンやストーリーで展開していける可能性もありますし、VRゲームとして観客が参加し、ポイントを獲得していくといった形もありえます。場所や距離を超えられるデジタルの力を活かしていければと思っています」

実際、AIR RACE Xでは、今後世界各地を転戦する構想もある。参加型の新たなスポーツに発展する可能性を秘めたAIR RACE Xには、多彩な活用ができる新たな観光資源として、今後、国内外から誘致を求める声が多くなることは間違いない。

室屋氏は、「来年以降も実施していきたいと思っています。日本国内だけでなく、世界を回るようなツアーを展開して、その中心が日本になるといった形にしていければいいですね」と語る。

空のモータースポーツとXR技術の融合が生む熱狂は、地域創生の新たな起爆剤となりそうだ。渋谷での決勝トーナメントは、スポーツにおけるリアルとバーチャルの相乗効果を活用する未来に向けて、新たな示唆をもたらすイベントになるかもしれない。