生成AIエネルギー論 電力インフラと生成AIの融合戦略
近年、博物館が単なる社会教育施設としての枠を超え、社会的・経済的な側面から地域に貢献すべきだという議論が高まりつつある。その動きを後押しするものとして、2023年度より施行された改正博物館法の存在がある。今回の改正では、他の博物館との連携のほか、自治体や企業、市民団体など多様な主体との協力によって、文化観光の振興や地域活力の向上に取り組むことが努力義務として明記された。1951年の施行以来、初めて「観光」という語が盛り込まれたことは、大きな制度的転換である。
生成AIの急速な普及に伴い、電力供給への懸念が高まりつつある。米国電力研究所の推定によれば、ChatGPTの1回の問い合わせには約2.9Wh(ワットアワー)の電力が必要とされる。一方でGoogle検索は約0.3Wh程度。つまり、ChatGPTは従来の検索エンジンに比べて約10倍もの電力を消費する。大規模言語モデルは膨大なデータで訓練され、複雑な処理のために多大な計算資源と電力を要するためだ。
仮に週平均で1億人が約15回利用すると仮定すれば、年間消費電力は約2億3,000万kWhに上ると本書は試算する。これは電気自動車約300万台をフル充電できる電力量に相当し、電気料金としては年間約3,000万ドル(約45億円)に達するという。このような莫大なエネルギー消費は、環境への影響だけでなく、電力インフラの負荷やコスト増大といった複合的な課題を突きつけている。
こうした生成AI時代において、限られたエネルギーをいかに有効活用すべきか。この電力問題を著者らは「新たな産業革命」の予兆と捉え、AIと電力システムの効率的な融合を図る「メッシュ構想」を提案する。デジタルインフラと電力グリッドを密接に統合し、互いに連携・影響し合うことで、「より少ないもので、より多くを生み出す(モア・オワ・レス)」社会を実現できると説く。
福岡県糸島市で進行中の「糸島サイエンス・ヴィレッジ(SVI)」は、その実践例だ。九州大学の協力のもと、地産地消型のエネルギー利用、ローカル通信基盤の整備、生成AIの活用による持続可能なまちづくりを目指す。現在、小規模データセンターや各種センサー、ローカル5G、AI連動型ロボットなどを含む「まちづくりスターターキット」の開発が進められている。再生可能エネルギーと蓄電池を使った直流マイクログリッドを基盤に、地域内で電力を循環させる仕組みの実現が視野に入っているという。
本書が提供するのは、エネルギー問題への技術的な提案にとどまらない。人類の歴史を振り返れば、私たちの進化の過程もまた、エネルギー消費をめぐる幾多の試行錯誤の連続だった。私たちの遺伝子は、そうした過去の知的蓄積とも言える。その意味では、人間一人ひとりの「時間」こそが最も希少で尊いエネルギー資源である。個々の知恵や能力を、蓄積してきた知見と組み合わせることで、より少ない人的資源から、より大きな価値を生み出すことが可能になる。これこそが、著者らの言う「AIエネルギー思考」であり、これからの経営の本質である。
AIとエネルギーという2つの潮流を軸に据えた本書は、テクノロジーに関心のあるビジネスパーソンはもちろん、未来を見据えるすべての経営者にとって有益な指針となるだろう。
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