早和果樹園 6次産業化で有田みかんの価値を高める

和歌山県有田市の早和果樹園は、みかんの生産だけでなく加工や販売まで一貫して行う、みかんの6次産業を柱とする農業経営に取り組んでいる。6次産業化を通じて、みかんの価値を高め、地域のみかん農家をサポートすると共に、みかん産地全体の持続可能な発展を目指している。

秋竹 俊伸(株式会社早和果樹園 代表取締役社長)

7戸の先進的なみかん農家が
立ち上げた早和果樹園

早和果樹園は1979年、有田市の7戸の先進的なみかん専業農家が立ち上げた「早和共撰組合」からスタートした。

「みかんづくりは戸別に行いますが、それらを集めて選別し、共同で出荷するのが組合の役割でした。それにより、東京や地方の市場で、より良い値段でみかんを販売できるようにしてきたのです。その後、7戸の農家から4人の後継者が出てきたことで、2000年に組織強化を目的に、有限会社早和果樹園を設立しました」と代表の秋竹俊伸氏は語る。

ところが、2002~2004年頃になると、みかんの価格が低迷したほか、2003年には気象の影響で有田地区の多くのみかんが傷だらけになり、市場への出荷が難しくなった。

「みかんは傷が多くても味は良いものなので、出荷できないのがすごくくやしかった。そこで、そのみかんをジュースに加工したところ、かなりおいしいものができました。それを機に、2004年からみかんの加工事業を開始し、2010年頃に本格化させました」

加工品では、まず2004年に濃厚みかんジュース「味一しぼり」を発売し、その後も毎年、新商品の開発を継続。小さいみかんをまるごとシロップ漬けにした「てまりみかん」や、果汁91%のみかんゼリー、ポン酢や化粧品など、数々の商品を生み出していった。

同社は2005年に株式会社に組織変更し、秋竹氏は2017年、2代目の社長に就任。社長就任時には売上は9億円程度に増え、60~70人の社員を抱える会社に成長していたという。

有田みかんのおいしさをそのまま活かした加工品

みかんの味わいをそのまま残す
チョッパー・パルパー方式

「私たちの加工事業では、他の地域のみかんではなく、有田みかんだけを使うのが1つの特徴です。有田地区はみかんの生産量で日本全体の1割以上を占め、みかんの栽培に適した土地なので、すごくおいしいみかんができます。そして、事業のもう1つの特徴は、チョッパー・パルパー方式と言われる搾り方です」

一般的なみかん果汁を使った製品は皮ごと搾汁するため、皮の油分が入って雑味が混ざることが多い。一方、チョッパー・パルパー方式では、1つ1つのみかんの皮をむき、薄皮ごと裏ごしするように搾っていく。

「チョッパー・パルパー方式は昔からのやり方で、現在もこの方式を取っているところは全国でもわずかです。皮をむく人手とともに、搾汁・保管コストがかかるので、皆あまりやりたがりません。しかし、有田みかんの味を加工品に残すにはこの方式が最適で、これによって、みかんをそのまま食べているかのような味わいになります」

左/早和果樹園のみかん農園。2011年からはクラウドシステムやドローンを活用したICT農業を実践 右/みかんの皮をむき、薄皮ごと裏ごしするように搾るチョッパー・パルパー方式

早和果樹園の売上高は現在、加工品が約8割を占めている。

「加工品では、みかんの皮も無駄にせず、乾燥させて陳皮(ちんぴ)として漢方薬の原料にしています。チョッパー・パルパー方式で出る皮が良いそうで、『漢方薬の原料にするために乾燥させて欲しい』という依頼があり、研究を重ねました。一昨年からは、出てくる皮の残渣のほとんどを乾燥できる仕組みにしました。私たちは『捨てない加工』と呼んでいますが、今は搾汁するというより、みかんを果汁と皮、薄皮などの素材にどう分けるかという感覚になっています」

加工によって有田みかんの価値を高めた同社の取り組みは、6次産業化の優良事例として評価され、2014年には「農林水産大臣賞」を受賞している。

「私たちは地元のみかんを調達して事業を行うため、地域との関わりは深く、地域と一体となって発展してきました。加工用みかんは通常、価格が安くなりますが、私たちは農家からできるだけ高く買い取れるように努め、今は従来の8倍か9倍の値段で買い取っています。研究開発を通じてみかんの価値を上げ、さらにみかんを高く買い取れるようにする、そういう循環を生み出していきたいです」

2023年11月に4年ぶりの
アグリファンフェスタを開催

一方、秋竹氏は社長就任以降、社内の組織マネジメントにも注力してきた。

「会社を継いだ当時、経営面ではとにかく加工品の販売量を増やそうとどんどんやっていた段階で、積極的な販売活動などで社員たちが疲弊している部分がありました。そのため、今後は組織マネジメントをしっかりやらなければ、特に若い世代はついてこられず、会社も成長できないと考え、外部への販売は極力抑え、既存事業をじっくり育てることに力を注いできました」

現在は、「社員に仕事を自分事化してもらう」ことに努めている。

「できる限り、皆がやりたいことをできる場を作り、新入社員にも積極的に店長やプロジェクトリーダーのような責任が大きい仕事を任せています。最終責任はこちらが取りますが、若手にもある程度の責任を早めに与えることで、成長してもらうことを目指しています」

同社は本社1階で加工品などを販売する直営店も運営しているが、今後、県外からより多くの人たちに訪れてもらえるよう、観光的な取り組みも始める予定だという。

「近く、会社の前に選果場を1つ建てる予定ですが、その横に売店を作り、みかんの直売を行う計画です。みかんは冬場3カ月程しか出ないので、残りの9カ月はオープンカフェを開こうとしています。社内では現在、その構想を皆でワイワイと進めているところです」

この11月には、コロナ禍で開催できなくなっていた、みかんの収穫体験イベント「アグリファンフェスタ」を4年ぶりに開催する。早和果樹園が年に1度だけ開催するファン感謝祭で、訪れた人たちはみかん畑の絶景を堪能しながら、同社が栽培した特別なみかんを自身で収穫し、食べることができるイベントだ。県外から訪れるリピーターも多く、2019年には約1200人が来場した。

年に一度開催する「アグリファンフェスタ」

「今後も事業は拡大路線を取っていきますが、みかん農家が減少していく中、将来的には有田みかんだけでどこまでやっていけるのかという思いもあります。全国の他の農業法人も色々苦労しているのが実状ですので、今後は有田地区だけでなく、農業界全体が良くなっていけるような取り組みや、手助けもしていければと考えています」

 

秋竹 俊伸(あきたけ・としのぶ)
株式会社早和果樹園 代表取締役社長