NFTとコミュニティ連携で創る、次世代の商店街

岡山市の西奉還町商店街は、NFTやAR、メタバースなどWeb3.0技術を駆使した画期的なまちづくりによって注目され、全国的な知名度を獲得している。プロジェクトを主宰する北島琢也氏が、「Neo西奉還町商店街メタバース計画」などの取り組みを紹介する。

北島琢也 KAMP代表取締役、協同組合西奉還町商店街理事

歴史ある商店街に革新を

JR岡山駅西口から北へ200mほどのあたりに、西奉還町商店街という通りがある。奉還町の名は、大政奉還で職をなくした藩士たちが、藩からの退職金である「奉還」を元手に商店街を興したことに由来するという。

下町風情が色濃く残る商店街ではあるが、大規模商業施設が建ち並ぶ東口エリアに比べて訪れる人も少なく、何らかの活性化策が求められる状況が続いていた。

北島琢也氏は、現在、この商店街でゲストハウスKAMPを営む。東京でサラリーマンをしていたが、15年ほど前にUターンして地元の街づくりに取り組み、2022年度からはこの商店街の理事も務めている。歴史ある情緒豊かな商店街の個性を活かした活性化を目指した北島氏は、デジタルの力を駆使して商店街に新たな風を吹き込むことに成功した。その革新的なアイデアは、全国的な注目を集める。

KAMPによる「Neo 西奉還町商店街メタバース化計画」は2022年にスタート

Web3.0のリテラシーを
段階的に積み上げる

北島氏が始めたのは、「Neo西奉還町商店街メタバース計画」、略称「NeoHoukan」というプロジェクトだ。2022年7月にこれが立ち上がるまでには、主に3つの段階があった。

「まずPhase1として、Psychic VR Labのリアルメタバースプラットフォーム『STYLY』を使って、商店街でAR技術を活用したイベントを実施しました。クリエイターの皆さんに参加していただいて、要所要所でARのコンテンツを体験していただくイベントです。商店街や地元の方はARのような技術への馴染みは薄かったので、まずは知って、楽しんでもらうことが目的でした」

ただ、それだけでは他との差別化ができない、そこで、北島氏はNFTコミュニティに入ってWeb3.0について勉強しながら、新たな方向性を模索した。そこで実現したのはNFTを使った展示だった。

「Phase2として、『NINJA DAO』のコミュニティ内で参加者を募集して、商店街の天井を利用したNFT作品中心のAR展示を行いました。Web3.0技術を観光振興に活かす取り組みとして、メディアからも取り上げられるようになると、周りの目も変わって、開催しやすくなっていきました。

そこで、Phase3として、クリエイティブレーベルの『SWARM LABEL』の協力のもと、SNSなどで作品を公募したところ、イラストから音楽、動画など、本当に幅広い作品が揃いました。回を重ねるうちに、県外からも商店街を訪れる人が増え、交流会や勉強会を通じて我々の知見も広がって、Web3.0に関する商店街全体のリテラシーが上がったように思います」

進化と拡張を続けるプロジェクト

こうした積み重ねをふまえ、北島氏らは今年1月に「NeoHoukan Realmetaverse AR Exhibition」として、さらに一歩踏み込んだイベントを展開した。2D、3Dクリエイターによる作品のAR展示のほか、AR作品をスマートフォンなどで撮影すると、商店街オリジナルのNFTや地域の特産品もらえる、といった参加型のキャンペーンも実施したのだ。

「県外からも大勢お客さんが来てくれましたし、地域の知名度をアップするよいきっかけになったと思います。これまでの過程で、様々なコミュニティに出会い、交流できたことは大きな財産になっています。そうしたコミュニティの一つ『のんびりweb3』では、この7月、自主的に『西奉還星人ねふぉん』という商店街のキャラクターを作ってくれました。現在、このキャラクターをAI化するなど、様々な活動が進行中です。

コミュニティ同士の連携、掛け合わせによって、できることは無限に広がるという実感があります。商店街の枠を飛び越えて、こんなことができるのか、と思うような新しいものがどんどん生まれている。それが今の状況です。現在、日本の商店街で最も多くのNFTウォレットを持っているのは、我々なのではないでしょうか」

「NeoHoukan」は、Web3.0、NFT技術を使って商店街に新たなコミュニティを形成することに成功した先駆的な例といえる。

イベント期間中の西奉還町商店街の様子。ARコンテンツの配信には、Psychic VR Labが提供するリアルメタバースプラットフォーム「STYLY」を採用

リアルメタバースならではの特性

NFTコミュニティとの連携によって生まれる新しい商店街の形。その成功を支える、もう一つの大きな要素として北島氏があげるのは、いわゆるメタバースではなく「リアルメタバース」にこだわったことだ。

「当初は、メタバース上に西奉還町商店街をつくって、ゴーグルで覗くという形も考え、勉強もしましたが、概念だけが先行して実際に滞在する人が多くないとか、デバイスの進化が追いついてこない、といったメタバースの実状も見えてきました。その点、『STYLY』のように、現実空間を活かすリアルメタバースは、導入しやすく体験の共有もしやすいように思いました」

メタバースは、一人で仮想空間にわざわざ行かなければならず、そのためのモチベーションも必要になる。一方、リアルメタバースは現実に見えている商店街に要素をプラスし、拡張していく技術であり、参加しやすく共有しやすいということだ。関わる人の輪を広げやすいテクノロジーの力もあって、現在、「NeoHoukan」プロジェクトを支える人々は全国に広がっており、時空を超えた取り組みに成長しつつある。