まちづくりの価値を最大化 アートのポテンシャル

DXサミットでは事業構想大学院大学の渡邊信彦教授をファシリテーターに「先駆者から、デジタルニッポンの未来を予見するシリーズ」と題した3つのセッションを実施した。本セッションでは、まちづくりの価値を最大化する決め手としてのアートの役割について考察する。

まちづくりにアートがもたらすもの

セッション冒頭では、ファシリテーターである事業構想大学院大学の渡邊信彦教授が、まちづくりの考え方の変遷を振り返った。

渡邊信彦 事業構想大学院大学教授、
Psychic VR Lab取締役COO

「まちづくりというと、かつては仕事に行く、買い物に行くなどの目的本位の視点に立っていました。その後、コト消費本位の考え方が主流になり、さらに今日では、もっと広い概念でウェルビーイングやヘルスケアがまちづくりのテーマになっています。

ただ、ともすると、単機能的なイベントを集めただけの集合になることも多い。そこで、取り組み全体を柔らかく包み込む機能を持つものとして、今、アートが注目されているように思います。そこには、今まで価値が見えなかったものに価値を付与して新たな役割を持たせていく、Web3.0との共通点も見えてきます」

ウェルビーイングは重要なキーワードだが、機能を充実させるだけでは真の意味での「ウェルビーイング」なまちづくりには結びつきにくい。何が必要なのか。テレビ朝日でデジタル関連の新規ビジネスを開発しながら、アート番組のプロデュースや地方自治体のアートイベントなどの企画運営などにも携わってきた織田笑里氏はこう語る。

織田笑里 テレビ朝日 ビジネスプロデュース局ビジネス統括部
(現・ビジネス推進部)兼 コンテンツ編成局メタバース部

「昨年、映像クリエーターを公募し、群馬県のロケ地の魅力を発信するプロモーション動画をつくるという案件がありました。『魅力』という形のないものを、型破りな映像で表現し、発信するプロジェクトです。また、直近では、今秋、臨海副都心エリアで開催されるアートフェスティバルに関わっていますが、ここでは、XR関連の企画を含めて、まちの中にアートが組み込まれることの意味を、子供にもビジネスパーソンにも体感していただくことを目指しています。

このような企画を通じて自分自身が実感しているのは『説明は難しいけれど、何だかそこにいたい』『そこにいる、その場所やコミュニティに属していることが自分にとって心地よい』といった、定量化できない要素が、街と人の関係性において重要なのではないかということです」

アートには、定量化できない人間らしい感情を醸成する力がある。機能性やデザインだけで完結せず、アートがクッション材として街と人を包み込むことで初めて、魅力あるまちづくりが可能になるのかもしれない。

テレビ朝日は臨海副都心エリアで開催した「ARTBAY TOKYO アートフェスティバル2023」でARやVR、メタバースを活用した体験型アート作品・プログラムを提供した

NFTがつくる新たなコミュニティ

では、今日のアートがどのような状況にあり、どのような力があるのか。NFTアートのコレクティブスタジオXYZAを運営し、現代アーティストのNFT作品をプロデュースする髙橋智宏氏はこう語る。

髙橋智宏 FRMディレクター、diplo代表取締役

「XYZAでは、アーティストの作品をどのようにデジタルに変換していくか、デジタル化する意味は何か、といったことを作家と一緒に考えています。特に、NFTを持つ人にワクワクしてもらうためには、例えば、説明によるおもしろさを感じてもらう、といった方法もあります。が、物理的な作品の強さがデジタル化すると減ってしまうこともあるので、フィジカルな面ではできないことをデジタル面で補完するということが大切です。

例えば、コムロタカヒロ氏の木彫作品は、デジタル化されることで動きが付与されて、暗号通貨の価格に応じて動きや表情が変わります。NFTを含むデジタルでしかできないことにフォーカスした上で、ブロックチェーンにおいて半永久的に残していくわけです。もう一つの事例としては、トレジャーハント方式でNFTを獲得できる作品では、展示場所に行くのではなく、作家本人にもらいに行くというプロジェクトも実施しました。NFTを通したコミュニケーションを生み出したかったプロジェクトです。NFTを獲得したあと、みんなで集まって見せ合うような文化があったりと、コミュニティをつくり、持続させる力がある。そこがNFTの強さと面白さだと思います」

FRMのNFTプラットフォーム「XYZA」上では、現代アーティストのコムロタカヒロ氏がエキシビジョン形式の「WORMHOLE」プロジェクトを実施

今やNFTは、アートを通じたコミュニケーションの新たなプラットフォームになっている。アートは、かつてのように鑑賞の対象ではなく、参加し、体験する場に変化しつつあるとも言える。

アートが持つ膨大なポテンシャル

織田氏も、「アートのハードルが下がった」ことで、その力を活用する可能性が広がっていると指摘する。

「XR技術によってアートをとりまくさまざまな境界線が曖昧になってきたと感じます。見る側と発信する側が二分化されていたこれまでとは違って、誰もが制作者でもあり、参加者でもあり、発信者にもなれるという、新しい時代が来ていると実感します」

髙橋氏も同様に、「スマホ一つで様々な情報が手に入って、アートの見方も簡潔に学べる今、アートと人との関係は近くなり、アートの領域がボーダーレスになってきたのはおもしろいと思います。今後、NFTによって持っている人の絆を見える化でき、つなげやすい規模のコミュニティをつくれば、まちづくりに活かしやすいと考えています」と語る。

ファシリテーターの渡邊氏は、自らが手がけたPsychic VR Labのリアルメタバースプラットフォーム「STYLY」を活用した、新潟市のXRプロジェクトについて紹介した。これは、無償公開された都市の3Dモデルや都市情報をもとに、地元の学生やアーティストが、現実の施設をXR上で拡張し、新たな体験価値を創造する取り組みで、アートによる新しいコミュニティづくり、誰もがワクワクできるまちづくりに向けて市民自らが参加し、自走できるプラットフォームになることを目指す。

アートが様々なレベルで身近になってきた今日、まちづくりにおけるそのポテンシャルと利用価値は、かつてなく大きくなっている。アートをどのようにまちづくりに組み込んでいくかについて、多くの示唆をもたらすセッションとなった。