和歌山県・岸本周平知事 時代を先駆ける「聖地リゾート!和歌山」へ

2022年12月に新知事に就任した岸本知事。豊かな政治経験を有し、多様な県民との対話を通じ地域のあるべき姿を考え続ける中、脱炭素社会へのパラダイムシフトで、自然豊かな和歌山県がトップランナーになると確信する。和歌山の長所が活きる一次産業と観光産業の振興を柱に据え、挑戦を加速中だ。

岸本 周平(和歌山県知事)

――知事就任からすでに数々の方針を打ち出されていますが、優先的に注力している取り組みについて伺えますか。

私は、就任後から県内30市町村をまわって、タウンミーティングとして、各市町村単位で10人ほどの方々に集まっていただき、さまざまなお話を聞かせていただいています。そこでの意見も参考にしながら、県政運営における2つの大きな柱を立てています。

1つは、一次産業の振興です。和歌山県は、県土の8割を山地が占める半島で、農林水産業が盛んであり、特に、農業産出額の約7割をフルーツが占めるフルーツ王国です。また、水産業では、美味しい魚がたくさん獲れ、日本有数のマグロ漁船の基地がありますし、鰹節の発祥の地となったほど、カツオもたくさん獲れます。

これまで和歌山県には大企業が少なく、20世紀の経済成長至上主義の考え方では遅れた地域でした。しかし、脱炭素社会へとパラダイムシフトしたら、自然に密着して生きる我々は時代のトップランナーになるのではないか。そう考えて、農林水産業の振興に力を入れていきたいと思っています。

3つの「S」がコンセプトの
「聖地リゾート!和歌山」

もう1つの柱は、観光産業の振興です。和歌山県は、「日本書紀」や「古事記」にも登場する歴史と文化の地であり、神話の地名が今でもそのまま残る面白い土地です。このような和歌山の魅力を観光で売り出すために、知事就任後、まずはキャッチフレーズとロゴマークを刷新しました。新しい観光のキャッチフレーズは、「聖地リゾート!和歌山」です。ロゴマークには、他の地域にはない明確な魅力(=驚き)を表現するため、ビックリマーク「!」を加えました。「!」は、本県のさまざまな魅力を表現する際に、数や色を自由に変えられます。

キャッチフレーズの「聖地リゾート」は、これからの観光で重要だと言われる3つの「S」がコンセプトになっています。まず、高野山、熊野に代表される「Spirituality(精神性)」。2つ目は、SDGsにも繋がる本県の豊かな自然に象徴される「Sustainability(持続可能性)」。そして、豊かな自然から生み出される上質な「Serenity(静謐さ)」です。この3つが揃う和歌山は、古くから神々の棲む聖地であるとともに、訪れる人々を寛容に迎え入れ、その体や心を癒すリゾート地として親しまれてきました。それを「聖地リゾート!和歌山」というキャッチフレーズで表現しました。

高野山の奥之院にある御廟橋。橋を渡った先は弘法大師御廟の霊域になる 画像提供:和歌山県

2023年は弘法大師御誕生1250年として高野山に注目が集まりますし、2024年には紀伊山地の霊場と参詣道が世界遺産登録20周年を迎えます。また、2025年には大阪・関西万博が開催されます。この3年間を「ダイヤモンドイヤー」として位置づけ、たくさんの方に和歌山県へ来ていただき、上質なサービスを提供して、国内外に和歌山の魅力を伝えていきたいと考えています。農林水産業の振興と観光産業の振興。この2つの柱で県政運営に取り組み、地域の活力を高めていきます。

熊野古道・小雲取越の途中にある絶景スポット「百閒ぐら」。熊野三千六百峰が一望できると言われている 画像提供:和歌山県

深刻化する人手不足解消に
外国人労働者を現地でスカウト

――産業振興に対するお考えと具体策についてお聞かせください。

「まちづくりは人づくり」と言われますが、産業振興も人が重要です。現在、和歌山県も含めたすべての地方がそうだと思いますが、あらゆる業種業態で人手不足が深刻化しています。これからは外国人材を積極的に採用していくことを考えており、特に、特定の技能を持つ高度人材に活躍をしてもらいたいと考えています。もちろん、現在の技能実習制度には、さまざまな課題があり、日本政府もそれを変えようとしていますが、私共は、一緒に汗をかく仲間として外国人労働者を受け入れます。

そのために、本県では、外国人の雇用実績がある中小企業の意見交換会を開催し、情報交換を行うとともに、さまざまな問題解決のための取組を進めており、例えば、各企業が直接アジア各国等に出て行き、外国人を雇用させていただいています。私もベトナムへ行き、現地の大学を伺いましたが、ベトナムのホーチミンやハノイは所得水準が高くなっていて、なかなか日本に来ていただけません。しかし、ベトナムの地方の方々にとっては、和歌山県をはじめ安心・安全で文化的な魅力のある日本で働くことはまだまだ有意義だろうと思うので、そのような若いアジアの力を吸収することが、今後とても大事になってくるでしょう。

また、外国人労働者が増えれば社会にさらなる多様性が生まれます。文化や慣習、考え方の異なる人たちとチームになることで、和歌山県の人材も育っていく。そういう社会を目指したいと考えています。

一方、本県には大学が少ないこともあって、多くの子どもたちは県外に進学し、そのまま就職をしてしまいます。しかし、本県には100年企業と言われるような伝統と歴史を有する中小企業がたくさんあります。たしかに東京や大阪の企業に比べると給与水準は高くないかもしれませんが、住宅価格の安さなど可処分所得で比較をすると、利点もあり、生活の質は豊かになるのではと思います。

和歌山県全体が海や山や川に恵まれたリゾート地という、稀有な土地であり、恵まれた環境です。そのように考えると、子どもたちが和歌山で働くように勧めていけると思っています。

――ワーケーションも和歌山県が発祥です。実は最先端のものが色々ありそうです。

イギリスでワーケーションについて学んだ和歌山県職員が、南紀白浜を中心に日本で初めて取り入れ拡がり、今では南紀白浜はワーケーションの聖地になっています。現地では、単なる観光だけでなく、ワーケーションをしながらボランティアとして梅の収穫を手伝うというような活動も盛んに行われていて、地元の方々との親交も深まっています。

また、南紀白浜ではIT企業の進出が盛んです。ワーケーションや企業の進出が盛んになったのは、数年前に民営化された南紀白浜空港の運営会社が広報や宣伝に注力し、羽田から1時間で来られることが広く知られるようになったことも大きいと思います。南紀白浜空港周辺は、4頭のジャイアントパンダファミリーが暮らすアドベンチャーワールド、白浜温泉、西日本最大級の海鮮マーケットなど多くの人気スポットがある、とても面白い地域になっています。

左/南紀白浜の全景。白浜温泉は有馬・道後と並ぶ日本三古湯の1つ
Photo by Paylessimages/Adobe Stock
右/アドベンチャーワールドで暮らすジャイアントパンダの結浜 画像提供:アドベンチャーワールド

失敗を恐れず挑戦するワクワクを
最南端の町が最先端の町へ

――本州最南端の串本町では、宇宙産業の集積が進んでいるようですね

2022年1月に、スペースワン株式会社による日本初の民間小型ロケット発射場「スペースポート紀伊」が串本町に誕生し、今後初号機が打ち上げられる予定です。 小型ロケットは、大型ロケットに比べて打ち上げ費用が安く、打ち上げる高度も融通がきくため、産業の可能性もニーズも高いです。スペースワンでは年間20回ぐらいの打ち上げを計画しているようですが、それが実現すれば、ロケットの組立工場や部品工場など、ロケット産業の集積が進むであろうと期待しています。

日本初の民間小型ロケット発射場「スペースポート紀伊」 画像提供:スペースワン

また、来年は、地元の串本古座高校に宇宙探究コースを設置します。カリキュラム作成には、東京大学大学院工学系研究科の中須賀真一教授らにご協力いただき、講師として宇宙関係のベンチャーの方々も教えに来てくださいます。生徒は全国から募ることにしており、どのくらい応募があるかわかりませんが、オープンスクールは大盛況でした。

先日、串本町で開催した宇宙の専門家の方々にお集まりいただいたシンポジウムでは、宇宙に携わるのはエンジニアだけでなく、広報や法律などのさまざまな側面から携わることができるというお話がありましたが、話を聞いて目を輝かせている中高生の皆さんを見ながら、彼らが宇宙に興味を持ってくれると素敵だなと嬉しくなりました。

――知事はかつてシリコンバレーでスタートアップのリサーチにも参加をされたと伺っていますが、新事業や産業が生まれるために大切なことは、どのようなことだとお考えですか。

失敗を恐れないことです。日本では失敗はマイナスのイメージがあり、特に学校教育では、受験に失敗してはいけない、失敗するとあとがないと教えられます。そして、教科書や参考書を一生懸命覚えて「正解」を答えますが私自身の経験では、そうやって覚えた正解は社会人になった時にほとんど役に立ちませんでした。

一方、アメリカでは、答えのある教育ではなく、自分で問いをつくる教育をします。失敗も恐れません。シリコンバレーのスタートアップにインタビューをすると、みなさん自信満々に「たぶん失敗する」と答えます。そして、失敗した経験はキャリアの付加価値になると言うのです。特にシリコンバレーで失敗すると、その後転職した時に給料が以前の倍になるのだそうで、みんな失敗を恐れることなくチャレンジします。

挑戦すれば、失敗することがあるかもしれませんが、今、和歌山県には挑戦するワクワク感がある。失敗は付加価値であるということを和歌山県の皆さんとシェアして、失敗を恐れずに挑戦していきたいです。

企業との連携を強化して
脱炭素の最先端県を目指す

――和歌山県のDXへの取組や、AIの活用状況についてお聞かせください。

DXについては、利用者目線で設計をしていかなければいけないと思っていて、県庁をあげて取り組んでいます。AIについては、何を学習させるかによって答えが違ってきますので、どのように使えば良いか実験をしているところです。ただ、AIはアルゴリズムで言語を理解しているわけではありませんから、誤った答えさえも正解のように出すことがあるので、使う人が誤りだと判別できる分野で、事務作業を効率化するために使うことになると思います。 DXもAIも便利な道具として使いこなせるようにすることが肝心です。

――カーボンニュートラルに関して具体的な進展はありますか。

脱炭素の最先端県を目指しています。今年10月にENEOS和歌山製油所は製油所としての機能を停止し、その跡地で航空機燃料のSAF(持続可能な航空燃料)の製造を事業化する計画がありますが、SAFの原料となる廃食油やバイオマスには限界があるので、二酸化炭素と水素から合成燃料をつくる実証プラントを有田市に建設していただくようお願いしているところです。

もちろん、脱炭素の最先端県を目指すには、和歌山県の既存企業との連携が不可欠ですし、これから誘致する企業も、できる限り脱炭素の関係企業に注目してもらい、集っていただきたいと考えています。

脱炭素の世の中になって考え方が180度転換した結果、和歌山県は、失敗を恐れずに挑戦する、これから大変楽しみな県になっていきます。県民の気質はおおらかで、少しのんびりとしていて、何より誰でも受け入れる寛容性があります。皆さんに関心を寄せてもらい、移住・定住、二拠点居住の地として考えていただけたらと思います。

 

岸本 周平(きしもと・しゅうへい)
和歌山県知事